第十八章(一)
第十八章(一)
血を吐くような自分の叫びにハッと目が覚めた。
起きた瞬間ドキドキしている。
視線が彷徨い、呼吸を何度か整えようとした。
だが、なかなか落ち着かない。
はぁっ はぁっ ・・・
胸に手を当て、もう一度呼吸を整えた。
ジャランと音がして首に巻かれた鎖が揺れる。
「夢、か・・・」
それにしては余りにリアル過ぎた。
あの日の出来事がそのまま思い出されたようだ。あの火葬場で、視たくて視た訳ではない。無意識の内に透視していたのだ。
もしあの時、SP達に混じって紀伊也が駆け付けてくれなければ、恐らく亮の肉体が燃え尽きるまで視てしまっていただろう。
思わずゾッとして息を呑んだ。
シンラが炎に包まれたあの時の映像が甦ると、それに亮の姿が重なってしまう。
「わぁぁぁっっ やめろーーっっ ・・・」
激しく首を横に振ると叫んでいた。
半狂乱になった自分を抑えるように両手で頭を抱えると、折り曲げていた膝の間にその頭を埋めた。
だが、激しく震える全身を止める事が出来ず、震えながら体を硬直させていた。
どれ程の時が経ったのだろう。
ふと目の前に誰かの人間の影に気付いて恐る恐る顔を上げた。
視点が合わずその人影がぼやけて映った。だが、その体が裸ではなく、服を着ている事に気が付くと、少しホッとして視点を合わせようと更に顔を上げた。
が、不意に顎を持ち上げられた。
「お前が女だったとはな」
何処かで聞いた事のあるスペインなまりのポルトガル語だった。
え?
ハッとしたように目を見開いて息を呑んだ。
いつもなら目の前で少し満足そうにニヤついているその顔を見た瞬間に、その顔目掛けて唾を吐き付けていただろう。
だが、今の司にはそれすら出来る余裕がなかったようだ。
何処かで見覚えのある顔にすぐに思い出す事も出来ず、しばし彼の顔を見つめていた。
「もう覚えてもないだろう。あれから1ヶ月以上も前の話だ。しっかし、よく生きてたなぁ。とっくにお陀仏だと思っていたが、運のいいヤツだな。けど、これでまた仕事が増えちまった」
男は忌々しそうに短いくしゃくしゃの赤茶色の髪を掻き毟ると、司の顎から手を離した。
その瞬間、ようやく思い出した。
「お前、あの時の・・・っ」
通訳と名乗っていた男だった。
自分達をだまし、別のルートへ連れて行った、あの時の通訳の男だ。ガイドの方は太古の森の入り口が開いた時、サーベル・タイガーに殺されてしまったのだ。
司は思い出したとたん、表情がなくなり、琥珀色の瞳だけが怒りに染まって行った。
「まぁ、そう怒りなさんなって。それにしちゃ、驚いたぜ。お前さんがあのムーン・デライトの社長の一人娘だったなんてな。それに光月総太郎の孫とくりゃぁ、この世界でその名を知らないヤツはいないだろうよ。俺も運がいいな」
そう言ってふんと鼻を鳴らすと、悩ましそうに司を眺め回した。
身内の名が出た事で少し警戒した司だったが、そんな事は今はどうでもいい。
その目が気に食わない。
一度冷たい視線を向けると、ふんとそっぽを向いた。
これ以上赤茶けた汚れた肌に無精ひげを生やしたこの男の顔を見ているのは耐えられなかった。