表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

二粒と三片

サヤと“優しい女王さま”が直接言葉を交わします。


女王さまはその愛称通り、辺境の可哀そうな娘を優しくもてなしますが…。



“優しい女王さま”は慈悲深い笑みを浮かべエルミヤ辺境伯代理を迎える。

その(たお)やかな御身を守護するかのように背後に控えるは勿論宰相さま。

サヤは宮廷作法に則り、片足を後ろに引き、深く(こうべ)を垂れた。


18の時にエルミヤ辺境伯代理となったが、その時は宰相から任命書を

もらっただけで、女王陛下への拝謁はなかった。その後、辺境伯代理

として王宮に上がることもなく、サヤが“優しい女王さま”を間近に

見るのは実のところ今回が初めてだ。


(おもて)を上げなさい」

許されて顔を上げると、そこには自分を見つめる静かな双眸があった。

真珠の肌に、紅玉の唇。翡翠の瞳に、黄金の髪。

宝石でできたかのような女性。

今まで遠目でしか伺う機会がなかったが、近くで見るとその美貌が

一層際立ってみえる。


そうして腹の立つことに…。

(母さまと少し似ている?)

女王さまが眩しく輝く光の女神なら、母さまは静かに佇む月の女神。

母さまは柔らかい黒髪。青紫の瞳。珊瑚の唇。真珠の肌は…同じ?


身に纏う色彩は違えど、ほっそりした身体つきや指先がよく似ている。

シルエットだけ見れば、二人はそっくりと言って良いのではないか、

そう思い至って…不快感が込み上げる。


(身代わりだった…?母さまは。エルミヤに従軍している際に

 「あの男」は女王さまの代わりに母さまを…)


異民族出身であるシイは、女王さまの席に近づくこと近づくことを

許されなかった。サヤが元座っていた場所に片膝をついて控えている。

その目はひたむきに女主人に向けられており、警護に余念がない。

けれども…今、この時、サヤの心の内まで守ることはできない。


「貴女がカヤの娘」


女王さまは母さまの名前を覚えていた。

少しびっくりして、けれど当然かとサヤは思い直す。


何といっても従姉妹(いとこ)同士である。それに自分の“恋人”が

政略結婚した相手の名前など忘れたくとも忘れられないに違いない。


「本日はお招きいただきましてありがとうございます」

サヤは型通りの謝辞を口にした。

「おかけになって」

何と、女王さまはサヤに椅子を勧めてきた。これは破格の待遇といえる。

他の招待客たちは短いお言葉を賜るだけだったのに、サヤには女王の

テーブルへの着座を許す。

エルミヤ辺境伯代理が本日の主賓と宣言するも同然だ。

身に余る栄誉であるが…もちろんサヤは躊躇った。

座ってしまえば、それだけ話が長くなる。

そうして周囲から要らぬ憶測が飛び、余計なやっかみも増す。

…本当に勘弁して欲しかった。


「遠慮しないで、ね、少しお話しましょう?」

鈴の音を振るわすような“優しい女王さま”の声。


いや、もう、遠慮じゃなくて、真実、全力でお断りしたいのですよ。

そんなサヤの心の叫びはあっさり宰相さまによって無視された。


「ぐずぐずしないで、早く座れ。陛下に失礼だろう」

引きずられ、肩を押さえこまれ、無理やり着座させられる。


へ~へ~あんたはそういう奴ですよ。女王さま大事の宰相さまに

サヤは内心で毒づくことしかできない。


「先ほどの席次は私の落ち度です。申し訳ないことをしました」

“優しい女王さま”は何と謝罪を口にした。

「貴女のテーブルには、宰相と、レン少将、第二枢機卿が同席する

 予定でした。親しい方が一緒ならば心細いこともないだろうと思って

 いたのですが…宰相は頑固者で私の警護につくと言って聞かないし、

 少将は王女の警護に駆り出されてしまうし、サヴァイラも急遽、

法王猊下の要請で外国大使の接待をしなければならなくなって

しまって…いずれも間際になってしまって、席次の変更がきか

なかったそうなの。女官長に任せきりだったわたくしの落ち度です」


女官長の意図か偶然か。それとも本当は女王さま自身の計らいか。

“優しい女王”さまの素顔を図りかねてしまう。

けれど、サヤにとっては真実がどこにあれ、“どうでもいい”のだ。

女王さまや宰相さまの歓心を買おうなど微塵も考えていないのだから。


「それから…演目の件も他意はありません。選曲は歌姫に任せて

 いました。貴女の出席は伝えていなかったので、恐らく都で人気の

歌曲と私への機嫌伺いであのようになったのでしょう。

気を悪くなさらないでくださいね」


女王さまの音楽会で歌を披露する。

宰相さまの娘が出席することを知らない。

そうなれば…選ぶ曲は決まってくるよね?

