私に出来ることは
いまだかつてないくらいに頭をフル回転させていくけれど、悲しいことに立派な言葉が何も浮かばない。
どうしよう、どうしたらいいの?
……ああ、こんなんじゃ、何も変えられない。
所詮私はこの程度だったんだ。
だけど、わかってたことじゃないか。菅原奈都はどんくさくて間抜けで何も出来ないお子様だって。
どうせ上手くいかないよ。
一生懸命やったところで、意味なんてないよ。
頭の中で諦めの声がこだましていく。
ここから逃げて帰って、碧に謝ろう。
『私には無理だったよ』って。
碧のことだから、呆れながらもきっとどうにかしてくれる。
しょうがないじゃん。頑張ったって、無駄なんだもん。
――何で…………続けるの?
頭を支配する諦めの声に混じって、突如過去の言葉たちがしみわたるかのように響き渡っていく。
その声に、はっと目を見開いていった。
――何でそんなになってまで走り続けるの?
白黒映画のように、あの時の光景がよみがえる。
土砂降りの雨の中、ぼろぼろになった猫。
碧く澄んだ輝く瞳の先にあったのは、空と大地を結ぶような虹。
諦めることなく前だけを見つめて走り続ける小さな体。
――奈都、俺の後ろに隠れてろ!
そう言って私をかばってくれたあの背中。たいして身長も変わらないはずなのに、不思議と広く見えるその背中。
――本当に神仏の助けが必要な者たちが祈ることをやめ、良い暮らしをしている貴族のほうが必死に経を唱えているなんて、皮肉なことだ
生きる気力を失ったおじいさんと、痩せこけた女の人……
――この大通りはまだ綺麗なもんだが、一歩通りに入れば、そこらじゅうに死体が転がっているし、治安もさらに悪くなる。本当にひどい有様なんだ
川辺に捨てられた大量の亡骸……
あんな悲しい人たちをもうこれ以上増やしたくない。
決めたでしょ、わかったはずでしょ。
変えようとしなければ何も変わらないって。
言葉でわかっても、人に伝えられても、行動にうつせなきゃ意味なんてない。
変えよう……最初の一歩さえ踏み出せば、きっとこんな私だって変われる。
こんな怠け者で馬鹿で情けない私でも、誰かのために何かが出来るって思いたい。
苦しむ京の民に希望の光を届けたいんだ。
みんなに伝えたいことは何?
今の私が出来ることは何だ?




