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日本、政治家ガチャ実装

作者: 橘圭郎


 20XX年、高齢者の政治への不信と若者の政治への無関心は進み続け、政治なんか誰に任せても同じだという意見が世論を占めていった。結果として日本の選挙投票率は低迷を極め、とうとう消費税率を下回った。


 無駄だから。

 面倒だから。

 興味ないから。



 これらの民意を受けて政府は、ついに「政治家ガチャ」を実装した。



 投票先をランダムで決める、とても簡単に、楽しみながら国会議員を選出できる画期的なシステムである。しかも「政治家ガチャ」を回した者には、好きなゲームの課金に使えるポイントが配布され特典つきで、若者たちの関心を大いに高めた。


 初回に限り10連続が可能だったため、その年の投票率は前人未踏の700%を超えた。この結果に政治家たちは、大成功だと万歳三唱をした。


 はじめは特典として貰えるゲームポイントのために「政治家ガチャ」を回した若者たちだったが、いざ自分の引いた候補者が当選すれば喜び、片や落選すれば苦い思いを共感した。きっかけはどうあれ、若者たちはガチャで引いた政治家に愛着や興味をもつようになり、そこかしこで推しの政治家の魅力を伝えるべく論議を盛んにしたのである。


 また高齢者たちは、せっかく貰ったゲームポイントがもったいないからとゲームに手を出し、めくるめく手軽な楽しさに魅了された。老後の蓄えをじゃぶじゃぶ注いで、底なしの課金沼に足を踏み入れるのに時間はかからなかった。


 高齢者が歩きスマホで徘徊し、若者が腰を落ち着けて政治討論をする、新時代の幕開けだった。


 


 しかしいつしか「政治家ガチャ」のシステムに疑いの目が向けられるようになった。

 どうせやっても、だったらランダムで……という謳い文句だったはずなのに、ガチャ実装前と与野党の議席数比が変わらなかったからである。

 つまり、排出率に偏りがあるのではないか。運営の都合がいいように確率や結果を操作されているのではないか。自分たちは騙されているのではないか。


 このままではまた国民の不信感が募ってしまう。また冬の時代に戻ってしまう。それを危惧した政府はただちに表示と改善を約束した。政治家たちは、自分が真っ当な政治的同意を得て選ばれたのではないことを分かっていたため、国民に対して何も強く言えなくなっていたのだ。

 そうして「政治家ガチャ」は公正化され、あらゆる立候補者が同じ排出率になるよう設定された。代わりにピックアップ機能を同時に実装した。希望の政党の候補者が出やすい「政党ガチャ」。未当選候補者が出やすい「逆転ガチャ」。その他にも「タレント議員ガチャ」「二世議員ガチャ」「地元応援ガチャ」も設けられた。


 ただしこれらのピックアップも、あくまで排出率に多少の上方修正が加えられているというだけであり、期待したところで推しの政治家が出ないこともある。

 すると国民はより一層、自分たちの希望が叶わないことに不満を覚えるようになった。もはやゲームの特典ポイントなど、どうでもよくなっていた。

 ちまたでは、こうすれば狙った政治家をガチャで引けるとしてオカルトじみた方法がいくつも話題になっていた。特に、推しの政治家を描けば出るというジンクスは根強い人気があり、SNSやイラスト投稿サイトなどでは政治家の肖像がランキングを独占した。


 衆議院が解散すれば、国民は万歳三唱をした――やった。これでまたガチャを回せるぞ!!




 やがて国民は、選挙のときに一人一回では飽き足らなくなった。


 そしてついに捨て戸籍(サブアカウント)を作って複数回ガチャを回す裏技が横行するようになった。闇取引によって戸籍がねつ造、複製、売買され、投票率は200%超が常態化した。

 少子化が止め処なかったにも関わらず、戸籍上は、日本の人口は三億人を越えた。


 さすがに危機感を覚えた与党は「政治家ガチャ」の廃止法案を提出したが、これに野党は一丸となって肩を組み、国民の声を後ろ盾にして阻止した。この「政治家ガチャ」であれば、必死に選挙活動を頑張るよりも、ずっと簡単に政権をとれるチャンスがあるからだ。




 弱小野党として長年苦渋を味わわされてきた大日本天狗党が、まさかの歴史的逆転勝利を収めた。

 しかし彼らは与党の邪魔をすることばかりに目を奪われ、ろくに活動をしていなかったので、いざとなっても自信をもって執政することが出来なかった。


 そこで大日本天狗党は「政策ガチャ」の実装を決断した。


 運を天に任せた舵取りは、ことごとくが大当たりだった。失業率は-5%を打ち出し、改善した出生率は戸籍上の人口三億八千万人を記録させ、大陸や大洋を越え外国の資本を食い潰す勢いで成長する日本の経済は「イナゴ景気」と呼ばれた。




 いつしか日本は外国から強烈苛烈なバッシングを受けるようなり、引くに引けない大日本天狗党は強攻策ピックアップ機能を通した「政策ガチャ」の結果、軍事的政治交渉手段に踏み切った。


 「作戦ガチャ」と「兵器ガチャ」が同時実装された。


 回すごとに飛び交う、ミサイル、戦闘機、流言飛語……。そして上がる税率。

 国民への負担を確実に重くするものであり、型落ちの兵器ばかりが連続して出たときこそ懐疑的批判的な意見も噴出したが、スーパーレアの航空母艦が出たときの熱狂は反対派を黙らせるのに充分だった。

 ついでにありふれた戦闘機も、二機を合成して+に強化し、さらに+同士を合成して++にまで強化すれば立派な戦力となった。

 

 どんなに戦況が芳しくなくとも、逆転の一手をガチャで当てさえすれば敵国に勝てる。誰もがそんな幻想に取り憑かれていた。そして実は、その幻想は敵国にも蔓延していたのだ。




 某国が「禁断の兵器ガチャ」を解禁したとき、日本を含めてどの国も、防衛能力の覚醒や限界突破の機能を実装できていなかった。



   *



 一隻の宇宙船が地球を訪れた。乗っていた宇宙人たちは、殆どの生物が死滅した後の地球を見下ろして、吐き捨てるように言った。


「なんだよ。せっかくの惑星ガチャ、やっとレア引いたかと思ったら地球かよ」

「環境が変わって、今じゃ産廃だよな」

「まったく、レア度詐欺じゃねーか」


 腹立たしげに宇宙人たちは、次なる「惑星ガチャ」M44星雲ピックアップ期間限定キャンペーンのために、いそいそと去っていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 二世議員ガチャは笑いましたw 私も美人彼女ピックアップガチャでもあったら11連回したいです (笑) [一言] アイデア勝負の良作ですね! 他の作品も頑張って下さい!
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