(わざとじゃないとしたら…天然?ううん、馬鹿なの?この女王さま?)

女王さまといい、王女さまといい、サヤは何だかこの国の将来が心配に

なってきた。しかし、王国の頂点に立つ御方に「あんた馬鹿なの?」とも

聞けない。聞けるわけがない。女王さまの背後には宰相さまもいるのだ。


「気を悪くなど…席次のことも選曲のことも陛下が口にされるまで

 “気が付きませんでした”。一地方領主代理に過ぎないわたくしを

 このような素晴らしい会にお招きくださって。この感謝と感動をどの

 ように言葉に表してお伝えしたら良いのか…嗚呼!」

感嘆の声を上げ、興奮する娘を演じてみせる。


こんなもんか?ちょっとわざとらしいか?


「そ、そう?喜んでいただけたのなら、何よりだわ」

女王さまの声が少し上ずった。


よし、この調子で、サクサク切り上げよう。

ところが、ここでまた破格の待遇。

信じがたいことに“優しい女王さま”が手ずから銀のポットを持ち、

サヤに紅茶を振る舞ったのだ。

「先ほどから何も召し上がっていなかったでしょう?ふふ、緊張なさって

 いたのね?作法も何も気にすることはないのよ。どうぞ?」

更には、手ずからスコーンにクリームとジャムをのせ、サヤの前に

差し出してくる。女王さまの親しげで優しげな態度は“一見すると”

辺境の娘を気遣うもののように思える。

「この紅茶は主神殿の特別な茶苑から献上されたものなの。

それからこのスコーンも、宮廷料理長手ずから製作したもので、

なかなか美味しいのよ?試してごらんなさい」

眼の前に置かれた茶と菓子。若い女性ならいずれも喜びそうなものだが…

サヤにとって試練の時であった。

「どうした?早くいただきなさい」

宰相にせかされ、サヤは紅茶を含み、スコーンを齧る。少しぎこちない

作法を“優しい女王さま”が暖かく見守っている。

サヤがスコーンを食べ終えたところで、「これも絶品よ?」と片目を瞑って

笑いながら、ビスケットを一つ差し出してきた。

「美味しゅうございますわ!女王陛下!」

感涙に咽びつつ…実は死ぬ思いでサヤは菓子を紅茶で何度か胃の中に

流し込んだ。

「アガイルのお譲さんがこんなに可愛らしい方だったとは。

 もっと早くにお会いすれば良かったわ」

女王は上機嫌である。

他意はない、悪意はないのだと、サヤが内心呪文のように繰り返す。


「そうそう、叙爵のことだけれども。8日後でどうかしら?」

まるで何かのついでのように簡単に提案した女王さまに腹が立つが、

一刻も早く、この茶番を終わらせたくて、サヤは叫んだ。

「陛下、ありがとうございます!今まで以上に精進したいと存じます」


ああ、良かった。あと8日。あと少し…それでエルミヤに帰れる。

そうしたらもう、二度と二度と王都になんか来るものか。

宰相にも女王にも王女にも、彼らの傲慢な取り巻きたちにも、

二度と会いたくないよ!


