VRゲームで逆トリップした少女に出会う話
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タントアルドオンライン
異世界タントアルドを舞台に生産系を主体にしたMMORPGである。
スタート当初は3D・2D・スマートフォンと、多種多様な媒体でインしても同じサーバーで遊べると言う事で人気を博し、スタート後10年経った今でも新規に参加してきちんと追加課金をして遊ぶ人も居るほどの大人気ゲームである。
最近、クライアント側の機械の進化に伴って、コンシュマー対応のクライアントとしてVRクライアントを作り、この度発売に至った。
「モニターテストでは問題なかったんだけどねぇ・・・」
VRクライアントの利点はその操作感にある。
肉体をそのまま動かしたかのような操作感、爽快感を得ることが出来るのだが、反面現在の技術では本当に自分の身体を動かしてしまう関係で、家庭用とはいえ専用の部屋が必要なレベルなのだ。
その上で、今まではVRと言っても生活シミュレーションが多く動きも少なかったのに対して、アクションRPGと言う事で飛んだり跳ねたり転がったり・・・を、本人がやってしまうので、小部屋でやってても身体をあちこちにぶつける人が続出したのだ。
しかし、モニターテストで問題がなかった以上、そんな動きが必要なわけではなく、実際にはプログラムコマンドを視線で選択するだけでその操作をしてくれる様になっている。
要は、利用者がそれでも動いてしまうと言うことなのだ。
「これ以上問題が起きる前に回収するしか無いですかねぇ?」
元々この懸念はあったのでしっかりと注意書きには書いているのだが、それでも事故が相次いでいるのだ。
クライアント販売数が10万件の内1000件程度とはいえ、1%も事故があるのでは信用問題になる。
回収とは言わないまでも、販売は停止するしかないかもしれない。
「VR機械のこれ以上の進化を待たないと無理だよねぇ、これは」
販売担当者からは、ため息が又一つ漏れた。
ところ変わって。
ここは○城県古○市。
障害者介護施設の一室である。
「山口さ~ん、お荷物届きましたよ~?」
「ああ、じゃあ箱から出してそこにある回線にセットしてください。」
介護士さんに自分じゃ出来ないことをお願いすると、俺は先日来ていた手紙を読む。
『満へ
足が動かなくて退屈だろうから、お前が好きなゲームの最新システムを用意してやった。
こいつは凄いぞ、お前がいつもやってたあのゲームにも対応しててな、まるで普通に歩いてるみたいに景色が変わるし、自分が動かなくてもマクロを組めばジャンプや横っ飛びなんかが出来るんだ。
ただ困った事に、慣れるまでは自分が動いちゃって怪我しかねないんだけどな(苦笑)
今のお前には多分もってこいだ、存分に遊んでくれ。』
悪友からの見舞いの品だ・・・あの事故でこのゲームの開発者が意識不明の重態になったとき、彼はこのゲームの責任者として企画を引き継ぐ事になった。
このVRシステムも、彼が引き継いだ企画の一つだ。
このゲームの開発者は、なんと今から8年も前にこの構想を練って、家庭用VRシステムそのものが普及したときに向けて、着々と開発を進めさせていたのだという。
しかし、彼も手紙で若干触れていたが、このシステムは若干利用者の慣れが必要なところがあり、暇潰しに見ているテレビのニュースでも度々取り上げられるほど事故が多いらしい。
「まあ、これだけ体が自由に動くゲームなら一昔前に流行った『VRゲーム=デスゲーム』みたいな展開は無いだろうし、やる分には楽しそうだ」
介護士さんも若干オタク入っていたので言ってる事は理解できたらしく、思わず失笑していた。
「山口さんに何かあってのめり込んでも、私たちがお世話しますから大丈夫ですよ~」
この退屈さえなければ、障害者も悪くないかもな・・・
長い事障害を患っている人からすると不謹慎すぎるかもしれないが、未だに自分が障害者だと言う実感が無いだけにこんな軽い考え方をしてしまう。
俺の名前は山口満、今年で30になる。
悪友とは大学で知り合い、彼は9年前あのゲームの開発者のコネで入社し、全てのノウハウを教わってVR企画も彼と共同で進めていた為、開発チームの主任として抜擢されたそうだ。
俺はと言うと、その開発者が作ったと言われるアパレルメーカーに経理として入社していた・・・別にコネでは無い。
就職活動の際、教授から経理を進められて、求人票を見て目に付いたのがその会社だっただけだ。
卒業後、順調に就職したと思ったら、うちの会社の会長・・・あのゲームの開発者が事故に巻き込まれたと聞いたときは、会社がどうなるのか心配だった。
まあ、実質経営からは離れていたので影響はなかったけど。
二ヶ月前、長年植物状態だったうちの会長がとうとう息を引き取ったと聞き、社葬が行われることになったので、俺はその手配などで東奔西走する事になった。
出棺も終わり、ひと段落ついたと思ったところで俺に悲劇が降りかかった・・・香典強盗が来たのだ。
強盗は俺の後頭部を何か硬い物で殴ると、記載の終わって後は片すだけになった香典の詰まったバッグに手を伸ばした。
朦朧となりかけながら、下半身が動かないのにも気付かず腕だけで犯人を取り押さえる間に、異変に気づいた他の人たちが駆けつけ、犯人は取り押さえられる事となった。
後日、病院で出された診断は「下半身不随」
小脳が一部欠損したらしく、将来的に回復しないことも無いが、少なくとも後10年はどうにもならないだろうということだ。
この診断を受け、会社は障害者年金の申請をしてくれたので、食事などの心配は贅沢しなければ大丈夫そうだ。
会長の奥さんも、「主人の葬儀を守って頂いた事に感謝いたします」と、この介護施設の費用を出してくれた。
そして今・・・目下の最大の敵は退屈となったわけだ。
性欲とかはあんまり無い・・・と言うか、下半身不随の所為かEDになっているので湧いてこないと言う事だろうか?
未だに骨折患者程度の感覚なのももしかするとこの辺の切迫感が無い所為なのかも知れない。
「ま、暗い事考えても仕方ないし・・・ゲームでもするか!!」
このゲーム、実を言うと入院前どころか就職前から嵌っている。
家では3Dで、通勤時はスマホで、出張先では2Dでと暇があれば接続する廃人プレイだった。
それがいよいよVRで出来るとなればやるしかない!!
