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サバイバル  作者: 清 涼
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第十九章(ニ)

第十九章(二)


 太陽の光のせいも手伝ってか、陽も傾きかけた頃、ようやく温かい肌の温もりを感じるようになった。

胸に耳を当てると、不規則だが、波打つ心臓の音が聞こえる。そして、幾分生気を取り戻した顔色からは、微かに息遣いが聞こえるようになっていた。

「良かった・・・」

紀伊也はホッと一息つくと、岩の上に広げて乾かしていた上着を取って司の体の上に置いた。

そして自分も司と一緒になって眠っていた事に少し苦笑すると、休まった体で大きな伸びをした。

どこからか甘酸っぱい果実の香りがする。思い出して微笑むと、Tシャツを着て、果実を採りに行った。

黄色い実を一つ採って歯で皮を剥くと、それをかじって顔をくしゃっとさせる。

強い酸味が口の中いっぱいに広がった。しかしそれもすぐに慣れ、甘味を感じると思わず笑みがこぼれた。

種を吐き出し、白い実を頬張った。

地面に落ちたちぎられた皮と種に昆虫達が集まる。

紀伊也はそれを見ると、足で踏み付けないように、けながら果実をもぎ取って、司の所へ戻った。

生きているだけでもありがたい。そう思うと、ホッとしたように息を吐いたが、気分的にも少し楽になったような気がしていた。


 これからどうなるのだろう


全くの不安がない訳ではない。むしろ不安だらけだ。紀伊也は空を見上げると、静かな密林の中で覆いかぶさるように降って来る不安をどう受け止めていいか分からず、深い溜息を付いた。


 辺りが薄暗くなった頃、ジャガーがむくっと立ち上がり、何処かへ行ってしまった。

紀伊也は気にも留めず、集めておいた枯葉に火をつけると、感心したように秀也のライターを見つめた。

「秀也はここにいなくても、司を守ってるんだな」

そして、服にこすり付けて汚れを落とすと、それを丁寧に磨き始めた。

時々、司の様子を伺う。少し苦しそうにしているが仕方がない。どうにも手のほどこしようがないのだ。

紀伊也は自分の右胸の内ポケットに入っている解毒剤を思い出してはいたが、飲ませる事が出来ないもどかしさに溜息をついていた。

ガサガサっと目の前の茂みが揺れたが、特に警戒もせず、戻って来たジャガーに一度顔を上げると、錆び付いていたサバイバルナイフの手入れの続きをした。

だが、ドサっと目の前に何かを投げ落とされてそれを見ると、思わず苦笑してもう一度顔を上げた。

「いいよ、さすがに食えないよ」

首を振った。

見れば小さなカピバラだ。紀伊也の為に狩りをしてくれたのだろうが、さすがに遠慮してしまう。

「これからどうなるか分からないんだ。お前が食べておけ」

そう言うと、ジャガーは少し怒ったように歯を見せたが、再び紀伊也に首を横に振られ、仕方なくそれを自分の前に運ぶと食べ始めた。

「お前は優しいんだな。まるで・・」

言いかけた時、ハッとして司の方に振り向いた。うめき声を上げるようにはぁはぁ言っている。

ナイフをしまうと慌てて傍に寄った。

「司っ!? どうした、苦しいのか?」

眉根をぎゅっとこわばらせ、吐く息が苦しそうにあえいでいる。額に手を当ててギョッとしてしまった。

恐れていた事が起こってしまったのだ。

特異体質な司が発熱すれば大変な事になる。一気に高熱を発してしまい、それが続くと挙句、持病の心臓発作を起こしてしまうのだ。

これが東京にいれば主治医のみやびに任せる事が出来るし、欧州にいればユリアに診せる事が出来る。それが出来なくても現代医学においては薬で処置をほどこす事が出来るのだ。

しかし、今はアマゾンの密林の真ん中だ。しかも何処にいるのかさえ分からない。

頼るは自分の特殊な能力だけだ。それか、

「聖なる水」

思わず声に出していた。

伝説の中に存在する聖なる森の水は全てにおいて治癒力を出す。

現に聖なる泉の水は、司の傷を跡形もなく治したのだ。それに、自分達の体も何事もなく生きている事が出来たのだ。

自分の能力も限界に達し、治癒力も送る事が出来ないとなれば、このまま司を放っておく事しか出来ない。待てば容態が落ち着くとは限らない。それに、あのヤニ族の村で毒水を飲まされ続けていたとすれば、仮に紀伊也の治癒力を送ったところで、治す事は到底不可能だ。

「行くしかないのか・・」

司の熱くなった首筋に手を当てると呟いた。




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