暇乞いをするサヤに女王も立ち上がった。

「最後に、“信頼の(あかし)”を交わさなければね」

そうして、自分の首に付けていた幅広の金鎖を取り外す。

宝飾に疎いサヤでも知っている、その装飾品は“金雲海”と呼ばれる

王家謹製で、極細の金鎖を幾重にも編み込んでレースのように見せ、

首から胸元にかけてを飾るものである。

製作技法は一子相伝であり、製作数も少ないため、価格(プライス)(レス)らずの芸術品だ。

それを“優しい女王さま”はいとも容易くサヤに下賜した。

周囲から驚愕の声が上がる。

「エルミヤ辺境伯として貴女が職責を全うされるように。

 これは私の“信頼の証”」

「ありがとうございます」

いや、要らないから、コレ。国宝級の宝飾品は換金が難しい。

使わないし、あっても無駄と言いたくて、もちろん言えないサヤである。

「何をしている?お前も早く身に着けているものを差し上げるのだ」

またも宰相に急かされ、サヤは宮中における“信頼の儀式”を思い出す。

要は互いの身に着けたものを交換するだけなのだが、そこではたと困ってしまう。


女王さまに献上できるものなんて…持ってない。


宝飾品の類は限界まで抑えたのだ。

エルミヤを象徴する白と緑と赤を強調するために。


(うん…赤?)

一つだけ、取り外すことのできる装飾品があった。

虹白石と瑪瑙の髪飾り。エルミヤの命を示す赤の象徴。


動こうとしないサヤに業を煮やしたのか、宰相が前に出て、サヤの頭

から髪飾りを引き抜く。そうして早くしろとばかり手に握らせてきた。

「こちらを献上したいと存じますが…正直申し上げますと

 “借り物”でして…」

自分でも無様だと思いながら、もごもごと言い訳を口にする。

骨董品(アンティーク)の髪飾りという“物”を惜しんでのことではない。

けれど、これを“信頼の証”として女王さまに差し出すことは。


サヤはのろのろと首を動かし、シイの姿を探した。

彼は食い入るように彼女を見つめていて、唇の動きだけで、

(いいから、構わないから、それを渡して)

と伝えてくる。

けれど…サヤは髪飾りを右手に握りこんだまま、固まってしまう。


「アガイル、お前は自分の娘に宝石一つ持たせてあげていないの?

 もう少し気にかけてあげなさい」

“優しい女王さま”は眉をひそめ、傍らの宰相を叱責する。

実際のところ、自邸にはサヤのための宝石が山のように積み上がって

いるのだが、そんなことは一切口にせず、宰相は平伏した。

「素敵な髪飾りね。どなたにお借りしたから伺っても?」

場を和ませるために聞いてくれたのだろうが、サヤはまたも窮地に

立たされる。まさか、自分の従者から借りましたとは告白できない。


「何をしているのです、サヤ!

