平和な一コマ
崖の下をゆっくりと辿って行くと、子羊のところまで着いた。
後はシルフィーの仕事だ。
シルフィーが優しく抱き抱えようとしたら、羊は逃げるように崖の下へ行ってしまった。というか、落ちていった。
「あ、あれれ?」
「おい、落ちたぞ。あれ」
「優しくしたつもりなのに、警戒心が強いなぁ〜、あはは…」
と誤魔化しながら笑っている。
もしかしたら、シルフィーも触れないのか?
「シルフィー、動物触れる?」
「うん、触れるし好きだよ。けど、羊は触ったことがないからちょっと、緊張しちゃった…」
エルフからしたら、触ったことがない得体の知れない動物を捕まえるのは相当大変だと思う。
なんか、エルフが羊を触るって変な話だな。
羊はさらに下へ行ってしまったから、上まで上げるのが大変になる。
「次こそは成功してくれよ」
「分かってるって」
そんな話をしながらもゆっくりと降下していたから、すぐに羊に追いついた。
そーっとな、シルフィー。ゆっくり優しく接しろよ。
「―捕まえた!」
「よし!しっかり抱いてろよ」
俺はシルフィーを支える手が限界に近かったのもあって、急いで崖を昇った。
「これで依頼完了だね」
「何を言ってる?まだ依頼主に返していないじゃないか」
「そうだけど、もう疲れた」
「それは俺のセリフだ」
羊が逃げないように、抱き抱えて集落まで急ぎ足で運んだ。
別に急ぐ意味はなかったが、迅速に見つけると言った以上、歩いて戻ってきたら「随分と余裕があるな」とか思われてるかもしれない。それはそれも悪くないけど、崖で思った以上に時間を掛けすぎたようだった。
集落が見えてくると、入り口付近に1人の人間が立っていた。
遠くだけどだいたい予想がつく。依頼者のエリーだ。その足元には小さな子供がくっついていた。
近くに来てみてそいつが誰だか分かった。
俺にぶつかって転びそうになった態度の悪いクソガキだった。
あの時は舌を出し調子に乗っていた子供が、親の前では脚にしがみつき、いじけているのか、くっついて離れようとはしない。
改めてこの親子2人が並ぶと兄弟ではないのか?と間違えるほどエリーさんは若いな。
「どうもありがとうございます」
とエリーは深々と頭を下げてきた。
「いいんですよ。こんなのは朝飯前ですから」
「そうなんですか。冒険者の方々も大変ですね〜」
「命かかってますからね」
とみんなが笑う。こんな幸せそうな風景を見ると悪というものがすごく邪魔に感じる。…俺はその悪の王になろうとしているのだと思うと、気力がなくなるな。
「ほんの気持ちなのですが、夕食を食べていってください」
「いいですよ。そこまでは」
「遠慮しないで。もう作ってしまったのですよ」
「…どうするよ、シルフィー」
「う〜ん、もう作っちゃったならお言葉に甘えようかな」
「分かった。―ということでお言葉に甘えされていただきます」
「ありがとうございます。何もない集落ですがゆっくりしていってください」
エリーの家に入るとテーブルの上には何も入っていない器が4つ置かれていた。あとは器に注ぐだけという状況らしい。
「何か嫌いな物ってありました?」
「俺は何もないです」
「私もない…です」
何故シルフィーがここに間を開けかは後に分かるとして、この匂いは“シチュー”だ。俺は結構好きだな。温かいし、ご飯ともパンとも相性が良いから。
そうこうしているうちにシチューが取り分けられていた。
各々席に座ると、いただきます、と食べ始めた。ただ1人を除いては。
「どうした、シルフィー?」
「……ピース」
「ん?平和?」
「グリーンピースが…」
「嫌いなのか?」
「苦手なだけなのっ!」
ついさっき、優しいエリーが聞いてくれたのに、ここにきてグリーンピース嫌いが発覚!
どうして言わなかったのか聞いてみると、まさかグリーンピースが入ってるなんて思わなかったとのこと。
それは君の親の優しさで入れられてなかったんだよ。
とにかくシルフィーのグリーンピースはすべて俺が頂きました。




