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夏鶯の空~千年を越える夢~  作者: 星影さき
第七章 天下の藤原氏
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二度寝

「……ふぅむ、なるほどね。そういうことだったんですか」


 突然暗転して音の無くなった世界に、穏やかな声が響いていく。

 まるでそれは、誰かが私の頭の中で直接話しかけているかのようで。


「貴女のおかげで良いことを知りました。それでは、ばれないうちにおいとまするとしましょうか。また後ほどお会いしましょう、不思議な娘さん」



――・――・――・――


「ん……」

 ゆっくりとまぶたを開いていくと自分の足と地面が見える。


 あれ? もしかして私、座ったまま寝てた?

 ここはどこなんだろう。

 私、何をしていたんだっけ?


「気がついたか」

 ぼんやりとした頭で考えていたら、隣からいつものように不機嫌そうな声が聞こえ、顔を上げてそちらを見やる。

 声の主はやっぱり碧だった。


「私、寝ちゃってたの?」

 状況から考えると、いつのまにやら私は眠ってしまって、そのまま碧の肩に寄りかかっていたみたいだけど……一体いつ、どのタイミングで寝てしまったのだろう。


 そんな私の疑問を察したのか、碧はいきさつを話してくれる。

 

「忘れたのか? お前、ここで途中休憩を挟んだらそのまま寝てしまったんだ。なかなか起きないし、仕方ないから少しの間放っておいた」


 休憩ですぐに寝ちゃった?

 そんなこと今まで一回もなかったのに。


「えぇっ、それほんと? 朝も寝すぎたぐらいで、全然眠くなかったはずなんだけど。うーん、おかしいなぁ」

 腕を前で組み、うなりながら考えていく。どう考えても変なんだよね。

 だって京の町に来てから、途中休憩を挟んだ記憶も一切ないんだもん。

 


「そんなことで嘘をついてどうする。慣れない旅だし疲れがたまってたんだろ。さぁ、行くか。今度こそ絶対に俺からはぐれるなよ」


 どうしてなんだろう。碧が目を合わせてくれない。

 言葉は優しいけど、なんかちょっとイラついているような。

 最初は私に対して怒っているのかとも思ったけれど、碧の場合そういうことなら直接言ってくるはずだ。


 これは、何だろう。上手くは言えないけれど、自分自身に苛立って焦っている、そんな感じに見える。

 

 もうすぐ平安宮だから、緊張でもしているのかな。



 立ち上がった碧に続いて私も腰を上げていく。

 

「わかった。はぐれないように気をつけるね」

 

「ああ」

 短く返事をして私を見た碧は眉を寄せた後、なぜだか少しずつ私の方に距離を詰めてきて。


「……え、ええと?」

 思わず少しずつ後ずさりをしてしまう。

 近づくだけではなく、碧はじっと私のことを見つめてきたのだ。


 急にどうしたのだろう。この距離でそんなふうにじっと見られるとちょっと気恥ずかしい。


 目線をそらして泳がせる。



「奈都」


「ちょ……っと碧、どうしたの!?」


 ずっと黙っていた碧は私の名前を静かに呼んだ後、ゆっくりと左手を私の右頬みぎほほの方に近づけてきたのだ。


 いきなり意味がわからない。

 もうちょっとで頬に触られちゃう。


 そう思い、恥ずかしさからぎゅっと目を閉じた瞬間、耳元でぐしゃりと紙を握りつぶしたような音が響き渡っていった。


 恐る恐る目を開けると、すでに碧は先ほどより後ろに大きく一歩、距離をとっていて。


「気にするな、ゴミがついていただけだ」

 私の首元を睨みながら、碧は小さく舌打ちをしている。


 ご、ゴミですか。

 ちょっとドキドキして損しちゃったよ。

 それにしても、たかだかゴミ一つでずいぶんと不愉快そうな顔をしてるなんて、変なの。


 まぁとりあえず。


「とってくれてありがと!」

 お礼だけは言っておくことにしよう。


 両手をぱんぱんとはたきながら、ゴミを払いのける碧は静かに笑う。

「まったくお前は。あんな特大のゴミをどうやったら付けてこれるんだ。ある意味すごい才能だな」


 うーん、どうしてなんだろう。

「才能って言われてるのに褒められてる気がしない」


「それはそうだろう。褒めてないし、俺は呆れてるんだから」

 大きなため息をついてそう話す碧は、踵を返して歩み出していく。



 むきーーっ!

 何なんだよもう! さっきはちょっと優しかったのに、またイヤミ大魔神復活しちゃったよ!!

 誰か、このイヤミを封印してくれたりしないかな。


「おい。何、睨んでる。早く来ないと置いていくぞ」

 くるりと振り返った碧は、不機嫌そうに私を見てくる。


「はぐれるなって言っておきながら置いていく、って言うの、絶対おかしいと思う!」

 負けじと私も碧のほうに向かって指を突き付けていった。


「はいはい。悪かったな」


「……絶対悪いって思ってないでしょ、それ」

 深くため息をついて、急いで駆ける。


 碧は歩くのが異様に早く、私は歩くのが異様に遅いため、このままぼんやりしていたら本当に置いていかれてしまう。

 早く追いつかなきゃ。



 碧の隣に着く直前、何か呟いていたようだったけれど、風の音にまぎれてよく聞こえなくて。

 結局、碧が何て言っていたのかわからないまま平安宮を目指し、歩みを進めていったのだった。


――・――・――・――


――くそ。奈都のやつ、面倒なのに目をつけられたな……

 ここからどう仕掛けてくるのやら。

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