大掃除の依頼
今日は疲れてるから明日でもいい気はするのだか、シルフィーは“輪証”を何度も眺めては嬉しそうに笑っている。自分の世界に入ってしまったな。…そんなに冒険者になれたのことが嬉しいなんて、まるで吸血鬼になったばかりの俺みたいだ。
「なぁ シルフィー、どれに行く?…シルフィー?おーい、シルフィーさ〜ん?」
ダメだ、完全に気付いていない。シルフィーの目の前で手を振ってみても気付かないまま スルーされたから、シルフィーの肩を揺することで漸く気付いたようだ。
「えっ?」
「『えっ?』じゃなくてさ、どの依頼を受ける?って聞いてるの」
「あっ、ごめんね。そうだなぁ、コレとか?」
シルフィーが手に取ったのは“雨鬼”という雨を降らせるとても面倒臭いレベルで強い鬼の討伐だった。普段ならばやってもいいけど、今日は疲れているんだ。もっと簡単なすぐに終わるやつを選んでくれよ、シルフィー。
「今回は却下だ」
「えー?じゃあこれで」
と言って掲示板から依頼書を剥がしてしまった。そんなことしたらもう絶対にそれをやらないといけないじゃないか!少し肩を落としながら取った依頼書を見ると、“宿屋の裏庭の掃除”という非常に簡単な依頼だった。Niceだ、シルフィー。そうだよ 今はこうゆーのを求めてたんだよ。
早速、依頼を受注し問題の宿屋へ向かった。と言っても同じ街の中に建っていた。結構大きな建物で裏庭もかなりのものだった。…これは1日で終わるのか?
とにもかくにも、やるべき仕事は宿主から聞いた。雑草を抜くことと蔵の掃除だそうだ。思った以上に大変そうだ。シルフィーは袖を捲っていて本気のようだ。蒼い瞳の奥でやる気がメラメラと燃えている。既にシルフィーは雑草抜きをやり始めたから俺は蔵の掃除に取り掛かるか。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅ〜、終わった〜」
と言いながら俺は背伸びをした。
こんな蔵を完璧に綺麗にするのに1時間も掛かった。まったく、魔王になる(予定の)者がこんなことをしていていいものか、甚だ疑問だな。
さてと、雑草抜きは終わったかな?あんな広い庭だ。半分位くらいなのだろう。そして俺は蔵の扉を開けると綺麗に雑草が抜かれた庭が目の前に広がっていた。それだけでなく、これまた綺麗な花が一面を埋め尽くしている。肝心のシルフィーはというと宿屋の縁側で疲れ果てて、うつ伏せの状態で寝ている。
「お疲れ」
「京夏も終わったんだね、お疲れ様」
俺も一服しようと縁側に座ろうと思ったら、廊下の角から宿主の人が現れた。
「おぉ、これはこれは大変お疲れ様でございました。お詫びと言っては難ですが」
「いやいや、結構ですよ。報酬金が出ますし」
「そうは参りません。御二方は今夜泊まられる場所はお決まりではないでしょう」
「そうですけど、」
「それならばこちらの宿屋にお泊まりになってはいかがでしょう。割安にしておきますから」
「良いんじゃない、京夏?泊まるところもないんだから」
「そうだな。じゃあそうします」
「ありがとうございます」
これで今夜の泊まるところは決まったのは良いが、どうして泊まるところがないと思ったんだ?
何にせよ、今夜は野宿をしなくて済んで助かったことには変わりない。
次回…カレー代の返却