発売直前にこんな事になってしまい、若干諦めていた部分もあっただけに喜びもひとしおだ。
「さ~って・・・どうしよう?そう言えばこの間のメンテナンスでキャラクタースロットが開いたんだったか?」
スマホから公式サイトを確認する。
『VRシステム導入記念、キャラクタースロットを1つ追加しました』とあるのを確認した。
タントアルドオンラインは、当初1アカウント2スロットだったのだが、5年前テコ入れで4スロットになり2年前5スロットになったところだった。
つまり、都合6スロット目と言う事になる。
「ん~、迷う。」
とりあえず、このゲームの肝である生産系キャラ(武装・アイテム・製薬・魔道具)は全部作ってある。
戦闘系キャラも一人で十分だし・・・後残ってるのは。
「オールマイティか・・・」
このゲームには登録職業と技能職業の二通りのジョブがあり、レベルアップに因って得られたポイントを割り振る事で、さまざまなスキルを身につけることが出来る。
ただし、この登録職業に就かないことで、実はレベルアップごとに大量にポイントがもらえると言うメリットがある。
所謂「モラトリアム」の結果、色んな職業スキルを身につけることが出来るのが「万能型」である。
「・・・でもなぁ~・・」
ただしデメリットも有る。
まず、登録職業と言うのはただポイントを無駄に食う為に存在するのではなく、ステータスボーナスやスキルの威力にボーナスを付けてくれる。
例えば、登録職業が戦士の場合武器攻撃スキルにボーナスがつき、腕力・体力に成長ボーナスがつく。
登録職業に戦士を選び、技能職業に剣士を選ぶと剣に関係するスキルにボーナスがつき、腕力・体力が成長しやすくなると言った具合だ。
技能職業はどの職業でも複数取る事が出来るが、ポイントが限られている為無駄に取るわけには行かない。
多くの場合は登録職業のボーナスを受けることの出来る戦闘系の技能職業と生産系の技能職業を取って、メインの方を主に成長させる。
モラトリアムの間はその恩恵を受けることはできない為、どんなにスキルを取ろうとも成長率や補正で負けてしまうのだ。
その為、万能型は2ndキャラどころか4thキャラからも外される傾向にある。
ちなみに、万能型最大のメリットであるそのポイント数はMAXレベルに到達した時全技能職業のスキルを全て習得してもまだ3桁余ると言われている。
何を考えてこんな仕様を盛り込んだのか悪友に聞いたところ「無茶無謀はRPGの肝だし」とか言い出して呆れたのを覚えている。
「・・・せっかく時間もあるしな、いやになったりアイテム確保で詰まったら他のキャラ使えば良いだけだし」
何、後10年は直る見込みが無いんだ・・・一人前になるまで付き合ってやるか。
こうして俺の「モラトリアム」という名の無職生活が始まった。
タントアルドオンラインでは生産系の職業が優遇されている。
単に漠然とゲームをやっていると気がつかない人も多いが、まず生産系の登録職業についていると商業ギルドに登録した事になる。
この商業ギルドへ登録するとまずさまざまなアイテムを小額(一割)上乗せしてNPCに買取してもらえる。
こればかりではなく、該当職業の生産アイテムの材料を値引き(一割)販売してもらえる。
又、永続的にバザーの利用権を保有できるので、露店販売が無料で行うことが出来る。
このゲーム内のバザーは特殊なシステムで、まずバザー広場が存在する。
この広場に、NPCを通じて販売許可を取るのだが、ギルドに登録されていないと1回1000ゼニーかかる。
この世界の物価的に、果物が一桁で買えるというとどのくらいかわかるだろうか?現実社会に当てはめると恐らく1ゼニー百円くらいだと俺は考えている。
10万円も払ってフリマに店を出すとなればちょっと腰が引けると言う物だ。
まあ、現在ではインフレが起きてるので冒険者に限って言えば1000ゼニーくらい大した事無いというか、売値に吹っかけても売れるくらいなんだけど。
このバザー会場に露店をしている最中はキャラクターを固定されてしまうのだが、露店中は別にログアウトしていてもかまわない。
つまり、露店を出しながら他のスロットのキャラクターを育成するとか、クライアントを落として別作業をするとか、電源を落としてたまにスマホで確認するとかやり放題なのだ。
その為、キャラクタースロットが増える前は代理露店などと言う商売が流行り、増えた後は露店用キャラクターとして生産系のキャラクターを作るプレイヤーも現れた。
生産系の登録職業は、各自スキルで作ることの出来るアイテムを使用する際、何段階も効果を上げる事が可能で、例えば製薬スキルを持つ治療士で登録していると薬品の効果を上げる事が出来るなど。
治療士は製薬スキルでエリクサーを作る事が出来るのだが、生産スキルをMAXにした挙句最上級の材料を必要とし、その上で道具も最上級、総合レベルと運のステータスを加えた五角形のレーダーチャートで基本製薬成功率が95%を超えないとエリクサーの生産コストが100万ゼニーを超えてしまう(ちなみに、現在では総合レベルMAX、運MAXだと理論上130%になるらしい)と言う事もあって、エリクサーは「生産できるレアアイテム」なんて言われていたりする。
しかし、治療士のレベルが上がれば最終的にポーション系最上級アイテム「EXポーション」「EXMPポーション」「万能薬」の3つで同じ効果が出せるのだ。(ちなみに、平均価格は合計で1万ゼニー)
これら3つのアイテムは基本製薬成功率80%でも十分実用レベルで生産できる事もあって、露店で割安に購入する事も出来る。
結果、登録ジョブは治療士なのに製薬スキルを最低限しか取って無いとか、運のステータスに振ってない等というプレイヤーも居ると聞く。
この生産優遇のスタイルは他の職業にも波及しているが、今は良いか。
まあ、何でこんな事を考えているかというと・・・
「必要な物はこれくらいか・・」
