プロローグ C
光を浴びて輝くステンドグラス。大きな木製の十字架。それ等を中心に建てられたここは、村外れの教会。
村外れということで人はあまり来ず、牧師でさえ家は別にあるので無人となる時が多く。祭り等で使う前日位にしか掃除しないこともある程だ。
そんな祭事の際くらいしか人が集まらないこの教会には今、女性が1人だけ祈りを捧げていた。
うっすら埃の積もった床にも関わらず、綺麗なドレスを着た姿で膝を付いて熱心に祈りを捧げている。
「……」
他に誰もおらず、ちょうどステンドグラス方向から差し込んでいる光に照らされているというこの状況、どこか神々しくも見えて……
「そーんないるかも分からないものよりも、もーっと分かりやすいものに願ってみないかーい?」
そんなムードをぶち壊す声が教会内に響いた。
「……誰ですか?」
女性は立ち上がり、振り返って見た声の主はその言葉使いよりも異様な姿をしていた。
服装そのものは上下共に揃った紺のスーツ。その左手に、何故か右肩に、どうしてか左肘に、そして頭の上に、それぞれ色形の異なったシルクハット、全て値札が付いている。
例えて言うのなら……自らの商品を自らに並べている、狂っている帽子屋、とでも呼ぶべきか。
そんな帽子屋はケタケタ笑いながら女性に近付いていく。
「ほんとーうに願いを叶えたいと思うんなら、いーい所に連れて行ってあげるよー?」
「いい所、ですか?」
「そのとーうり、たーだーしー……コレに対処できたらねー!?」
帽子屋は頭上のシルクハットを投げつけた。真っ直ぐと向かってくる帽子に対して、女性は、
「分かりました」
ドレスの裾を翻し、赤い靴に包まれた足でシルクハットを蹴り飛ばす。
教会の壁にぶつかったシルクハットは、ぽんと音を立てて消え、帽子屋の頭に戻ってきた。
「ほーぅ、やるねやるねー。おっけおっけー……とみせかけてー!」
帽子屋は再び頭のシルクハットを投げ、今度は残る3つも飛ばした。
「ほんとーうは、コレに対処できたらー……ね?」
帽子を投げつけた所にいた筈の女性はもう、帽子屋の目の前にいて、
「はっ!」
回し蹴り一閃、帽子屋の鼻先をかすめた。
「お……おーぅ、見た目と違って武闘派なんだねー」
「これで良いんですよね?」
「もちろーん、充分過ぎるごーうかくだよ」
投げていた帽子が帽子屋の元に戻ってきた。
「じゃあ行きましょーうか、願いを叶えるぶとーうかいへ」
帽子屋が教会の扉を開けると本来は見える村の景色はなく、先の見えない暗い闇が広がっていた。
「この先で、私の願いが……」
女性は躊躇うこと無く、闇の中へと進んでいった。
こっちも