Ⅲシュタレード試作N型、カークェン
サホイマ国。カブアリーポート敷地内。
丸い地上世界に足を着けた女、リフセル・ズーレイフは宇宙住民の熱探知装置で感知器エラーが出るか否かの関門を潜らされた。
エラー音が高揚に鳴り響いた。
「女!! 取締室へ連行する」
空港取締官がリフセルの手首を強く引っ張り出した。
「痛いわ。優しく連行してよ」
「事と次第では捕虜扱いだ。覚悟しろ」
「……」
その頃リウドは空港周辺の定期便プール内でうろちょろしていたのだ。
「あっ……さっきの空気のような物だ。今はなんか錯乱した流れになってるぞ。またポートに入らなきゃな……どうする?」
そんな事態の予測もつかない時、少年と同世代くらいの活発そうな少女が、空港潜入法と引きかえに囮役を買ってきた。
「あたしなら、何とかなるわ。その隙に入りなさいよ。なんか……急用なんでしょ」
「僕のために犠牲になんて」
「今やらなきゃ、後悔してからじゃ遅いわよ!!」
「単なる思い過ごしかもしれないし」
「男の子でしょう? つべこべ言わず行くのよ!!」
「わ、わ……わかったよ」
「あ、あたし……ティーロ・シスロ。あなたは?」
「僕はリウド・メーゼア。ホントにこの作戦で大丈夫かい?」
「あたしの考えは外したことないわ。信用してよ」
「ふうん(どうだかな……)」
空港守衛所の窓口に顔出ししだしたティーロ。
「なんだい? お嬢さん、何かご用かな?」
「そのマップの現在地標識だけどね。守衛さん……この辺りにコーションポイントなのに人が立ち入ってたから教えようとしたのよ」
「馬鹿な……ここは厳重な立入警戒区だぞ。お嬢さん、教えてくれてありがとうね。よし、早速向かわないとな」
守衛は、守衛所を空き家状態にして飛び出していった。
ティーロは、守衛所内の立入警戒区底からジオエントランスカバーの開放キーを使って開放レバーを捻り出した。
カバーが展開し、中から収容された臨時用ポートガードの『ジョーカー』が引き出された。
ポートガード・シュターライド・ジョーカーアッシュがジオラックがカタパルトデッキとしてハンギングアップした。
リウドはそのジョーカーアッシュのコックピットに乗り出した。
「ティーロが言うには……音声キー解除で認証するとか……認証の合い言葉が、確か半熟玉子は冷めてもおいしいだったか?」
早速音声機能を試して、起動ランプが点灯するかをテストしてみせたリウド。
「半熟玉子は冷めてもおいしい」
計器類の起動ランプが点灯しだし、当機背後接続具がラックボードから解除された。
「よし、ジョーカーアッシュ、出撃だ!!」
「おい、お~いっ!! 危険だから、臨時機から降りなさ~い!!」
守衛の情けない品の無さがわかる貧弱な叫びなど、リウドの耳には届くはずはなかった。
飛行物体探知の動作の遅れで、物体の移動先を捕捉した光輝翔翼党の鋼操機軍・別動隊。別動隊の空輸機搭載の試作型の新型機『シュタレードN型カークェン』がテスト飛行がてら、作戦区の空港に到着しだした。
ボードガード用のシュターライド、ジョーカーアッシュの脚で地を駆け出す先は、ちょうどカークェン降下ポイントの地上だった。
「なっ、いきなり何かが降りてきた!?」
畏怖するリウド。たじろぐと機体を停止させた。
「ほう、その空港防衛士がそいつか? 新人が乗ってそうで好都合だな」
カークェンの乗る若いパイロットがほくそ笑んだ。
眼前の手前が強敵だということはわかるが、初陣なので戦うにも抵抗がありすぎたリウド。
少年心に、こんな邂逅なんてもううんざりだな……と思うしかなかった。