一人達
そこは暗いようで明るく、狭いようで広い場所。
上を見上げても太陽のような光源が見当たらないにも関わらず周りがよく見え。遮蔽物の無い平坦な地面が続くことで距離感がいまいち掴めない。
そんな場所を、1人歩く少女の姿があった。
「こ、ここはいったい、どこなんでしょう……」
白いチュニックに橙色のスカート、そして頭には赤い頭巾を被った少女は、周りをきょろきょろと見回しながら平坦な場所を歩いて行く。
周りに他の人の姿は無く、頻りに首を巡らしてここが何か分かるものを探している。
するとその時、
『ったく、どこなんだよここは』
少女のものより少し低めの声が聞こえた。
改めていうが、少女の周りには誰もいない。
しかし声ははっきりと、少女の被る赤い頭巾の辺りから聞こえてきた。
「あっ、オウカさん。良かったぁ……返事がないから心配したよ」
少女が頭巾に付いた胸元のリボンを握ると、
『悪いなアキ。心配かけた』
握られたリボンが動き出し、赤い頭巾に動物の耳のような尖りが現れ、リボンの端が伸びて三つ爪の腕みたいになり。まるで何かが取り憑いているような姿となった。
「何かあったの?」
『いや、対した事じゃない。心配してくれてありがとな』
三つ爪の腕が動くと、自らでもある赤い頭巾と共に少女の頭を撫でる。
『で、ここはどこなんだ?』
「それが、さっぱり分からなくて……」
「いやいやなるほど、そういう形の参加者もいるんだ」
『! アキ、今の声は…』
「う、うん、こっちから聞こえ……ひっ!?」
誰もいなかった筈の後方を振り向くと、人の頭だけがそこには浮かんでいた。
「おやおや失礼、驚かせるつもりはなかったんだ」
ニヤニヤと笑う顔、頭には何故か猫の耳が付いたハットを被っている。
そしてゆっくりと、首から下が段々と現れてきた。
「ただただどうもね、登場はこうしようと決めていたんだ」
やがて、黒と赤のストライプ柄のスーツに身を包んだ全身が現れ、猫耳ハットを押さえながら深く頭を下げた。
「ど、どちら様……ですか?」
すっかり萎縮してしまっている少女を横目に、猫耳ハットの人物は語り始める。
「やあやあお初に、自分はこのブロックの案内人だ」
「案内、人?」
「そうそう正解、まずはようこそ、ここがブトウカイの会場だ」
猫耳ハットの人物が手を広げてこの場所を示されたが、いまいちピンと来ない。来るわけがない。
それに返したのは頭巾の方だった。
『訳の分からないこと言うんじゃねぇ、さっさと元の場所に返しやがれ』
「まぁまぁ怒らず、一から説明するから聞いてほしいんだ」
猫耳ハットの人物はニヤニヤの笑みを崩すことない。
「さてさて始めに……この変わった話し方を辞めて、コレ渡しておくよ」
ジャケットのポケットから、どう見ても大きさの合わない藤の籠を取り出して少女達の方へと投げた。
少女は受け取ると、中身の無いそれが何かすぐに理解する。
「これ、おばあちゃんへの……」
「おつかいだったものはちゃんと届けておいたよ。これで心置きなくブトウカイに参加してね」
『だから何なんだそのブトウカイってのは』
「それは今から説明するよ」
「あ、あのぅ……絶対に参加しないといけないんですか?」
「そうだよ。そもそも参加条件を満たしたのはキミ達の方なんだから」
『参加条件?』
「叶えたい願いがある、そういう者達が集められているのがこのブトウカイだ。キミ達もその一人、いや、一組……いやいや、一人達、かな」
「叶えたい……」
『願い……』
「理解してくれたかな? じゃあまずは、キミ達の名前を聞いてもいいかな?」
「え、あ、はい……あの、アキ・ハートレッドです」
『おいアキ、何素直に応えてんだよ』
アキと名乗った少女の被るフードのリボンが伸び、デコピンでもするかのように額をペシッと叩いた。
「あうっ、ご、ごめんなさい……つい……」
『ったく……これでオレも名乗らなくちゃいけなくなっただろ』
「そちらの赤い頭巾さんは?」
『ほらみろ……オレは、オウカだ』
「アキさんにオウカさん、と。ではブトウカイの説明をさせてもらうよ」
一切笑みを崩すことなく、猫耳ハットの人物は語り始めた。