鬼畜の所業
「そうは言っても、これは依頼だから」
「知ってるけどぉ…」
これはダメかもしれない。
…と言ってもこんなところで、いつまでもいるわけにはいかない。食料とか大量に持ってきてないからな。
別に俺は心配ないんだけど、シルフィーが、な。
「悪いけど、さっさと終わらせるぜ!」
「…分かったわよ。ここ 空気がとっても綺麗だからもう何処にも行きたくなかったけど、仕方ないものね」
「なんか、嫌味に聞こえるけど?」
シルフィーはにこりと微笑んで、足元の花から探し始めた。
そう。今回の依頼は“七色の花”を1輪ゲットするという内容だった。
シルフィーは綺麗ということで選んだようだけど、実際は“砂漠の中で1本の針を探す”ように“花畑の中から1輪の花を探す”ことだ。
しかも異常な広さを誇る虹の谷での話だから、事は上手く運ばない。
地道に1本1本見ていくしかないな。
2人だと人手が足りないから、分身でも出しておこう。
「クリエイト」
「え?そんなものまで創れるの?」
「そう。何でも創れるぜ。逆に創れない物がないな」
シルフィーはその言葉に驚きを隠せなかったようで、両手を口に当ている。
◆ ◇ ◆ ◇
2時間探しても何処にもお目当ての花がない。
これ以上探していたら、宿に着く時には完全に日が暮れているだろう。そして、夜道は危険だ。相手の命の保証がないからな。
「ないね〜、七色の花」
「そろそろ帰らないとヤバイな」
「何が?」
「いや、何でもない」
だいぶ太陽も傾いてきた。その時シルフィーが一つの提案をしてきた。
「一層の事 クリエイトで創っちゃえば?」
「いいのか?それで…」
「こんなクエストは1日で終わらせたいもん。出せる?」
「イメージすれば、な」
「見たことあるんだよね?」
「当然だろ」
「じゃあ お願い」
もう少し違ったお願いの仕方があるだろうに。けど、シルフィーがそれでいいなら創り出すか。
俺は右手を前に出して、空想を使用した。
「クリエイト!」
差し出した右手の掌には、薄く光り輝く七色の花があった。
「これなのね!すごく綺麗な花だね」
「こんな事だったら、ここまで来なくても良かっただろ?」
「気持ちの問題かな。あと、これって消えたりしないよね?」
「あぁ。アンインストールで消さない限りずっとあるぞ」
そんな会話をしていると、前方から武器を手にした2人の冒険者がやってきた。
「おいおい、それは“七色の花”じゃねぇか」
「俺らのために探してくれたんだな?」
「これは私たちの花よ!」
「だったらそれを寄越しな」
この2人の冒険者、俺らがここへ来た時に見かけたやつか。
こいつらもこの花を探していたようだ。横取りしようなんて、冒険者として許せんな。
けど、そうは言ってもこれは本物と見間違えるほどの“作り物”だ。ちょっとむかついたから、暇潰しに遊んでやるか。
「随分と横暴だな。とても目障りだ」
「は?何だテメェ…」
「死にてぇのか?」
「俺らは死になくないから、これはくれてやるよ」
俺は手の上にある花をその冒険者に軽く投げると、何の疑いもなく受け取った。
「最初っから口答えぜずに、渡しておけば良かったんだよ」
俺は後ろを振り返りシルフィーに小声で「行くぞ」と言い残し歩き始めた。戸惑いながらもシルフィーもついてきた。
「本当に良かったの?」
「俺の気分を少し悪くさせたことを、後悔させてやる」
「…悪い人」
「おいおい、俺は魔の者だぜ?」
「それもそうだね」とシルフィーは黙ってしまった。
そろそろいいだろうか?あの冒険者からは十分に離れた筈だ。
俺は面白さを堪えきれず、思わずニヤリと笑ってしまった。
「アンインストール」
俺はさっき創り出して渡した“七色の花”を消した。
今頃あの2人は困惑して怒ってるんだろうなと、想像すると笑いが止まらなくなりそうだった。
次回…追いつかれた京夏たち