俺は自分の生産系キャラクターの能力を活用して、装備的に新キャラを強化する方法をシミュレートし、必要な物を揃えた訳だが・・・
これが意外と大変なのだ。
何しろ、アイテムにも装備品にも使用レベル制限という物が存在する。
例えば、Lv1から使える装備などキャラメイク時に貰える物を改めて生産系職業のキャラクターが作成する際に能力付与し捲くらなくてはいけないんだが、いかんせん元のステータスが低すぎるのだ。
ナイフ+10(STR+5、ATK+10)
布の服+10(VIT+5、DEF+10)
布のズボン+10(VIT+5、DEF+10)
草のサンダル+10(SPD+5、DEF+10)
葉っぱの帽子+10(INT+5、DEF+10))
アイテム名の横の+の値は元々のアイテムの数値をこれだけの割合増加できたと言う意味で、実際にATKやDEFで表示すると
ナイフ+10(STR+5、ATK+10):ATK10+1(+10で10%)+10
布の服+10(VIT+5、DEF+10):DEF25+2+10
布のズボン+10(VIT+5、DEF+10):DEF15+1+10
草のサンダル+10(SPD+5、DEF+10):DEF10+1+10
葉っぱの帽子+10(INT+5、DEF+10)):DEF10+1+10
と言う事になる。
総合的に全部装備するとATK+21、DEF+105と、さらにステータスボーナスでSTR+5、VIT+10、SPD+5、INT+5と十分チート級なのだが、スタートダッシュをするには少々物足りなく感じてしまう。
「Lv1から使えるマジックアイテムとかあったかな?」
キャラクターを「魔導師」に変更する。
魔導師とは一般的な魔法使いと同じ様に魔法系のスキルを使うことが出来る他に生産系スキルを取る事でマジックアイテムを作ることが出来る。
当然の様にスキルを半端に取るとどっちつかずになるが、後半になると10:3くらいのバランスでどちらかのスキルをカンストできる為、大体の魔導師は魔法使いとしてのスキルを先にカンストしていると聞く。
まあ、俺は当然生産系をカンストしている。
「Lv.1で使えるのだとこんなもんか」
炎の指輪(効果:ファイヤーボルトLv.1使用可)
回復の指輪(効果:ヒールLv.1使用可)
こんなもんでも無いよりましなので倉庫経由で渡す事にする。
傷薬はポーション系だとステータスやスキルの影響を考慮されているのでモラトリアムの低レベルでは効果が薄い、HP回復だけなら食料品の方が数値固定なので使い勝手が良い・・・インベントリの占有数値の割に回復効率の良いクッキーを大量に用意した。
これだけあれば戦闘系のスキルを充実させるくらいまでは育てられるだろう。
さて、いよいよキャラクターメイキングだが・・・万能型だしデフォで良いか。
そんなこんなで次のような感じになった。
[name]ミツル
[job]モラトリアム
[skill job]無し
[status]
STR 10+5
INT 10+5
DEX 10
VIT 10+10
SPD 10+5
LUK 10
ATK 30+21
DEF 40+105
ATKの初期値はSTRの2倍、DEFの初期値はVITの2倍だ。
「さ~って、まずは狩りに出かけるかね」
とりあえずレベルをあげないと話にならないのはどの職業でも一緒だ。
一応このゲームにも「初心者修練場」と言うシステムが存在する。
初心者と言いつつ単なるキャラクターの成長にブーストをかけるものなのだが・・・このゲームの場合登録職業に就職しないと受けることができないと言う仕様なので、モラトリアムでは恩恵を受けられないのだ。
ただし、そうは言ってもまったく利用が出来ないわけでもない。
まず、モラトリアムとしてでも登録する事で休憩システムが利用できる。
この休憩システムと言うのは、宿屋と違いMPのみを50%回復してくれるシステムだが、特筆すべきは無料なのだ!!
MPが多いほど恩恵を受けるとはいえ、MPが少なくてもスキルで攻撃をするようなキャラクターならば利用しない手は無い。
モラトリアムとはいえスキルを使える俺にとっても重要な施設だ。
次に、倉庫の利用が無料になる。
モラトリアムは基本的に金を稼げないので倉庫が有料だと厳しい。
通貨は金貨や銀貨と言う貨幣にして持つ事で、スロット間の金の移動ができる為割と重要な設備でもある。
最後に、これが一番重要なのだが、バフや狩場転送などの支援を受けられるのだ!!
これは登録職業に衝いているとLv.20までしか受けられないが、モラトリアムならいつまでも受けることができる。
その為、スタンプラリー用にモラトリアムキャラクターでスロットを一つ埋めているプレイヤーも居たりする。
俺が今用事があるのはバフと狩場転送。
バフを貰ってからLv.1~10までの狩場に転送してもらう事にする。
狩場に着いた・・・早速目の前に初心者様モンスターが数引き出て来た。
流石に初心者用なので向こうからは向かって来ない、所謂ノンアクティブ状態だ。
まずは遠くからファイヤーボルトを撃ち込む。
魔法威力を増幅する装備はつけていないので、威力はINTの二倍に属性倍率をかけてから相手のMDEFを引いた数値になる。
標的はMDEF0の芋虫Lv.1、属性倍率は弱点Lv1なので1.25倍、ダメージはバフ込みで62当たった。
芋虫Lv.1のHPは150なのでまだまだ削らないといけない。
ナイフでの攻撃に切り替えてアタック!外した!!
基本命中率はDEXの二倍+総合レベルなのでまだたったの20%しかないから仕方ない・・・あれ?そう言えばバフ貰ってるから40%か。
ただ、それではいくらなんでも苦労しすぎるという事で初心者用のモンスターは基本回避率が低く設定されている。
芋虫Lv.1の基本回避率は-50%なので、合わせて90%の命中率という計算になっている・・・あれ~?
芋虫Lv.1の攻撃、1ダメージ!!
