異常な人間(?)
だいぶ間があいてしまってすみませんでした。
あれから乾燥した大地を抜けると、今までとは一変して、細い道の両サイドに木が増えて、林の中へと変貌した。
まだ昼を過ぎたばかりだというのに地面に太陽の光がうっすらとしか届かない。
そして、ここら辺は人がまったく通らないようで、ただでさえ細い道が無造作に伸びる雑草で獣道と化している。そんなんだから馬車すら通れず、今は自分の足で歩いている。
さっきまでの太陽の光が直で照りつける大地と違って、少し寒さすら感じる。
そんな中でも俺の右腕は温かいままだった。何故ならもう分かると思うが、シルフィーがくっついているからだ。
「ちょっと、シルフィー。…すっげぇ歩きにくいんだけど」
「約束したでしょ?」
「え?」
「だって、もう離さないって」
「あ…、うん…?」
…ちょっと待て。いつそんなことを話した?俺の記憶では、『頼れるのは京夏しかいないの』だった気がするけど。ーーあれ、俺の記憶が違うのかな?
まぁーいっか、1人で旅をするよりか、2人で旅をした方が楽しいと思ったのは事実だ。=それを離さないって解釈したんだろう。だとすると、あながち間違っていないのかもしれない。
なら、いいか。
そんな感じで理解していると、前方の右側の草むらが大きく揺れた。明らかに風ではない、生き物の仕業だ。それにシルフィーも気付いたようで、より一層強く腕にしがみついてくる。
『だから、戦闘になったら邪魔になるんだってば!』
なんてことは言えず、ただ何が現れてもいいように身構えるだけだった。
ガサッと、現れたのはボロボロになり過ぎて一瞬ゾンビかと間違えるほどの男の人間(?)だった。しかし、特にこれといった外傷はなく、魔力切れを思わせるかのようにゆっくりと一歩一歩、踏み締めるように歩いていた。
そして、俺たちが進む先の獣道まで歩くと急に首だけをこちらに向けてきた。それはまるでホラー映画か何かのようだった。その口からは涎を垂らし、目は赤く充血している。ボロボロの男は顔だけでなく身体までゆっくりとこちらに向けてきた。
「美味シ…ソウ…」
「え?」
「は?何言ってんだ、アイツ?」
そんな京夏の疑問にも何も耳を傾けもしないで、俺たちの方向へ高速で接近してきた。正直、油断していたせいもあるが、走り出した瞬間がまったく見えなかった。
シルフィーの鼻先10センチ手前で俺が気付き、乱暴になってしまったがこちら側に引き寄せて回避させた。
「え、何が起きたの?」
と当の本人は未だ理解が追いつかないようで、混乱しているようだった。
「お前!いきなり何しようとしとるんだ!」
「…チ、動クナ」
チ?“血”なのか“地”なのかよく分からないな。しかし、シルフィーに向かって走ってきたという行動から察するにもしかしたら“血”のことか?
「シルフィー、コイツはやばそうだ」
「うん」
あのボロボロの男から守るように俺の後ろにそっと隠した。
「おい、お前!何がしてぇんだよ!」
「男ハ…黙レ」
そう聞こえた時には既に目の前に立っていて、回避に間に合わず腹を一発思いっきり殴られた。その衝撃で後ろへ軽く10メートルは飛ばされた。俺のミスでシルフィーも巻き添えをくらってしまった。空想で障壁とか出せば良かったんだな。
「大丈夫か?」
「びっくりした〜……。あの人速過ぎて見えないんだけど、京夏は見えた?」
正直なところ俺にも何が起きたのか分からなかった。あの速さは瞬間移動とはまた違ったものだ。あれは身体能力に近く、魔力をまったく感じない。




