シルフィーの悲しき願い
__逃げた黒服の男side
京夏たちから逃げた黒服の男は本部のような大きいテントに走って入っていき、白衣を着た科学者の前に跪いた。
「報告します」
「あぁ」
「申し訳ありません。風間博士、あのエルフの娘を取り逃がしてしまいました」
「何だと?」
「正確には、同じエルフと思われる少年に奪われました」
「この、役立たずが…。もういい、お前ら この役立たずを始末しておけ。それからエルフを大人数で捕りに行く、10分で準備しろ!」
「了解!」
「そ、そんな。始末ですか!?お助けください!次こそは確実に…」
「ごちゃごちゃと、うっせーな!」
風間博士がそう叫ぶと、他の黒服の軍人が1人 後ろから、拳銃で慈悲を乞う男の頭を撃ち抜いた。風間博士は即死を確認して、自分も戦闘の準備をした。
__京夏side
俺らが上空に逃げてから5分は経過したが追撃がくる気配がまったくなく、森は木々のざわめきしかなかった。
それにしても上空から見ても、この森は広いな~。以前…というかかなり昔、文献所に3年間閉じ籠って、全ての文献を読んだことがあったな。その時に地図の書物を見たけど、この場所は地図に載っていなかったな。確か名前は“迷いの森”だった。その森に足を踏み入れた者は、道に迷って二度と帰ってくることはないとかっていう 伝承があったはずなのに、さっきの黒服の男らは入ってきていた。エルフを捕まえて帰り道を聞き出して、帰るって感じの考えか?
「ねぇ、そろそろ降りない?もう腕が痛いんだけど?」
「そうだな。追っ手も来ないみたいだし降りるか」
俺はゆっくりと地面に降りてから、掴んでいたエルフの腕を離した。というか、名前が分かんないな。何て言うんだろう?
「君は、なんて名前なの?」
「あっ、俺か?俺は釧路 京夏だ。お前は?」
「私はシルフィア=エルミーテだよ。シルフィーでいいよ」
「そうか。よろしくな、シルフィー」
まさか、向こうから聞いてくれるとは。…そうだよな、普通は相手の名前くらい 気になるよな。
エル…じゃなくて、シルフィーは辺りを見渡してから、少し困ったように俺に話しかけてきた。もしかして、ここが何処なのか分からないとか?そうだとしても無理はないけどな。黒服の男らを倒した地点からは離れているのに、周りの景色はさっきと変わらず、木しかないからな。流石、“迷いの森”と言ったところか。
「で、これからどうするの?う~ん…釧路さんでいい?」
「京夏でいいよ。辺りを見渡していたけど もしかして、ここが何処なのか分からないとか?」
「場所を確認してただけだよ?ただ、なんて呼ぼうか困っただけね」
そっちか!普通に“京夏”で呼んでくれれば良かったんだけどな~。
「…そういえばシルフィー、さっき話を途中で遮っちゃったけど、何だった?」
「え?…あ~。あのね、私の家族が人間の科学者たちに捕まったちゃってね、助けてほしいな~って思ったの」
「…分かった」
俺は口ではこう言ったけど、生きているという望みは薄い。悪徳商人に捕まったなら、まだ商品として売れるだけで生きている可能性は高いが、科学者に捕まったならば、ほとんどは研究材料されるため、生きている可能性は低いのだ。
これがエルフという種族の現状だ。だからこの“迷いの森”はエルフにとっての 楽園なのだ。
なのに、あの黒服の男らは入ってきていた。簡単に足を踏み入れていい場所じゃないのに__
次回…風間博士らと戦闘勃発!?