さすがDEF+105、見事ダメージを防いでくれた。
このゲームでは、どんなに相手のATKとDEFに差があっても運しだいで1ダメージ通る事があるので、これでもダメージを受けたほうだ。
反撃・・・今度は当たったので70のダメージ、芋虫Lv.1のDEFは1なのでこんな物だ。
結果二回ナイフの攻撃を当てるまでに3ダメージを食らった・・・食らいすぎだな、と言うか本当に70%か疑問に思うくらい当たらなかった。
後、回避に慣れてないのもあるんだろうな、VRのアイコンを視線で指定してジャンプや横っ飛びとか難しすぎる。
スキルもスキルセットを視線で指定して使用だから結構めんどくさい。
やっぱり慣れるまではモラトリアムが良いな、下手にメインキャラ使ってデスペナもらうのもバカらしいや。
「ファイヤーボルト!!」
システムメッセージの声で魔法の矢が撃ち込まれる。
なんか自分が叫んでるみたいでちょっと恥ずかしいけど消す方法ないみたいなんだよなぁ~(厳密には出来るけどやると音声認識になる)
レベルも上がってこの辺ではレベルが上がりにくくなってきた・・・そろそろLv.10か
このくらいになるとステータスボーナスの割り振りに因って大分戦闘スタイルが決まってくる。
せっかくの万能型なのでバランス振りしてみた・・・HAHAHA使えねぇ。
ここまでスキルを振っていないことに気付いたのでスキルを取ってみるか。
まずはポイントを確認・・・80ポイントある。
レベル上がるごとに10ポイント追加か、登録職業についていると3ポイントしか貰えないので7ポイントも登録職業に取られていた事になる。
とは言えそれに見合う以上の恩恵は得ているので文句はないけどね。
さて、では何をとるか・・・
剣術:片手剣・短剣・両手剣によるダメージと命中率に追加補正(SLv×10)
一見命中率補正がぶっ壊れ性能に見えるが、敵のレベルが上がると回避補正が+100まで付くのでむしろバランス調整的には十分な数値だったりする。
徒手空拳:素手による(以下略)
槍術:槍による(以下略)
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
とりあえず攻撃系は剣術と格闘術だけLv.10にする、これでMAXだ。
格闘術と徒手空拳の違いは、格闘術は武器攻撃の補助的なもので、関節技や蹴りなどのスキルを取る為の基本スキルだ、回避率も上がる。
残り60P
次は魔法系を・・・
火魔法:火属性の魔法が使えるようになる。SLv×10%のダメージ補助
属性ごとの基本スキルだ。
これが無いとその属性の派生スキルを取る事が出来ない。
水魔法:水属性の(以下略)
土魔法:土属性の(以下略)
風魔法:風属性の(以下略)
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
とりあえず四大属性の基本スキルをLv.1にして、各属性のボルトをLv.10にする、合計44Pだ。
残り16P
他はとりあえず補助スキルだな・・・
HP補助:SLv×1000のHPを追加する
MP補助:SLv×100のHPを追加する
魔法補助:SLv×5%のダメージ補助
攻撃補助:SLv×10%のダメージ補助
回避補助:SLv×10%の回避補助
これらはモラトリアム中じゃないと使えないスキルだ。
モラトリアムの内にこれを取ったからと言って、就職したらお徳とはならないので要注意。
HP補助とSP補助をLV.2に、魔法補助と攻撃補助と回避補助をLv.4にして使い切った。
現時点で同レベル帯の他の職業と比べても遜色のない能力を持っているわけだが・・・
本当にモラトリアムが育成辛いのかと、この瞬間は思うんだよな。
問題はこの後ステータスボーナスがないので、後半に行くほどきついって話しだったが。
さて、次にレベルが上がったら狩場変更しに修練場に戻らないとな。
狩場を変えた、今度はLv.10~Lv.20の適性狩場だ。
ここまで来るとアクティブモンスターが出てくるので注意しなくてはならないんだが・・・
ガササ・・
草むらで何かが動く音がする。
なんだろう?
モンスターが潜んでるのを教えてくれてるのかな?
ここに来たのはVRシステムでは初めてだから新しい要素なのかもしれないと注意深く見ていると、何かがおかしい・・・こっちを探っている?
PCかな?と思ったら
「きゃぁっ!!」
誰か飛び出してきた。
出てきたのは女の子二人組み・・・向こうにはノンアクティブのオオツノジカが居た。
あれに驚いて出てきたのか。
「えっと・・・大丈夫?」
VRシステムを使ってても触感とかわからない筈だし・・・振り返った所に目の前に出てきたとかかな?
「あ・・あのぉ・・つかぬ事を聞きますが」
「何かな?」
「ここはどこなんでしょうか?」
はて?おかしな事を聞いてくる。
もしかしてVRシステムで始めた物の歩き回ってどこだかわからなくなったのかな?
「えっと・・・俺もVRシステムは初めてだから不慣れだけどさ、ほら・・右上の隅の方にMAPが無いかな?」
「??????」
どうやら言ってる事が理解できてないようだ。
おかしいな、こんなに表情がリアルならVRだと思うんだけど・・・
「あの・・・『ぶいあ~る』とはなんでしょうか?」
あれ~?
おかしいな、じゃあ一体この子達は何でここに接続してるんだろう?
「君達が接続してるのって『タントアルドオンライン』で良いんだよね?」
「??????」
「あ・・あれ?」
「えっと・・・・『接続』ってどういう意味なんでしょうか?」
もしかして逆トリップロールプレイ?
それにしては真に迫っているような・・・
「私たちは『フィアリアース』と言うところから来たんです」
「はぃ!?」
思わず語尾が裏返ってしまった。
「はぁ・・・つまり、君達はその『フィアリアース』と言うところのトモツ盆地と言うところから来たわけだ」
「ええ。そこにある『邪神の祭壇』とされるダンジョン周辺は立ち入り禁止区域として警戒されていたんですけど、まさか遺跡を挟んで反対側にあった丘陵地でこういう目に遭うとは・・・」
なんでもそのトモツ盆地と言うところには邪神に生贄を捧げて召喚を図った祭壇があったらしく、約10年前発見されたそのダンジョンを避けて捜索をしていたらしい。
しかし、彼女たちが言うにはその反対側にあった小高い丘に現れた「ノウメンゾウ」と言うモンスターをやり過ごそうと迂回している最中に一抱え程の石に躓いたと思ったら、次の瞬間この世界に飛ばされたのだそうだ。
「邪神の祭壇」を発見した冒険者の報告で、その辺りに何かしら不思議なエネルギーが満ちていると言う報告はあったのだが、まさかそこまで影響があるとは思いもしなかったのだそうだ。
まあ、本当にそのエネルギーと源を同じくしているとは限らないが。
「では、こちらでの事は知らないわけですね・・・食事などはできるのでしょうか?」
「え?・・どういうことですか?」
「ここは私たちから見るとゲーム・・・つまり虚構の世界なんです。そこに生き物が入り込んだと言うのが本来おかしな話で・・・そこで生活できるのかと言う問題がですね」
「でも・・・あなたに触れることが出来ますよ?」
彼女が俺に触れてくる。
あれ?・・なんか触られている感覚が・・・おかしいな、攻撃を受けてもまったく感じなかったんだけど。
「え!?・・・ちょ・・ちょっと待ってください!」
俺はヘッドセットに手をかけた。
彼女達から見るといきなり頭の周りに手を当て始める奇妙な行動に映った事だろう・・・だがそれどころではない。
「な・・っ!?」
無い!ヘッドセットに触れている感覚そのものが無い!!?
