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妖話舞闘会  作者: 風紙文
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赤く光る

そこは暗いようで明るく、狭いようで広い場所。

上を見上げても太陽のような光源が見当たらないにも関わらず周りがよく見え。遮蔽物の無い平坦な地面が続くことで距離感がいまいち掴めない。

そんな場所で、対峙する2人の姿があった。

共に女性で、片方は両手で槍を持ち、銀色の鎧を身に纏った。どこかの王国の兵士のような姿をしていた。

もう片方は、手には何も持たず、綺麗なドレスに身を包んでいる。

腰まで届く長い茶髪、橙色のドレスに、足には赤い靴と全体的に明るめで。こちらはどこかの街の貴族の娘のようだ。

この2人、現在対戦の真っ最中なのだが、優勢なのはやはりというか鎧を纏った方であった。

「はははっ! やはり戦況はこちらが有利のようだな」

鎧の女性が槍を突く。赤い靴の女性は大きく後ろへと下がった。

長いスカートがはためき、赤い靴がキラリと光る。

「なんなら降参しても良いんだよ、お嬢さん?」

「……なるほど、ここはこうなりますか」

鎧の女性が問いかけるも、赤い靴の女性は何か考えているようで返事は無い。

「よく分かりました。では、お願いします」

この言葉も、鎧の女性に向けられた言葉ではなく、

「はいはーい、お呼びかなー?」

呼び出された狂った帽子屋が、どこからともなく現れた。




―――時は、赤い靴の女性がこの舞台に降り立った所まで戻る。

ここへと連れてきた狂っている帽子屋、兼このブロックのまとめ役という者が、

『まーずは、アナタの名前を聞いてもいいかなー?』

『名前ですか? アッシュ・シンクと申します』

女性の……アッシュの名前を聞いてからブトウカイのルールを説明した後、最後に、

『参加者には一つ特殊な能力を貸す事が出来るんだけど、なーにがいいかな?』

『特殊な能力?』

『飛び道具の無限化とかー、新しーい武器とかー』

『それらは特に要りませんね』

『あーとは、枷になってる身体的特徴のカバーとーか』

『身体的特徴……』

アッシュは考えるように顎に手を当てるも、

『そう言われましても……特に思い付きませんね』

特に思い当たることがなく。

『ふーん、じゃあ保留でいいかな? もし決まったら呼んでくれれば、行けたら行くからさー』




―――という事があり。

「決まりましたよ、参加者に渡すと言われているものが」

「ほーぅ、それは何かーな?」

アッシュはドレスの裾を両手で持って広げてから、伝えた。

「衣装の交換、はどうでしょう?」

「ほぅほーぅ、面白いこと考えるねー、どうしてそうしたいんだーい?」

「今動いてみてよく分かりました。やはり激しく動くにはこのままでは制限がありますので、その時に合わせた衣装への交換……いえ、自由な変更をお願いします」

それを聞いた帽子屋は、それは面白そうにケタケタと笑った。

「おっけーおっけー、それじゃーあ、衣装の変更。ソレを能力としてお貸ししましょーう」

帽子屋が何かを放り、アッシュはソレを受け取った。

ソレは、数本の針が刺さった針山。針自体は銀色だが、針の頭からストライプ柄の針山まで全ての鮮やかなカラーリングは、この帽子屋が持っていたとよく分かる裁縫道具だ。

「キミの願ったとおーりの、衣装に変更するようになっているかーら。コレで頑張ってねー」

「はい、ありがとうございます」

お礼を聞いた帽子屋は消え去り、手に残った針山を握ると、

「お待たせ致しました」

今まで待ってくれていた鎧の女性へと向き直った。

「は、ははっ、何かと思えば、貸し出し能力が服の交換とは」

急にまとめ役が現れたからビビって動けなかったと悟られないように虚勢を張り。

「流石はお嬢さんといった所かな、こんな時にまで衣装の心配とは!」

槍の切っ先をアッシュへと向ける。

「やはり戦いには向いていないな! 大人しく降参するといい!」

「いいえ、降参は致しません」

しかし、アッシュは全く怯まない。

「これでようやく、動きやすくなりますから」

針山から針を1本抜き、ドレスのスカートに刺す。

次の瞬間、スカート部分が光の帯となって形を変えた。

膝下までのスカートは膝上までのキュロットに、余った布部分なのか、更に腰からマントのように垂れ下がる。

まさに普通は出来ない特殊な能力だが、鎧の女性が驚いたのはそこではなかった。

「なっ……何だ、ソレは」

今までスカートに隠れていたアッシュの白い脚……但しそれは、足首まで。

「まさか、その足で今まで動いていたというのか!?」

赤い靴に覆われた足。時折キラリと光って見えたのは、靴本体か、装飾とばかり思っていた。

だが違った。アッシュの足そのものが……銀色の義足が光って見えていたのだ。

「はい、そうですが……?」

最早自身にとっては当たり前の事である、義足での動きに驚いている鎧の女性に対して、キュロットの端を摘まんで軽く会釈をし。

「半生を共にしたこの足を、不自由に感じることはもうありません」

足のつま先で地面を叩く、コンコン、という硬めの音が鳴った。

「さぁ……仕切り直しといきましょう」

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