ジンクス
観覧車のジンクスについて適当なところをタップし、どこかのWebページに飛ぶ。
そこに書かれていたのは、予想外で衝撃的な言葉。
それは……
『この観覧車にカップルで乗ると別れるらしい』
頭の中が真っ白になって、検索する指が止まって動かせなくなる。
「――――ッ」
「どうした?」
石像のように固まってしまった私を不思議そうに見つめてくる碧。
「あーえーと、碧はこの観覧車のジンクスって知ってた?」
なるべく平静を装いながら、こう尋ねていく。
「そういや教室でそんな噂流れてたことがあったな。別れるってやつだろ。そんなのただの迷信だよ」
面倒そうに小さくため息をつきながら、そう返された。
「そっか……そうだよね! 気にするだけ損だね!」
心とは正反対の笑顔を無理に作って、明るい声を出していく。
そうは言ってもこのタイミングでこのジンクス。
気にするなという方が無理なわけで……どうやったって気になってしまう。
やっぱり私は、碧の彼女にふさわしくなかったのかな。
自分ばっかりこんなに好きで、バカみたいだ。
真っ暗に暗転したスマートフォンの画面をただぼんやりと見つめていくと、気持ちまでもが暗く染まっていくから不思議だ。
「奈都」
しんと静かになった狭い密室に私の名を呼ぶ声が聞こえ、ゴンドラが静かに揺れる。
「どうしていつも、そうやって不安そうな顔をする?」
ひんやりとした手があごに添えられて、自然と上を向かせられる。
目の前には身を乗り出し、真剣な表情をした碧がいて。
綺麗な青緑がかった瞳に見つめられ、どきりとした私は強く目をつむった。
「……んッ」
予想外の碧の行動に思わず小さく声を上げていった。
唇に柔らかく温かな感触が触れる。
優しくてどこか色気のある香りが鼻をくすぐった。
名残惜しそうにそれはゆっくりと離れていく。
耳には潮騒のような血の巡る音が鳴り響き、頭の中は真っ白になって、何も考えられなくなってしまった。
いま、いったい何があった?
「そんなに不安ならこうすればいい。調べてみなよ?」
私の両手に包まれたスマートフォンの画面を人差し指でとんとんと叩いていく碧を見て、混乱した私はまるで操られているかのように、無言のまま検索をかけていく。
『ゴンドラが最上部に来た時にキスをすると、悪いジンクスは無くなる』
や、ややややっぱりさっきのはキ……キスだったんだ。
た、確かにここはちょうど良く最上部、最上部だけど!
意識すればするほど、混乱は増していく。
観覧車にそんなジンクスがあったなんて。
別れるかもって心配してたのバレちゃったのかな。
また碧に気を使わせちゃったのかな……
まだ、感触が残っている唇にそっと触れて、うるさいほどに高鳴る鼓動を押さえながら、じっとwebページを見つめていく。
「あのさ、また変な勘違いしてそうだから先に言っておくけど」
その声と共に、突然スマートフォンの画面を手で遮られて、文字が読めなくなった私は顔を上げていった。
碧の右手が私の髪にそっと触れる。
「俺にとっちゃジンクスとか関係ないから」
抱き寄せられて碧との距離が近づき、耳元で甘い言葉を囁かれる。
「俺はただ、奈都に触れていたいだけ」