このゲーム機のVR装置は非常にお粗末な物だ・・・あくまでSF小説と比べればなんだが。
HMDに各種センサーが付いていて、上半身の位置情報を画面内に取り込める・・・その程度だ。
表情などもそのセンサーで読み込むことが出来るので、VR装置同士でなら表情がわかると言うふれこみだった。
だがそのHMDに触れることが出来ない、手はそのまま額や髪の毛に触れている。
この装置にそんな触感再現能力は無いはずなのに!!
「あ・・あのぉ~・・・大丈夫ですか?」
ここまで黙っていた子の方が俺の行動を見て不安に思ったのか声をかけてきた。
鈴を転がしたようなとはこんな声なんだろうか・・・非常に耳障りが・・・いや、そうじゃなくて。
「とりあえず、今起きている事を説明します」
「はぁ・・・」
「どうやら私も飛ばされてきたようです」
「え?」
なんと言うことだろう・・・逆トリップのロールプレイかと思ったら自分もトリップしていたとかどこのラノベだ。
「残念ながらここがどこか・・・俺も自信がなくなりました」
「そ・・そんなに気を落とさず」
ん?・・そう言えばさっきから何か・・・
「あ・・・そう言えば足の感覚がある」
そう、俺もすっかり忘れていた・・というか本来ゲームだとばっかり思ってたから気にしないようにしていたんだが、俺は下半身不随だったはずだ。
しかも皮膚感覚すら感じなくなっているはずなのに、どういうわけか足に触れる草や土を踏みしめている感覚を感じるようになっていた。
「え?それって不思議な事なんでしょうか?」
普通に考えると異常な言動で不安がらせてしまったようだ。
「いや、さっきも言ったようにここは虚構の世界だと思ってたから気にしてなかったんだが、俺は元々脚の感覚がなくなってたんだよ」
「そ・・それは大変答え難い事を」
「ああ、その辺は別に気にして無いから良いんだ。そうなったのもついこの間で実感無かったし」
「そ・・そう言うものですか?」
俺にとってはその程度だったんだよなぁ。
「それはまぁ置いといて、自己紹介をし合おう。まだお互いの名前も知らないのを忘れてた」
ゲームだったら見れば名前が出るんだけど・・・出てこないしな。
「俺の名前はミツル。君たちの名前は?」
「あ・・わたしはレイナと言います。見ての通り・・と言うかこちらでは馴染みが無いかもしれませんが、魔術師をやっています」
あ・・、そう言えばローブと杖だからそんな感じだよね。
「わたしは・・ニーと言います・・・僧侶をやっています』
引っ込み思案っぽい方は僧侶か・・・
「攻守のバランスは取れてるけど、前衛も無しで探索してたの?」
MMOのパワーレべリングなんかだとたまにこういうペアも居るけど、現実だと厳しいよねぇ?
「前衛は・・・居たんですけど・・・」
なんだか言い辛そうだし聞かないで置くか。
「あ~・・」
「レイナが襲われかけたんで、殴って逃げてる最中だったの」
「それは・・確かに言い難い事だな、すまない」
制止する前に答えられてしまった。
「俺はゲームでは『モラトリアム』と言う職業って言うか、まぁ言って見れば無職だな、それをやってたんだが」
「えっと・・・『無職』って職業なんですか?」
正しい疑問である。
「まあ、便宜上『無職』となっているだけで、他の職業のスキルとかが使える万能型なんだよ。職業に就いちゃうとその系統のスキルしか使えなくなるんで、他に飽きたプレイヤーがお遊びでやる職業なんだよ」
「つまり、お遊びでやる職業をお試しで育ててる最中にこんな事に・・・」
「ま・・まあ、そう言うことだよね」
乾いた笑いがこみ上げてくるのを押さえながら答えた。
ちょっと声が震えていたかもしれない。
「ちょっとスキルが使えるか試してみるから見ててよ」
そう言うと、徐にスキルの準備をする。
インターフェイスはVRの時のままなのでさっきまでと同じやり方で・・・
ちょうど良いところにアクティブモンスターの野犬Lv.10が・・・
「ファイヤーボルト!!」
システムメッセージではなく俺の声でスキルが放たれた・・・俺、声出して無いんだけど?
