夏の終わり
それから私はまた、かつての日常へと戻っていった。
受験生であり、平成生まれの平凡な女子中学生、菅原奈都に。
数日間、泣き続け、食事もまともにとれないくらいに落ち込んでいたけれど、日がたつごとに少しずつ以前のように笑えるようになっていった。
平安時代で過ごした日々は、こちらでは数時間にもなっていなかったようで、帰ってきたのは平安時代に飛んだその日の夕方だったようだ。
そのせいか、親戚のユカリ姉ちゃんは私が泣く理由がわからず、いつも困惑した表情をしていた。
無理もない。姉ちゃんからすると、私は図書館に行っただけで食事をとれないほど元気を失くした人なんだから。
そんな私を心配してか、ユカリ姉ちゃんは天神祭に連れ出そうとしてくれたけれど、どこにも行く気になれなかった私は仮病を使い、行くのをやめた。
数日がたち、ようやく外に出かける気になった私は『碧に会いたい』その一心で、何度も大将軍社に通いつめるようになった。
あの日みたいに天満宮の中にある大将軍社周辺をうろついてみたけれど、何かが起こる気配はなくて。
試しに目を閉じてみたり、ジャンプしたりもしてみたけれど、見える景色はまるで変わらなかった。
次に私は、いつも通っていた図書館へと足を運んで行った。
理由はもちろん、時代を越えるきっかけとなった、あの本を借りるためだ。
懐かしいカウンターには、数日前にあの本を紹介してくれた図書館員さんがいて。
その姿を確認した私は、すぐさまあの本について尋ねていった。
尋ねていったけれど、返ってきた言葉は……
「すみません、当図書館では菅原様の貸出履歴はないようです。それにそのようなタイトルの本は置いていないですね」
――・――・――・――
太陽が照りつける午後二時半。
半袖に短パンという身軽な格好で縁側に寝転び、窓枠に吊るされた風鈴をぼんやりと見つめる。
日がたつごとに暑さが和らいでいくのを感じる。
太陽の落ちる時間も心なしか以前に比べて早まっていて、うるさいほどに響いていた蝉の鳴き声も少なくなった。
もうすぐ夏が終わってしまう。
大切な、この季節が……
――ねぇ、碧。私、これからどうしたらいいんだろう。
確かに借りたはずのあの本は、この世から消滅してしまい、頼みの綱の大将軍社へ行っても何も変わらない。
他にも考えうる手は全て試したけれど、それも全滅……
過去へ飛ぶ手掛かりを失くした私は、それでも碧に会うことを諦められず、夏が来るたび大将軍社のある大阪へと通うこととなったのだった。
――・――・――・――
これが私の初めての恋の物語。
この中学三年生の夏からずっと、私の中での夏は、出会いと別れの季節で、切ない恋の季節になったんだ。