早くそちらの髪飾りを陛下に差し上げなさい!」

そこに助け手の声が飛んだ。

「サヴァイラ、貴女でしたか」

女王が第二枢機卿に向かって微笑む。

「私の娘時代のものが偶々箪笥の中から出てきましてね。

 サヤは謙虚な子ですから素直に受け取るまいと思い、貸して

 ことにしたのです。サヤ、それはお前のものだから、私に

 遠慮せず、陛下に差し上げなさい」

そう言われれば、従うしかない。サヴァイラが自分を助けるために

嘘を…聖職者にあるまじき行為をしてくれたのだと分かるから。

サヤは両手で髪飾りを捧げ持つと“優しい女王さま”に献上した。

「それでは8日後に。辺境伯の誕生を楽しみにしていますよ」

「過分なお言葉を頂戴しまして、ありがとうございます」


サヤはそこで漸く、音楽会での目的を果たしたことを悟った。

“優しい女王さま”が宰相さまの先導で退出してゆく。

宰相さまは女王さまに腕を貸し、とろけるような笑みを浮かべていた。

王女さまもその後に続いたが、立ち去り際にサヤを一睨みするのを

忘れない。


やんごとなき方々が姿を消し、音楽会がお開きになったところで、

サヤは退出が許された。もう一刻も我慢ならぬといわんばかりに、

他の招待客への挨拶もそこそこに回廊に出て小走りになる。

幾つかの角を曲がったところで、サヤが口元を押さえたので、シイは

女主人を小脇に抱え、手近な庭木の影に飛び込んだ。


「いいよ、サヤ、我慢しないで。吐いて」

シイが背中を撫でるとほぼ同時に、サヤは草むらの中に嘔吐した。

苦しそうに咳き込みながら、音楽会で口にした全てを逆流させる

女主人をシイが痛ましそうに見つめていた。

そうして、彼は繰り返し繰り返しサヤの背中を撫で続けた。


女王の振る舞った紅茶や菓子に毒が仕込んであった訳ではない。

最高級の茶葉に名人技の菓子であったのは間違いない。

問題があるとすればサヤの方で…彼女は後天的に甘いものをほとんど

口にできない体質となっていた。

日々の食事…それも朝と夜の2食のみ…については、普通に食べることができる。

けれど楽しみで間食しようとすると身体が拒否してしまうのだ。

特にクリームやジャムたっぷりのシロモノなど最悪。

3度の飢饉を体験したサヤは自らを生かすため以外の食物摂取に苦痛を

伴うようになっていた。


女王さまに恐らく悪意はなかたのだろう。

女王さま手ずから、茶や菓子を勧めてくれれば誰でも感激するはずだ。


けれどサヤにとっては毒を口にするのと同じ。


「サヤ、ここはまだ王宮内だ。人目に付かない内に帰ろう」

ハンカチで女主人の口元を優しく拭いながら、シイは抜け目なく辺りを

伺った。

「シイ、ごめん。髪飾り…取られちゃった」

サヤが涙声になって謝るとシイはそっと彼女の肩に手をやった。

抱きしめて慰めたいところだが、万が一にも誰かに見咎められたら厄介だ。

「気にしないで。またサヤに似合うものを見繕ってあげるから」

「気にするよっ!あれはシイが私のために“貸して”くれたものなのに。

 何で女王さまなんかに渡さなければならないの?

 それに、あの紅色はエルミヤの民を象徴するものだったのに。

 辺境のことなんて何も知らない女王さまが手にするなんて…」

「サーヤ、落ち着いて。大きな声を立ててはダメだよ。

ここはまだ“敵地”なんだから」

帰りの車はナナツに頼んで裏門に回してもらっている。

シイは四方に気を配りながら、サヤの手を引いて歩き始めた。

「…こんなもの要らない」

「ダメだよ、サーヤ」

自分の首に架けられた金の芸術品…サヤにとっては首輪のように感じられ

たが…を引きちぎろうとする彼女を必死に止めながら、シイは先を急ぐ。


その二人の前に立ちふさがったのは副宰相と配下の者数名であった。

「おやおや…コソ泥のようにこそこそとどこへ行くつもりだ?」

(あるじ)が慣れない宮廷作法で緊張のあまり、気分悪くなってしまい、

 家路を急ぐところです。通していただけませんか、副宰相閣下」

背中で女主人を庇い、シイが代わって答えた。

サヤの顔は真っ青になっているが、演技ではない。先ほど嘔吐したことに

より体力を消耗し、しかも依然胸の不快感が消えないでいるのだ。

「あれほど女王に目をかけていただいておきながら“気分が悪い”とは。

 無礼千犯な女だな」

相手は早速に上げ足をとってくる。

リウ副宰相。

サヤはようやくこの男の名を思い出していた。

レン少将と同様都で一、二を争う名家の出身である。

“優しい女王さま”によほど傾倒しているのか、サヤを汚物のように

見下してくる。

「先ほどはやってくれたな。楽器も舞もダメと断っておきながら、最後に

 エルミヤの田舎歌で招待客の気を引くとは」

「下手な歌なりに皆さまに喜んでいただけてなによりですわ」

なけなしの気力を振り絞りサヤは微笑んでみせた。

本音は副宰相を殴り直し、蹴り倒して、帰宅したいところなのだが。

「お前の母親は女王陛下一筋であったあの宰相を誑かし、

 お前を孕んだ女だ。余程の淫乱というべきか…さぞや女の武器を

 駆使してエルミヤの荒くれどもを手なずけたことだろうな」


何を言っているの、この男は。

母さまが宰相を誑かす?淫乱?女の武器を駆使?