ファイヤーボルトLv.10が野犬Lv.10を撃ち抜く。
ファイヤーボルト1本の威力が(INT20×2)+20%+10% で52、ボルト系はレベルが上がるごとに本数が増えるので最大520のダメージが通るのだが、野犬Lv.10のMDEFは10なので1本当たり42ダメージとなり合計420となる。
野犬Lv.10のHPは500なのでまだ80残っている。
「危ない!!」
相手がまだ健在なのを見てレイナが注意を促すがそんなことは百も承知、俺は軽いステップで避けると右手のナイフで危なげなく野犬Lv.10に斬りつける。
剣術の効果もあってダメージは(STR20×2+21)+40%+100%からDEF50を引いて96。
野犬Lv.10はその場に崩れ落ちた。
回避行動は殆ど無意識だったので、恐らく回避補助Lv.4の効果だろう。
彼女たちと会話しているうちにバフも切れていたので今一なダメージではあったが、スキルによる補助が大きい為それなりに大きな結果が出た。
「っと、まあこんな職業なんだけど」
あっけに取られているレイナに向かって話しかけてみる。
レイナはまるで信じられない物を見たような顔をしていたが、気を取り直して俺に質問してきた。
「ミツルさんは・・・もしかして高レベルの魔法剣士なのでしょうか?」
「いや、言ったろう?これがこの職業の特性なんだよ。他の職業の良いとこ取りが出来る代わりに、他では職業毎の強い補正が付くところが、付かない。その代わり、早い段階でスキルと言う形で高い補助が取れるんだ」
「なるほど・・・私たちの世界の無職とは大きく違うんですね」
聞くと、彼女の世界にも無職と言う状態はあるらしい。
ただ、それはタントアルドの無職とは違い、単に互助会に参加したと言う意味での職業があり、スキルなどは職業と関係なく取る事が出来るので、職業の意味は「このスキルを持っている」と言う目安でしかないそうだ。
何故職業が取得しているスキルの目安になるかと言うと、一定レベルの該当スキルを取っていないと、その職業の互助会に入る事が出来ないからだそうだ。
「とりあえず街に行くか・・・君たちの装備とか確認しておきたいし」
彼女達のレベルや装備を確認すると、レベルは20で初期装備だった。
とりあえず手元にあるドロップしたものの売れない低レベル装備を彼女たちにプレゼントした。
性能は良いのにNPC売りが10ゼニーの上にこれが必要になるレベルの層とドロップする数が合わなかった為、盛大に売れ残ったのだ。
これをドロップするモンスターはアイテムの割りに異様にハイレベルのイベントモンスターだったのにどうしてこうなった。
まあ、俺がソロ狩りで倒せたくらいの強さの上に全MAPに1日1回出現とかだったんでドロップ率さえ調整すれば問題なかったんだよな・・・80%とか壊れすぎだろうよ。
「これ使ってくれ、別に返さなくても良いから」
倉庫の肥やしだし・・・
「え・・でも、凄い性能ですよ?これ」
「うん、向こうでこれくらいの物を買おうと思ったら家一軒買えるよ」
アイテムセットでにしても随分高いな・・・まあ、それだけの性能はあるか。
ハロウィンロッド(INT+10、MATK+100):ATK100、MATK250 使用レベル20上限50
ハロウィンローブ(INT+10、MDEF+200):DEF100、MDEF250 使用レベル20上限50
ハロウィンハット(TNT+10、MDEF+200):DEF100、MDEF250 使用レベル20上限50
ハロウィンシューズ(TNT+10、MDEF+200):DEF100、MDEF250 使用レベル20上限50
久しぶりに見たけどぶっ壊れてるよな~
でもレベル上限があるからいつまでもつけられないって言う欠点もあるんだよな。
しかも既に殆どのプレイヤーの所持キャラクターに50以下が居ないので駄々あまり中。
どういうわけかまだ4セットも余ってたので2セットくらい良いだろう。
ついでに俺の装備も変える・・・さっきの野犬Lv.10でLv.11になれたので、初期装備から漸く脱却できる。
Lv.11以上の装備だと割りと良い付与が出来る上に装備そのものの威力も上がる。
だがそれ以上に、イベントアイテムで良い奴があるんだ。
マジカル仕込みロッド(HIT+50、CRI+50):ATK150、MATK100 使用レベル11
マジカルタキシード(SPD+50、DEX+50):DEF150、MDEF100 使用レベル11
マジカルシルクハット(MATK+100、LUK+50):DEF150、MDEF100 使用レベル11
もう随分前のクリスマスイベントで手に入れたアイテムだ。
特にマジカル仕込みロッドが凶悪、武器属性に片手剣と杖が付いているのだが、モラトリアムで剣術と杖術両方取ると両方の補助が乗るのだ!!
ある意味モラトリアム御用達武器と言えるだろう。
当時でも割とぶっ壊れアイテムと言われていたが、ベース性能の高い高レベル用アイテムに上位互換の装備が出たので、今は一定の価値で落ち着いている。
スロット増加の度に人気が出る装備でもあるが、当時イベントに参加していた人間が少なく出回っている数は少ない。
女性キャラクターが着けると何故かシルクハットがバニーヘアバントになり、タキシードがバニースツになるので、そこだけは不満だ。
他のプレイヤーからするとそこも魅力だそうなんだが。
ズボンと靴は自作の育成用装備に変えてこれで準備は整った。
「じゃあ、どこか適当なところでレベル上げしますか」
それくらいしかやること無いし。
とりあえず俺たちはパーティーを組んで、行けるとこまで行く事にしてみた。
5時間後・・・俺はレベル70になっていた。
このゲーム、パーティーを組んでも一切経験値の分配が無い為、俺ばかりが経験値を吸ってしまったのだ。
それもそのはず、回避するわ魔法ダメージはでかいわ殴れば必ず当たる上にダメージもでかいわ・・・彼女たちはどうしても呪文詠唱や「魔力を練る」と言うプロセスが必要なのに対して、俺はシステムメニューで選ぶだけ・・・速度がぜんぜん違う。
結局、彼女達はあれから10レベルしか上がってなかった。
「どれだけ凄いんですかその『モラトリアム』って!!」
レイナが愚痴を言うのも仕方ないだろう。
今のスキル構成は・・・
剣術Lv.10・杖術Lv.10・格闘術Lv.10・回避術Lv.10
火魔法Lv.10・水魔法Lv.10・土魔法Lv.10・風魔法Lv.10・光魔法Lv.10・闇魔法Lv.10
各種ボルトLv.10×6種
各種範囲魔法Lv.10×6種
回復魔法Lv.10・防御魔法Lv.10・加速魔法Lv.10・強化魔法Lv.10・浄化魔法Lv.10
各種全体魔法Lv.10×5種
製薬Lv.10・武器作成Lv.10・防具作成Lv.10・魔道具作成Lv.10・アイテム作成Lv.10
各種生産補助スキルLv.10×5種
HP補助Lv.10・MP補助Lv.10・魔法補助Lv.10・攻撃補助Lv.10・回避補助Lv.10
まだ220P残ってる・・・
これにあの装備なんで、もう無双に近い状態だ。
何より酷いのが生産補助スキル。
全部の生産系スキルLv.10を取ったら出てきたんだが、スキル説明を見ると1レベルに付き生産成功率が5%上がると言う・・・
どれだけ酷いってMAXにしたら専門職のMAXLvに匹敵するんですけど・・・
いくら生産優遇とは言っても、モラトリアムにまで生産スキルを充実させるって・・・良い意味で酷いな。
大体モラトリアムやってるのは戦闘系で万能キャラを作りたいって奴ばかりだから、ここまでは見なかったんだろう・・・と言うかここまで育てる前に挫折するし。
HPやSPは低いけど、そうは言っても専門職に比べればと言うだけで実際には現時点で魔法職の倍のHPと戦闘職の倍のMPを持っている・・・強くね?
