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夏鶯の空~千年を越える夢~  作者: 星影さき
第六章 京の町へ
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僧侶の頼み

「あぁ美味しかった。ごちそうさま!」

 遅い朝食を食べ終わり、片付けが済んだところで足早に玄関へと向かっていく。


 さっきは許してくれたけど、碧怒ってたりしないよね。

 ずいぶん寝坊しちゃったしなぁ。



 裏口の方の廊下は板張りが古いのか、歩くたびにきぃきぃと音をたててきしんでいく。

 軋みの音以外は鳥の声と風がそよぐ音くらいしか聞こえない。

 きし、きし、きし、ぎし、ぎし……


 静かな廊下にいつの間にやら似たような音がもう一つ。

 どうやらその音は、曲がり角の向こう側から発せられているようだ。


 向こうにいるのは碧だろうか、それとも源菖さんだろうか? そう考えていると、目の前の曲がり角をから姿を現したのは源菖さんで、なぜか彼は私を見つけるやいなや嬉しそうに微笑んでいった。


「あぁ会えて良かった。貴女を探していたのです」


「え、私ですか?」


「ええ、そうです」


 源菖さんはいつものように、柔らかい笑顔を浮かべながら穏やかに話しかけてくれる。

 やっぱりあの碧の育ての親っていうことに、ものすごい違和感があるんだよなぁ。



 それにしても私を探してたって、どうしてなのだろう?

 全然見当がつかないし、尋ねてみることにする。


「あの、私にご用事ですか」

  

 私の問いに源菖さんは少し時間を置いた後、静かに私の目をじっと見つめ、また優しく微笑んでいく。


「奈都さん、碧をどうかよろしくお願いします」


「へ?」

 今の、聞き間違いじゃないよね?

 碧ををよろしく、って言ったの?


 言われた言葉が意外すぎて、うっかり間抜けな声を出してしまった。


 私に碧の何をどうよろしくするというのか?

 頭の中には、はてなマークが右に左に飛び交っているけれど、源菖さんはそんなことを気にとめる様子もなく話を続けていく。


「碧は聡いぶん、苦しむことが多々あると思うのです。あの子には見えなくてもよい物、知らなくてよい事まで見えてしまう。ひょっとしたら、他人の心の奥までも見えているのかもしれません」


「は、はぁ……」


 頭もいいし視野が広いのは知ってるけど、人の心まで見えるってそんな大袈裟な。

 それに……


「碧をよろしくと言われても、私の方が碧にお世話になってるというか。お願いされても何もできないような」

 苦笑いをしながら、みっともない現実を源菖さんへと伝えていった。

 こっちの時代に来てから碧に助けられてばかりだし、実際私が碧の役にたった試しは一度たりともない。


 源菖さんは腰をかがませて私の視線の高さに目を合わせ、優しく笑いかけてくれる。

「おや、そうでしょうか? 碧は確かに貴女に救われていますよ。屈託くったくのない貴女の隣にいるあの子は、とても居心地が良さそうですし、本当に楽しそうにしていますから」

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