俺の社畜ライフの終わり。
もうすぐ夏が終わろうといく季節。昼は暑く、夜は寒いとう夏とも秋ともいえる季節。
住宅街の片側一車線の道路を白い軽自動車が走行している。
運転しているのは目が死んでいる男で、眼鏡をかけており、上方は七三分け風な感じで真面目な雰囲気を醸し出している。
体格は良くも悪くもないといった印象で立ち上がればおおよそ175センチくらいであろうと思われる。
男がふと車のナビに目を呉れると現在の時刻、2時を指しているのを確認するとため息を吐き、独り言をつぶやきだした。
「もう2時か…。明日…というか今日も6時に起きなきゃイカンから帰ってすぐ寝よう」
そう言うと大きくため息を吐く。
「今日あげなきゃならん仕事が10件…そして明日の分も前倒ししなきゃ終わらん…。こんな無理な予定組みやがった上司め…」
そう恨み言とも言える独り言をつぶやいているとポケットから音楽がなりだし、太ももを刺激する振動が伝わってきた。
男は電話か…とつぶやき、運転中に電話に出ると道路交通法違反になるので、ハザードを焚き、車を停止させる。
携帯を取り出し、ディスプレイを眺めるとそこのは【上司】と表示せれており、男はため息を再び吐き、ひと呼吸おいて電話に出た。
「もしもし、三浦です。お疲れ様です」
一人しかいない車の中で軽い会釈をする。そして電話の向こうから軽いため息が聞こえ、少し経つと声が聞こえだした。
『三浦寮君?お疲れ様。高橋だけど少し時間いい?』
「はい大丈夫です。それでご用件はなんでしょうか。」
俺は少し嫌な予感がしつつ、電話向こうの上司からの返答を待つ。
電話向こうから再びため息が聞こえ、予感が徐々に確認に変わりつつあった
『今日対応したお客様から電話が入ってね。君が担当したお客様なんだけど、どうもあまりよろしくない話だった。』
そう告げられ俺は息を呑み、上司からの話の続きを伺う。
『朝に詳細を伝えるつもりだが、大分ご立腹のご様子だったから誠意を込めて対応するようにな』
そう言うと上司は『では』といい電話を切った。
…仕事行きたくねぇ…とため息を吐く。
自分のミスとはいえ、憂鬱である。
ここでいつまでも路上停車していても時間の無駄なので車を走らせた。
対向車線のすこし遠くからハイビームの車が近づいてくるのが分かる。
よく見るとトラックということが分かる。こんな時間まで大変だなと思いながら自分の車を走らせていると、
左の歩道から人影が写った。その人影は徐々にでかくなり、20メートル先ほどの車道の上に写る。
俺の車のライトにより、照らされた影は人影ではなく人そのもの…人!?
そう、人が急に車道へと飛び出してきたのだ。
気付いた瞬間。条件反射的にハンドルを右に切り、フルブレーキをかける。
分かっていたのかいなかったのかその瞬間、急に飛び出してきた人はこちらを見る。
それは銀とも白とも言える髪の色。ショートヘアーの少女だと思われる姿であった。
その少女と思わる人は車道の全体4分の1ほどの場所で止まったのでなんとか回避できた。が…。
緊急回避した自分の車は反対車線に居る。そして僅か数十メートル先に先ほど見えていた反対車線を走行しているトラックが目に入った。
ヤバい!死ぬ!!そう感じた瞬間、自分の感覚以外スローモーションになった気がした。
人間は本気で死ぬと感じた瞬間、脳がフル回転し、スローモーションになるような感覚になると聞いたことがあった。
俺、三浦寮もこの状況から助かる方法を全力で考える。
ハンドルを再び左に切る…無理だ。自分が直進状態からなら何とかなったかもしれないが、緊急回避後の自分の車の車重は完全に右に傾いている。そこから左に切り返すのは物理的に不可能である。
ならば更にハンドルを右り切り、歩道へ乗り上げて回避をする方法。しかしこれも無理だ。
不幸にも住宅街に接している道路は、自分が走っていた左側には歩道はあったが、右側には歩道がなく、ブロック塀になっていた。
となれば後はブレーキをかけ続け、自分の車を停車させトラックが停止或いは回避、場合によっては衝撃を弱める位しか出来ない。
それも絶望的な事にトラックの速度は住宅街を走っているとは思えない速度だと確信を持って言える。
トラックは速度が出ているほど止まれないし、回避できない。強度もあるし乗っている荷物の重量と速度によって破壊力をより増す。
軽自動車如きが、トラックと正面衝突すれば間違いなく助からない。
もうすぐそこまで迫ってくるトラックに出来る事はもはや、神に祈るしかない。
ブレーキを踏む足と、ハンドルを持つ手に最大限の力を込め、瞼をギュッと閉じた。
もう俺が出来る事はこれぐらいしかない。
ふと左の後ろドア辺りから音がした気がした。そして瞼を閉じて居たにも関わらず目の前が一瞬真っ白になった。
トラックのライトであろうと予想し、覚悟を決めた。
そしてすぐ俺の車が完全停車したのが感覚で分かった。が、数秒たってもトラックと衝突した衝撃らしきものが来ない。
俺死んだのか…?しかし力を込めた腕と足の感覚はまだある。もしかしたらギリギリでトラックが回避したのか。外から風が吹く音がした。
それを確かめるべく、瞼をそっと開けた。
車の硝子越しの外からは、異様に明るい光が差し込まれていた。
その光が眩しく、目が慣れるまでに数秒掛かった。どうなったのか様子を見るべく、辺りを硝子越しに見回す。
辺り一面少し長く伸びた草が風になびかれていた。空は透き通ったように青く、遠くの方は緑の山や森が見える。
硝子越しに見えるその景色は、まるで四方に綺麗な美術作品が飾られているようだった
何が起こったのか全く把握できない俺は、口をアホみたいに開け、目を大きく開き、息を詰まらせる事しか出来なかった。