全然不遇じゃ無いじゃん。
それからさらに5時間・・・俺はLv90になっていた。
おかしい、俺はパワーレベリングをしたつもりなど一切無いのだが・・・
彼女達もいよいよ40レベルを超え、そろそろ自分達がここを抜け出す方法を探そうと話し合っていた。
いい加減疲れただのお腹が空いただの言ってきたので、とりあえず宿を取る事にした。
言われて気付いたが、俺もいい加減腹が減って動けなくなっていた・・・いかん、廃人脳ができあがっとる。
翌日、町中のプレイヤーやNPCに聞き込みをする。
当然新しいクエストと関係無しに、何か特別な事が無いかという話を調べているわけだが・・・
「何も無いな・・・」
大きな町を3つ、転送を利用して移動してみたがこれはと言う情報が無い。
「とりあえずだめもとで行きたい場所があるんだけど・・・来るかい?」
「あなたと離れてどうしろと?あなたが手違いで一人だけ戻ったり別の世界に言ったら私たちだけで途方に暮れることになるんですけど」
レイナ冷たい・・・
まあ、昨日丸1日連れ回してたんで仕方ないんだが。
俺は昔から不思議ポイントと呼ばれている場所へ二人を案内した。
「ここなんだけどな・・・」
そこは、8年前からワープゲートが現れているにもかかわらず、スタッフが何度やってもワープゲートが消えないわ、かと言ってそこに触れてもどこにも飛ばされないわと言う事で、恐らくバグでエフェクトだけ出ているんだろうと言う事になっていた場所だった。
その名も「境界の神殿」
北極にあるその神殿は、空中にさかさまに浮かんでおり、誰もデザインした覚えが無いとされている。
発見時にはひらがなで書き込まれた為、「教会の神殿」って何のことだよと言うツッコミがされていた。
ワープゲートはその神殿の真下に現れていて、当初はこの神殿に行く為に設定されたポイントだが、神殿のMAPが設定されていないので行けないんじゃないかと言われていた。
もしかすると、何か関係があるかもしれない・・・
淡い期待を抱いてゲートに触れると、奇妙な空間に飛ばされてしまった。
俺が消えたのを確認して、レイナとニーが後を追ってきた。
「ここは・・・?」
レイナがここはどこかと聞きたそうだが・・・俺だって知らない。
「俺も知らん、本当はあそこは触れても何も無いはずの場所だったんだ」
「と、言う事は?」
「この状態の俺が触れる事でここまで送られ、君達も来られたと言う事は何か関係があるのかもしれない」
送られた先は、どうやら神殿の前だったらしい。
上空を見ると、観光地としても既に寂れたあのワープゲートが見える。
神殿の方を見ると、どうやら奥に行けそうなので入ってみる事にする。
神殿の入り口には「呼び鈴」と書かれたハンドベルがあったので、鳴らしてみた。
「カランカランカラン・・・・」
高音でも低音でもない、ハンドベルと思って鳴らしてたけどむしろ福引の「おお~あた~り~~~」ってあれみたいな音がした。
暫くすると、奥の方から誰かが出てくるのが見えた・・・NPCだろうか?
奥から出てきた人は、目の前で止まると咳払いを一つした。
「どういったご用件でしょうか?」
むしろ何故ここに来られるようになったのかをこっちから聞きたいくらいだ。
「え~っと・・・他の世界からここに送られてきたんですが、元の世界に変える方法をご存知ありませんか?」
神殿の中の人はこちらの質問に驚いたかと思うと、すかさず
「『タントアルド』へお帰りなら、ゲートはあちらです」
指の先を見ると、確かにゲートがあった。
え~っと・・そうじゃなくて・・・
ん?「タントアルドへお帰りなら」?
「いえ、他の世界なんですが」
「畏まりました、奥へお入りください」
どうやら正解だったらしい。
少なくとも、ここにはタントアルドから間違った来た人と、ここに来るべくして来た人を分ける線引きが存在している。
「こちらでお待ちください」
客間らしき応接セットがあるのだが・・・どう見ても祭壇の前で待たされる事になった。
良いのかなぁ?こんなところに応接セット置いて。
「や、待たせたかな?」
間髪おかずに聞こえた声に驚いて前を見ると、やたらと軽そうな40代っぽい男性が目の前に居た・・・いつの間に現れたんだろう?
「や~、悪かったねぇ。君達は本来この世界に来るべきじゃなかったんだけど、私がここに来る為に生まれた穴に落ちたようなんだよねぇ」
今なんと言った?
「えっと・・・どちら様ですか?」
「この世界の創世の神と言うか・・・製作者と言うか・・・」
えっと・・もしかして・・・
「まさか『タントアルドオンライン』の元開発責任者さんですか?この間死んだと言う」
「時系列だと大体2ヶ月前だね、四十九日過ぎてるし」
「え?本当に?・・・と言うか幽霊!?」
「ん~・・・この間までは確かに幽霊だったんだけどね?ちょっとばっかしお仕事貰って帰ってきたらご褒美だってこの世界の管理者にされちゃったんだわ」
軽いな~、この人。
「で、たぶん疑問に思ってるだろうから言うけど。この世界はタントアルドオンラインでありそうでない別の世界でもあります」
「一体どういうことでしょうか?」
「この世界は、タントアルドオンラインの影響を受けた異世界と言った方がわかりやすいかな?君達はそこに【存在】を召喚されてしまったんだ」
「え~っと・・・言ってる事に頭が付いていけません」
「まあ、しょうがないね。要するに、君達は魂をここに連れて来られて、こちらで肉体が構築された状態なんだよ」
「では元の肉体は?」
「『フィアリアース』から来た彼女たちの肉体はこちらに保管されている。君の肉体は現実世界の方にあるよ・・・意識不明で」
「!!?大変じゃないですか!」
「そうだよねぇ・・・あれ?そう言えば・・・」
なんかマジマジと見られてる・・・
「あ~、君どこかで見たことがあると思ったら山口君か!うちの開発主任と親友の」
「悪友ですよ?」
「悪友か親友かなんてやらかした内容くらいしか違いは無いよ、そうか君だったか」
どうやら大分前に俺と会ったのを思い出してくれたらしい。
「あれ?そう言えば君、私の葬式で確か大怪我を・・・大丈夫だったかい?」
え?あれ見られてたの?