サヤの頭が真っ白になる。次に浮かび上がるは憎悪ではなく殺意だ。


「お前もせいぜいその尻を振って、宮廷で上手く立ち回ることだな。

 なに、“可哀そうな娘”が泣きつけば床で慰めてくれる相手には

 事欠くまいて…」


バキッ。

副宰相が言い終える前に鈍い音が響いて彼の身体が吹き飛んだ。

手を出したのは…。


「シイっ!」

サヤが堪えきれなくなって殺戮に走る前に、優秀なる秘書官が動いた

…動いてしまった。そして容赦なく副宰相を殴り倒したのだ。

「貴様っ!」

配下に助けられ、副宰相がよろよろと立ち上がる。前歯1本が折れ、

鼻血を垂らすその様は、王国の要職にある者とは思えぬ無様さである。

「蛮族の分際で、私に手を上げるとは。

 何をしている、早く縄を打て。こいつを地下牢に閉じ込めろ!」

「止めてください、副宰相殿。この者はわたくしの名誉を守ろうと

 してくれたのです」

たちまち縛り上げられるシイの前にサヤは身を投げ出した。

「理由はどうであれ…暴力を振るったことは確かだ。

 そうですな、枢機卿猊下、少将殿」

振り返ると、そこにはイオ第五枢機卿とレン少将が立っていた。

「私をこんな目に遭わせた蛮族をこのまま放免するわけにはゆかない。

 しばらく地下牢で反省してもらおうか。なに、命まではとらぬから

 安心するといい」

「シイっ」

今まさに引き立てられようとする彼にサヤは抱き着いた。

シイが本気を出せば副宰相やその配下の連中をあっさり地獄送りに

できる。それなのに彼が抵抗の一切を放棄しているのはサヤのためだ。

これ以上、騒ぎを大きくして、叙爵の障りになることのないよう

大人しく捕えられているのだ。

「サーヤ、ごめん。君が我慢しているのに、僕は怒りに我を忘れて

 しまった。君が侮辱されるのを、どうしても許すことができなった」

自分を抱きしめる女主人の耳元で囁くように詫びを口にする。

「ううん、私こそごめん。私のために怒ってくれて…嬉しかった」

誰も助けてくれない。誰にも助けを求めてはいけない。

そう思っていたのに。

シイはずっと側にいてくれて。

何も言わずとも彼女のために動いてくれた。

「愁嘆場はお終いか?これでは私が悪者のようではないか。

 それにしても辺境伯になろうという女が蛮族の男と…大した醜聞(スキャンダル)だ」

「それくらいにしたらどうですか、リウ副宰相。お見受けしたところ、貴方にも

 非があるようだ…この者は私が地下牢に連行しよう」

そこで少将が口を挟んだ。サヤの預かり知らぬことだが、同じ名家出身と

いえども、少将の家格の方が上であり、身分的には上の副宰相に対しても

ある程度もの申すことができるのだった。

「心配するな、サヤ。数日で釈放できるよう取り計らう」

サヤを引きはがし、シイを引きずり出すフリをしつつ、レン少将が囁く。

普段粗大ごみ扱いしている彼を、サヤは初めて…期待の目で見やった。


(俺も少しは点数を稼ぎたいからな)

そんな打算を隠して、少将はシイを連行する。

サヤはシイが見えなくなるまで、その姿を目で追った。


「副宰相殿、余計なお節介だが、顔が腫れあがる前に手当てした方がよい。

 醜い姿で参内すれば、女王陛下がお心を痛められる」

第五枢機卿の忠告はてきめんで、副宰相は鼻と口を押えたまま

慌てて退場した。配下の者が主人を追いかけて行く。


第五枢機卿とエルミヤ辺境伯代理だけがその場に取り残された。


「送って行くよ、サーヤ」

イオの声が静かすぎて逆に怖い。

その表情からもあらゆる感情が削ぎ落ちていて…怖い、目茶目茶怖い。


「いいえ、結構です。こちらで失礼します」

イオの申し出を断り、全力疾走し逃亡を試みる。

「サーヤ」

けれども名前を呼ばれると同時にあっさり捕獲されてしまう。

「ナナツの車は帰しておいた。神殿の公用車の方がずっと安全だ。

 もうこれ以上の厄介事はごめんだろう?つべこべ言わずに…乗れ」

短い命令の言葉と共に、サヤもまたイオによって囚人のごとく連行

されたのだった。


サヤのウィークポイントが出てきました。

年頃の娘に似合わず…甘いものが苦手。それも吐くほどに苦手なのです。

何せ…自身も食糧にされかかった位の飢饉を3度も経験しているのですから。

貧乏でもそこは辺境伯家ですから、幼いサヤ自身が食うに困ることはありま

せんでした。けれども、領民が飢える中で自分が領主の娘であるという

理由だけで、生かされることにたまらなく苦痛を感じていたそうです。


さて、次回より3粒目に入ります。入牢したシイに魔の手が忍び寄ります。

サヤはどうやって彼を救いだすことができるのでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