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#003「快楽と禁欲」

――ポールセザンヌ。一八三九年一月十九日生。一九〇六年十月二十三日歿。フランスの画家。クロードモネやオーギュストルノワールと共に、印象派として活動を始めるが、のちに独自の絵画様式を探求するようになった。キュビスムをはじめとする二十世紀の美術に多大な影響を与え、近代絵画の父として、しばしば言及される。『草上の昼食』『カード遊びをする人々』ほか、静物画や水浴画が有名だろう。

細川「ホラー映画に出てくる俳優は、どうして、揃いも揃って薄着なんでしょうな? まぁ、露出が多いのは結構だがね」

古田「相変わらず、世俗の欲にまみれてるね、細川くんは」

細川「赤ん坊が生まれなきゃ、人類は滅亡だ。それより、問い掛けに答えてはどうかね、ムッツリ爺さん」

古田「よしなさい。――うぅん、そうだね。そのほうが、服に守られてない怖さがあるからでしょう。噛み付かれようが、血飛沫を浴びようが、ダイレクトにダメージを受けるという寸法だ」

細川「ほうほう。そうなると、暑くなっても、迂闊に脱がないほうが良いね。服を着るのが億劫だが、生き残るためには必要そうだ。生まれたままの姿では、何の防御もできない」

古田「まったくですな。ありのままを重んじるヌーディストが聞いたら、猛抗議されそうだけどね。ハッハッハ」

細川「堂々と全裸で居られたら、魅力は半減でしょう。やっぱり、恥じらいが無いと」

古田「頬を赤らめながら内股で無花果の葉を抑えるくらいの、かな?」

細川「うら若き乙女が下着一枚の姿を想像すると、グッと込み上げてくるでしょう?」

古田「まぁ、感じるところが無いとは言わないね」

細川「そうだろう、そうでしょうとも」

細川、ダイヤル式電話を掛けるフリ。

細川「ジーコ、ジーコ。なぁ。何色のスキャンティーを穿いてるか教えて」

古田「細川くん。いまどきの若い女性に、スキャンティーという言い方は通じませんよ」

細川「詳しいね、細川さん。てっきり爺さんは、長襦袢やズロースのフェチかとばかり」

古田「おやめなさい。変態が過ぎる」

古田、吸殻を細川の手に近付ける。

細川「へい、へい。からかうのは、この辺にしといてやる。でも、画家は良いよな。裸婦のモデルにさせれば、じっと局部を観察したって、相手は文句を言えないでしょう?」

古田「そんな下心丸出しでオファーすれば、即座に断られるのがオチだよ、生臭坊主くん」

細川「ちぇ。紳士という名の助兵衛め。あぁあ。どうにも分が悪いから帰るわ。勘定はココに置いとくから」

細川、カウンターに札を置き、立ち去る。

蒲生「また、お越しくださいませ」

♪カウベルの音。

古田「悪いね。婦人の前で、あんな話をしてしまって」

蒲生「ちっとも悪いと思ってませんよね?」

古田「そんなことないよ。これで反省しなかったら、きっと僕の枕元に蒲生さんが化けて出るよ。あの人、娘に甘かったから」

蒲生「そうだったんですか? 私は、そう感じませんでしたけど」

古田「あれで結構、子煩悩でね。妻に先立たれたものだから、年頃の娘の接し方に困っては、よく僕のカミサンに相談してたんだ」

蒲生「へぇ。私としては、時代遅れなほど躾が厳しい親だとしか思ってませんでしたよ。成人するまで、夕方六時が門限でしたから」

古田「溺愛するが故に、大事にし過ぎたんだろう。もう故人であることだし、大目に見るべきだ」

蒲生「それなら、情け深さの裏返しだったと思うことにします」

蒲生、カウンターのグラスを見る。

蒲生「何かをお作りしましょうか?」

古田「気が利くね。それじゃあ、今度はトロピカルなカクテルにしよう。透き通るような青、爽やかな海を連想させるようなものが良いね」

蒲生「それでしたら、エメラルドミスト、スカイダイビング、ブルーマルガリータ、オールドクロックあたりは」

古田「蒲生くん。度が強すぎるものばかり勧めないでくれたまえ。まだ、さっきのことを根に持ってるのかね?」

蒲生「コノウラミ、ハラサデオクベキカ」

古田、九字を切る真似。

古田「臨兵闘者、皆陣裂在前。怨霊よ、去れ」

古田、懐を探る。

古田「ハッ、しまった。護符がない」

蒲生「プフッ。細川さんに頼んでおくべきでしたね」

古田「寺務所からガメてきたものでは、御利益はないだろう。――それより、マリブサーフかコルコバードを」

蒲生「はい。それでは、マリブサーフをお作りします」

――私の秘密を知ってるのは高山、古田の二者だけのはずだが、最近、細川に勘付いてる様子が伺える点が気懸かりになっている。もし、今夜の話が確信犯だとしたら、立派なセクハラ案件だ。そうかといって、下手に追及して藪蛇になるのも考え物である。どうしたものか。


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