「いやぁ、お恥ずかしい事ながら・・・あの後下半身不随の診断を受けまして」
「ほお~・・・私も大概だったが、君も大概楽観主義だねぇ。それを「恥ずかしい事」なんていう余裕があるとは」
「そんなもんですか?」
「普通そんな立場で私に会ったら、恨み言の一つも言うね、普通の人なら」
「いや~、正直実感無くて。骨折で歩けないくらいの感覚なんですよねぇ」
「私の知ってる人なら骨折でも恨み言言ってるよ」
呆れられてしまった。
「まあ、そんなことだから君達にはそれぞれ元の世界に戻って貰う事になる・・・とは言っても私はここから追い出すだけで、それぞれの世界の管理者に後のことを任せるしかないんだが」
「そんな無責任な・・・」
しかししょうがない、お願いするか。
「レイナさん達はどうする?なんかどうなるか怪しいけど、少なくともここからは出られるようだし」
レイナはニーと相談をしているようだ。
「危険はあるんでしょうか?」
レイナは当然の疑問をぶつける・・・そう言えばそう言う可能性もあるのか。
「自分の世界に帰れるかは君たちの世界の管理者次第だけど、少なくともこの世界か君たちのどちらかの世界の三択になるはずだよ」
「ここに戻ってきた時は?」
「又ここを目指すと良い、この世界に来る分にはいくらでも弾いてやるぞ!」
「そんな楽しそうに言われましても・・・」
本当に楽しそうだな、この人。
「私はタントアルドオンラインが終わるまでこの世界の管理者をして、その後輪廻の輪に戻るらしい。それまでならいくらでも付き合うさ」
そう・・ちょっとだけ寂しそうにこの世界の管理者は呟いた。
目が覚めると、俺はVRマシンのヘッドセットを外してベッドの上で眠っていた。
時間はインしてから24時間くらいだろうか?
「山口さ~ん。ゲームは良いですけど、寝オチするほど熱中するとかだめですよ~?」
いつもの介護士さんに怒られてしまった。
多分あれはレベル上げに熱中していてうっかり寝オチしてしまった後の夢だったんだろう。
「山口さ~ん。面会の方がいらっしゃいましたよ~?」
誰だろうと思うと、悪友が来てくれた様だ。
「よお、満。昨日は張り切ってVRつけたまま寝てたんだって?」
筒抜けか!!
「いや~、早速やらかして介護士さんに怒られたところだよ」
「はははっ!相変わらずのゲームバカぶりだな!大学でも居眠りしてたがよく卒業できたと今でも不思議だわ」
「ゲームのし過ぎであんな大学行ってたんだぞ?講義録画するだけで十分卒業できるよ」
「そりゃそうだ」
俺達が出たのは金さえあれば入れると有名な私立だった。
第二次ベビーブーム世代ですら苦労なく入れた学校だっただけに、既に子供人口が減りつつあった俺たちの世代では不人気大学でもあったので、実際俺も試験会場で寝ていたくらいだ。
まあ、解答欄は全部埋めたけどな。
「そう言えば、お前が寝てる間に不思議な事があってな」
「何があったんだ?」
「高レベルソロ用の狩場で、美少女二人連れて無双してるモラトリアムがいるって噂がな」
え?
「キャラクターの名前はわからなかったらしいんだが、街でそれらしい三人組の会話を聞いてた奴がいてなぁ・・・モラトリアムの名前が『ミツル』だって言うんだよ」
「ぶっ!」
思わず茶を噴出した。
「・・・心当たりあるのか?」
気を取り直して、夢だとばっかり思ってたことを話してみた。
「それはまた・・・随分ファンタジーなこって」
「ああ、俺もてっきり夢だとばっかり思ってたんだがどうやら事実だったっぽいな」
そう言いながら、俺はスマホを弄ってキャラクターを確認する。
そこには、昨日作ったばかりのはずなのにLv.90になってるモラトリアムがいた。
俺はスマホの画面を悪友に見せてみた。
「これ!?・・・これは動かしようの無い証拠だな、普通のモラトリアムがどんな廃プレイしたって一日でここまでは育たないはずだ」
「いや、一日でここまでなったのは流石に自分でも不思議なんだが」
「恐らく、モラトリアムの補助スキルが効果的に働いたんだな。戦闘特化のモラトリアムでもあの狩場をソロじゃまず無理だし、VRシステムの直感性が効果的に発揮されれば同程度の効率が出るのかもしれないが、恐らくはその異世界に行って肉体をえていたというのも関係しているんだと思う」
本当に不思議な体験だった。
不思議と言えばさらに不思議な事があった。
その日の定期検査で俺の下半身に反応が見られることがわかったのだ。
自然治癒はまずありえないといわれた上に、手術や補助器具に因って歩行可能になるのが10年後だろうと言われていたくらいなので、誰より医者が驚いていた。
個室のベッドの上で今日一日の出来事を反芻していると、なにやら給湯設備の辺りでごそごそ動く影が見えるのに気付いた。
「えっと・・・誰かいるの?」
ビクッ!!と驚いて一瞬止まると、影がこちらに顔を向けてきた。
「あ・・あのぉ~~・・・ここはどこなんでしょうか?」
そこには、レイナとニーの二人が、昨日出会った時と同じローブ姿で怯えて立っていた。
・・・どうやら向こうの管理者が掴み損ねてこっちに転がり込んだようだ。
「レイナとニーか・・・無事帰れたのは俺だけだったんだな」
「えっ!?・・もしかして・・・ミツル?」
タントアルドで会った時はゲーム内の作られた姿だったから今ひとつ印象が重ならないようだ。
「また神殿を目指してみる?こっちだと行くまでが大変だけど」
一日だけの関係とは言え、知り合いに会えた事で二人の表情が綻ぶのを確認した。
自分の足で歩けるようになったら、今度は北極に行く事になるのかなぁ・・・
漠然とした不安の中、彼女たちと一緒ならそれも悪く無いと思えている自分も居る。
空は晴れている、随分遠くまで見える・・・逆さまの神殿が見えるけど気にするのはやめよう。
拙作「守護霊なう」の外伝として描くかどうか悩んで単発で投稿する事にしました。
この話の中で出てくる内容は、年内に投稿される「守護霊なう」の外伝とリンクしていて、「守護霊なう」から見ると外伝の外伝と言う立ち位置になります。




