面倒な事になりそうだ
拠点に置いていたシデアの街に戻ってきた。
馬車を降りるとシルフィーは既に降りていて背伸びをしていた。
馬車の中ではあの質問以降口を開いていないから疲れたのだろう。俺もとても長く感じた。
「依頼の報告をしに行くけど、ついてくるか?」
「あ、うん。私も行く」
ここは街の入口。冒険者の宿は少し進んだ先にある。
「京夏って何でも知ってるのね。凄いよ」
「え、唐突にどうした?」
「あの花のこと」
七色の花の真実のことか。
俺からしたら大したことではないけど、褒められると嬉しいものだ。
「かなり昔、俺は文献所に3年間閉じ籠って、そこにある全ての文献を読みあさったことがあったな」
「どうしてそうしようと思ったの?」
「そんなの…、吸血鬼にされた絶望感からだな」
その言葉にシルフィーは唖然とした表情で小首を傾げた。
普通はこういう反応をされることは、承知の上だ。とは言っても周りの奴に振りまいている訳じゃないけど。
やはり、補足しないと伝わらないな。
「この世界は96年前に2つの世界が融合して出来たことは知ってるだろ?」
「勿論よ。あの時は死ぬかと思ったわ」
「その事件から1年後に赤髪のある吸血鬼に噛まれたんだ。けど、運が良いのか悪いのか知らないけど、10億分の1の確率で感染するウイルスで吸血鬼になってしまったんだ」
この説明があって漸くシルフィーは納得した表情をする。
本当に運が悪くて、無責任な話だ。親の吸血鬼は今 何処で何をしているのかも分からないのだから。
魔王になったら殺してやろうか。俺がじゃなくで、誰かを使ってな。
そうこうしているうちに冒険者の宿に着いていた。その両開きの扉を開けるとやっぱり昼間っから酒を飲んでいる冒険者で溢れかえっていた。俺らは入口のすぐ横に女の人に“輪証”の提示して中に入った。
「依頼の報告をしてくるから、適当に座ってて」
「分かったよ。行ってらっしゃい」
『行ってらっしゃい』と言われる程の距離でもないんだが、それは別に良いか。
受け付けまで歩いていくと、小さい少年が余所見をして走ってきた。そして、俺にぶつかり転びかける。地面に手が付く前に抱き抱えて立たせてやると、無愛想な顔をしてきた。…腹が立つけど、構っても仕方ないか。
「気を付けろよ」
「べェーー」
チッ、何だよあのクソガキ。気分を害するわっ!
「すみませ〜ん。あの子が失礼な事をしたようで」
「別に気にしてませんから」
「それにしては顔がひきつっていらっしゃいますよ?あっ、私はエリーといいます」
「気にするな。じゃあ 俺はこれで」
「ちょっと〜!お話を聞いてくださいよ!私は困ってるんですよ?」
そういってエリーという女の人は涙目で俺のマントを強く引っ張ってきた。掴むなら袖にしてくれよ。
これは直感で『面倒なことになった』と分かった。
「俺は今の依頼の報告をしないといけないから、後にしてくれ」
「私もついて行きます。すぐ目の前ですよね?」
そう。受け付けまであと5mのところでこんな事をやっているのだ。
「あの“虹の谷に咲く七色の花の採取”という依頼を達成しました。これはその花だ」
「…お疲れ様でした。こちらの依頼の報酬金は40マインになります。あと、花は1輪で十分ですよ」
冒険者の宿の人は、俺らのさっきのやり取りを見ていたようで違う意味の“お疲れ様”が聞こえた気がした。
「依頼主には、もう1つの花はプレゼントとでも言っておいてくれ」
「畏まりました」




