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夏鶯の空~千年を越える夢~  作者: 星影さき
第一章 天神様の神社
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いざ大阪へ!

「新大阪~、次は新神戸に止まります」


 自動扉が開くと共に太陽の光が目に突き刺さり、湿気を帯びた熱風が肌にまとわりついていく。


 数時間の新幹線の旅を終えた私は、鼻歌交じりに駅のホームへと降り立っていった。

 はじめて一人で新幹線に乗れたことも、こんなに遠くまで来ることが出来たことも、何もかもが誇らしい。


 姉ちゃん、元気だったかな? 早く会って、たくさん話がしたい。


 わくわくと鼓動が高鳴るのを感じながら、新大阪の駅の改札を出ていくと、思った以上に早くその人は見つかった。


「ユカリ姉ちゃん!」


 きれいめの洋服を着た、三十手前の栗色髪でふわふわパーマの女性を見つけた私は駆け出し、そして勢いよく飛び付いていった。


 この人は山田ユカリ。

 お母さん方の年の離れたイトコ。


 明るくて優しくて面白い、私の大好きなお姉さん。


「なっちゃん! こんな遠くまでよく来たな、ごくろうさん。あー懐かしいわぁ、ほんま大きなって……って言おうと思ったけど、大して変われへんな」


「もう、余計な御世話だよー。中学生だし、これから伸びるの!」


「そうやな、確かにジュンにいも高校入ってから一気に伸びてたし、これからが楽しみや。さて、そろそろ、うち行こか。こっからなら三十分もあれば着くわ」


 姉ちゃんは私の背中をぽんと軽く叩き、市営地下鉄のホームへの道を指差していった。


「しっかし、あの勉強嫌いでアホのなっちゃんが勉強に集中したいから泊めてくれ、言った時はおかんもあたしもびっくりしたわ。学校の図書館は混むし、自分ちの近くに図書館ないからって、わざわざこっちまで来たんやろ?」


 う……それを言われると痛い。


 『神頼みに力を入れたいから』なんて言えなくて、お母さんにいろいろ嘘ついちゃったんだよね。


 勉強は苦手だけど、こういう嘘をつくことに関しては……私は一級だと思う。

 こんなの何の自慢にもならないけど。


 嘘をついたやましい気持ちが顔に出ていたんだろうか、ユカリ姉ちゃんは大きな声で尋ねてきて。


「まさか、受験生やのに親の目の届かん所で遊ぼうとしてたんか? 嘘やろ!?」


「ち……ちがうよ! それに姉ちゃん、声大きい……ここ電車ん中だからね」


 くすくす笑う乗客に気づき、私たちは二人そろって顔を赤くさせ、静かにうつむいていったのだった。



――・――・――・――


「あっはっはっは!」


 古い日本家屋の家にユカリ姉ちゃんの笑い声が響いていく。


 私たちは今、淀川近くにある姉ちゃんのお家にいて。


 家に着いて早々先ほどの誤解を解こうと、はるばる大阪まで来た理由を話したのだけれど、どうやらその話は姉ちゃんの笑いのツボに入ってしまったようだ。


「もう、そんなに笑わなくたっていいじゃん!」


「だって、おもろいんやもん。なっちゃん、ほんま昔から変わらんなぁ。進学校に神頼みだけで入ろうとする人、初めて見たわ」


 目尻に涙を溜めながら、姉ちゃんはカラカラと笑う。


「神頼みだけじゃなくて、ちゃんと勉強もするってば! 勉強した上で、得意なところが出題されますようにって毎日お参りするの!」


 神様への願いが通じたって、今の私が簡単にわかるようなところは、他の人にも簡単に解けちゃうだろうし。


「ま、遊びまわるつもりじゃなかったようで安心したわ。それに、案外神頼みも効果的かもな。なんせ、近所の神社は天神様をおまつりしてるし」


「天神様?」


 どこかで聞いたことある。一体どこで聞いたんだっけ?


 あぁそうだ、童謡で聞いたんだ。

『ここはどこの細道じゃ? 天神様の細道じゃ』ってやつ。


 「そ、天神様。なっちゃん知らんの? 学問の神様で有名なんやで。あそこの神社は他んとこより大きいし、冬になると受験生で賑わうんや」


 学問の神様……?


 喜びのあまり、ふるふると体が震えていった。

 図書館が近いという受験勉強に最適な環境と、歩いていける距離にある合格祈願に最適な神社。


 姉ちゃん家の近所にある神社が、天神様が祀られている神社だったなんて、すごい奇跡!

 これは、私に海王高校へ行けという神様のお導きにしか思えないよ!


「姉ちゃん! 私、早速神社と図書館行ってくる。さぁて、すぐに準備しなきゃ」


 勢いよく立ちあがり、キャリーケースを置きっぱなしにしてきた玄関の方に走って向かっていった。


 そんな私の後ろの方から聞こえてきたのは、楽しそうなユカリ姉ちゃんの声。


「はいはい、行っといで。ちゃんと勉強頑張ったら、今度の天神祭連れてったるわ」


 てんじんさい、というお祭の名前らしき言葉が聞こえてきたけれど、私はお祭よりも『早く神社に行きたい』という気持ちの方が抑えられなくて。


 顔をほころばせながら、出かける準備を進めていったのだった。

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