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サバイバル  作者: 清 涼
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第十七章(ニ)

第十七章(二)


 陽も高く上った頃、大きく左右に揺れていた車の荷台も上下に少し揺れる程度になって来た。

山道を下り終えたのだろう。

いつの間にか眠ってしまっていた晃一も再び目を覚ました。さすがに眠り続ける事は何かの緊張が拒むのだろう。恩田を除く全員が目を覚まして起きていた。

 ブロロ・・・

エンジンの音が静かになり車が止まった。バタンバタンとドアの閉じる音が聞こえ、男の話し声がする。しばらく話していたが、それが止むと足音が近づいて来る。

ガバっとホロが開かれ、一人の男が顔を出した。


 ?


どこか懐かしいような顔だ。何となく全員の緊張の糸が緩んだ。

「皆さん大丈夫ですか? 僕はハヤシと言います。日系人なんで日本語は大丈夫ですよ」

「おお」

何だか久しぶりに聞く日本語のような気がして皆が感嘆の息を吐いた。それに、何か救われる気分だ。

「今からあちらの車に乗り換えてもらいます。そのまま首都のボゴタまで向かいますが、2日程掛かると思います。ただ、申し訳ない事に途中で宿に泊まる事は出来ません。実はあなた方の捜索は既に打ち切られているのですが、影で懸賞金が掛けられているんです。だからあなた方が他に知られるとマズイのです。いいですか、必ず僕の指示に従って下さい」

そう言ってホロの端を引っ掛け、外に出るように促した。

一人ずつ外に出る。

眩しい太陽の光を浴びて思わず目を細めた。

熱い筈の光が何故か温かく感じる。高地にいるせいもあるが、体に入って来る空気が心地よい。それは常にしいたげられていた得体の知れない恐怖と緊張から解き放たれたからだろうか。

「これで全員ですね」

ハヤシがアランと共に恩田を抱えて荷台から降りて言った。

「はい」

皆が頷く。

そして用意された大きなキャンピングカーに次々と乗り込んで行った。

「じゃあ、閉めますよ」

ハヤシがそう言って外からドアを閉じようとした時、「ちょっと待った!」と、慌てたように晃一が奥から大きな声を上げた。

再びドアが開き、ハヤシが顔を出した。

「どうかしましたか?」

「紀伊也はっ!? 紀伊也はどうしたんだよっ!?」

ハッと顔を見合わせるスタッフを押しのけると最後部のドアをガッと掴んだ。

「紀伊也だよ、一条紀伊也。 ほら、こうもっと色白で薄情そうな顔して・・」

「あなたが晃一さんですか?」

この上なく不安で興奮気味な晃一に対して、紀伊也と同じように表情を変えずに冷静に言った。

「一条さんから伝言を預かっています。 皆を頼む、と」

「え?」

「一条さんは最初から車には乗りませんでした。数日前に近くの村で“狩り”があったんです。それで自分は光月さんを助けに行くからと。止めたんですがダメでした。だから光月さんは自分が連れて帰るから晃一さんは皆を連れて帰れ、と」

ハヤシの言葉を聞きながら打ちひしがれたように黙ってしまった晃一に、ハヤシは最後に付け加えた。

「信じましょう、あの二人を」

ドアが閉じられ、鍵を掛けられると晃一はどっかり座り込んでしまった。

「マジかよ・・・。 ばかやろうが・・・」

そう呟くと両手の拳をぎゅっと握り締めて唇を噛み締めた。

あれだけ薄情にも司の事は心配するなと言い続け、自分達をここまで導いてくれた紀伊也が一番心配していたのは司の事だったのだ。

それに、自分達が5日も掛けて歩いたあの道をまた引き返し、司を助けに行くなど無謀な事だ。紀伊也とて、もう抵抗する力さえも残っていないのではないか。

しかし、最初から車に乗らなかったのは、最初からそのつもりで自分達を助け出したという事だ。司も紀伊也も最初からこうなる事はわかっていて自分達を救ってくれたのだ。

それに、もしかしたら勘の良い司の事だ、恩田が最初からあそこに居た事も知っていたのではないだろうか。仮に、偶然にもあの村に近づいたとしても、危険な部族だと知っていたなら避ける事は出来た筈だ。それなのに捕まってしまったのは、恩田をも助ける為だったのだろうか。

揺れ動く車の中で、晃一は恩田を見つめたまま、今までの信じられないような二人の行動を思い起こすと、涙が溢れて止まらなかった。


 生きて帰って来んだろうなっ!?


心の中でそう叫ぶと顔を覆った。



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