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1000年かけて、貴方を殺せる喜びを  作者: 片道切符
【序章】
1/32

20☓☓年 100回目の人生を

この世は地獄だ。少なくとも、僕達が産まれてからはずっと──。

生きる事は苦しい。少なくとも、私達が産まれてからはずっと──。


だけど、僕達は、私達は──。

それでも生きたい。

 

20☓☓年、東京。


「さあ今日も、皆さんで神様にお祈りをしましょう。日々の糧を頂けることに感謝して、アーメン」

 それはいつもの挨拶、一日が始まるサイン。朝の光が漏れるのびやかな教室の中、誰もが席について両手を重ね、十字架に向かって祈りを捧げている。

 その様子を僕は教室の外、中庭のほとりで眺めていた。


 ここは正式名称で聖パウロ国立高等学校。その名の通り、ミッション系国立高校、小中高一貫の学校だ。

 ミッション系の学校ではあるが、意外にもこの高校で神を信じてる人は少ない。勿論それにはいくらかの理由があるのだが、およそ大別するなら2つだろう。


 一つは小中高一貫ながらそれまでに放校される者も多く、高校から外部生を多く受け入れている事。

 もう一つは、ミッション系らしく慈善事業として孤児院を抱えており、()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 国は世の不憫な子供達の受け皿としてこの学校と孤児院を設立したのだと言う。だが、寄る辺もなく生きる術も持たない不憫な子供達が最後に行きつく所が楽園などである筈はなく、そこはやはり地獄なのであった。どんな粗末な扱いをしても頼る相手の居ない子供達。悪意のある大人達からしたら、それはどれほど魅力的に映ったのだろうか。

 かくして()()されることなく大人になった子供達に、今更神を信じる心など宿るはずは無かった。それだけの話だ。


 とはいえそこは寝る所には困らず、神様の使いとやらの機嫌を損ねなければ食事もそこそこ保証されていた。僕の感性で言えば、勝ち取るのではなく与えられる幸せとしてはまぁ比較的妥当なものだったように思う。僕も同様に孤児として施設の世話になりありきたりの地獄を味わったが、他の子供たちと異なり残念ながら神の存在を疑ったことはない。

 そもそもとして僕の人生は大概、こういうスタートなのだ。


御堂(みどう) 輪廻(りんね)】。

この人生において、僕はそういう名前になる。



 ミッション系の学校にいることの利点は僕にとってたった1つだけ。それは礼拝堂の存在だ。

 今日も、中庭にひっそりと佇む誰もいない礼拝堂を訪れる。教室でみんな並んで神様へお祈りなんて、そんなのは御免だ。祈りというのはひとり静かに行うものだと僕は思う。そんなに大勢で祈ったら、大事なお願いも他の願いに飲まれて混ざってしまうかもしれないじゃないか。

 これは僕のいつもの日課だ。僕はいつだって神へのお祈りを欠かす事はない。女神像の前に傅き、心のなかでいつもの祈りを唱える。


(くたばれ神様。)


 バカ、アホ、マヌケ。

 僅かばかりの悪意を必死に育てて、精一杯の罵詈雑言(ばりぞうごん)を届ける。僕だけの大事な思いのたけを。


 実のところ、礼拝堂が神への願いを届ける場所なんてのは嘘だ。そもそもここはそういう作りになっていない。教会の権力の象徴は長い時間をかけて神の意向から遠く離れ、独自の信仰とも言える新たな規範(きはん)を作り上げた。いい仕事をしたものだと心底思う。ここは神の目も届きはしない信仰の外側の土地。すなわち、ここは神の似姿を前に悪態を貫いても()の耳には入らない、世界の片隅のような場所なのだ。

 礼拝堂は静かで良い。お気に入りの場所だ。溜飲も下がる。


──ギィ...。

不意に、重い扉の開く音が響く。


──カツン、コツン。

足音が聞こえる。

誰かが扉の前に立っている。


 こんな早朝に礼拝堂を訪れるものが僕以外にもいる、それは滅多にないことだった。信仰心などまるで持たないこの学校においては。

 ゆっくり振り返る。──眩しい。朝の光が扉の隙間から放射状に入り込む。

 薄明光線(はくめいこうせん)。こういう光の入り方をそう呼ぶ。正確には雲の切れ間からの陽光なのだけれど。

 放射状に走る光の線、とてもきれいで僕は好きだ。


薄明光線、またの名を天使の梯子(はしご)───。


「あなたが、御堂 輪廻さんですか?」


 光の中心で誰かが口を開く。逆光で顔はわからないが、声からして女性。

 だが、しかし──。


「私はアナスタシア。天啓を受けてここに参りました」


 分からない、見たことがない。



「──貴方を殺します」



 魂は輪廻する。肉体は命の有り様によって様々な変化を示すが、魂の有り様に違いはない。


 だが、少なくとも僕の1000年において、

 このような形の魂は知らない。











──1000年前、ここでない何処か──。



 その日、神と呼ばれる何かはこの地上に奇跡を起こそうとしていた。神性を備えた女性...【巫女】に奇跡を宿し、地上に救いと信仰を齎せるのだ。

 1000年に一人の奇跡とされる【巫女】は己の運命を悟り、静かにその時を待っていた。お腹に宿った命に奇跡が灯るその日を。

 そして確かにその時、奇跡は起きていた。それは凡そ5万〜20万に1回の奇跡。【巫女】の腹に宿った、1つの体に2つの命、2つの魂という奇跡が。

 そして【巫女】は、初めて神を恨み、悪魔を望んだ。


 それが1000年に渡る、たった二人の終わらない殺し合いの始まり。

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