異名:歩く辞典〜回想〜
上手くあのエロ爺さんを釣り上げ、俺はこの図書館のオーナーとなった。
後で知るのだが金貨1枚は100万円と同じ金額らしい。ということは400万円を払ってこの図書館を買ってしまったようだ。ある意味当時はお金の価値を知らなくて良かったぜ。
そうだな。オーナーとなった記念に図書館の名前を変えようか。ここは元々尾張地方だから…尾張…終わり?“エンド・オブ・ライブラリー”にしよう!
《当時の俺はネーミングセンスが無いと今なら分かる》
それから最低限のオーナーの仕事をこなし、やっと自分の時間が出来た。
「なぁ爺さん、後の事はあんたに任せるわ」
「どういう事じゃ?」
俺は大量の文献を持って、奥の部屋の扉を開けた。
「暫く俺は引きこもる」
「その間、ワシに任せるというのか」
「あぁ。頼んだ」
「そんな勝手な――。ってちょっと待たんか!」
俺はエロ爺さんの話を最後まで聞かずに引きこもりを開始した。
まずは手当たり次第に本を読みまくった。
異世界の昔からの童話や魔法、歴史、地理などあらゆる分野の本を。
◆ ◇ ◆ ◇
そんなある時、爺さんが扉を開け入ってきた。
手には蕎麦のような異世界側の料理を持っていた。
悲しそうな目で俺を見て、
「オーナーさんや。もう1週間も飯を食っておらんが、大丈夫か?」
「いやいや、何の冗談だよ。4時間くらいしか経ってないでしょ」
「……もうオーナーが閉じこもってから1週間は経っておる」
「っ!……そうか。OK OK。料理はそこに置いておいてくれ。ありがとな」
「本を読むのは結構な事じゃが、ちゃんと飯は食ってくれ」
「正直そこまで腹は減ってないんだ」
爺さんは何も言わず部屋から出ていった。
◆ ◇ ◆ ◇
時はだいぶ過ぎ、俺はこの図書館に存在している本を全て読み終えた。
俺は最初、人間に戻る方法を探していたのかもしれない。しかし、この奇妙な身体のままでもいいかなと思った。
調べた結果だが、吸血鬼に噛まれ吸血鬼となるのは、10億分の1の確率で感染するウイルスによるものが原因らしい。大抵の生き物は血を吸われるとそのウイルスが原因で死に至るらしい。そうすると、俺が生きているのは奇跡なんだな。
閉じこもっていた扉を開けると、カウンターにはあの爺さんはいなかった。
そのかわりにショートカットの髪の若い女性がカウンターに立っていた。
扉を開けた俺に気付いたようで、不思議そうな顔で訪ねてきた。
「あなたはどちら様?」
「君こそ誰?」
当然お互い初対面だった。
あのエロ爺さん、こんな若い女性をいつの間に雇っていたんだか。
「あの、私はマリンと言います。この図書館で働いているものです」
はきはきと喋る子で、いるだけでこの図書館のイメージが上がりそうだった。
「そうか。俺は釧路京夏だ。一応この図書館のオーナーだ」
「あなたがオーナーさんでしたか。すみません」
「いや、構わん。ところでエロ……じゃなくて、ジョセフさんは今何処に?」
「お祖父ちゃんは去年亡くなりました」
「そうだったのか…。悪いな」
「…本当に、本当に悪いと思っているんですか!ろくに仕事もしないで、3年間もあの部屋に閉じこもって!地球側の言葉で言うなら、貴方は“ニート”です!どうして、貴方のような人がこの文献所のオーナーをやっているんですか?」
こうも強く言われたら、返す言葉もないくらいだ。
ただ、どうも3年間という言葉には引っ掛かった。そんなに経っていたとは、思ってもいなかった。怒っている時にそんな冗談は言わないだろうし。
「…分かった。俺は今オーナーを辞める。代わりに奥の部屋で会計をやっている人がやるといい。あの人が俺の代わりに色々やってくれていたんだろ?」
「どうしてそれを?」
「そう思っただけさ」
そう言い残して、俺はこの図書館を後にした。
さて、俺の頭の中には膨大な知識がある。
この近くに冒険者の宿がある大きな街があったな。
まずはそこを目指すとするか。




