プロローグ
昔思い描いて、とうに消えたはずの物語が再び頭をよぎりました。
見切り発車でごめんなさい、ですが、ちょこちょこ(2000~3000字位)、さほど間を空けず(3日置き位、目標!)書き続けていければと思います。そんなに、長編にはならない予定。作者の現実逃避とストレス解消が発端ですので、途中暗い展開はあっても最後はハッピーエンド!・・・にしたいです。
プロローグ
青い空と緑の森の美しいマルモア王国。
歴史と伝統ある王国を統べる御方は“優しい女王さま”と呼ばれ、国民から慕われ
ています。女王さまの御夫君は生来病弱な方で、早くに亡くなってしまいました。
女王さまは生まれたばかりの王女さまを抱え、王国のために一生懸命働きました。
そんな女王さまを影ながら支えたのは王国の若き将軍さまでした。
女王さまと将軍さまは深く愛し合っていたそうな。
お二人は身分違いのため結ばれることはありませんでしたが、女王さまが
先の王さまと結婚した後も、王女さまも生んだ後も、そして王さまに先立たれた
後も、将軍さまはずっと影で女王さまを守り、支え、変わらぬ愛を捧げました。
将軍さまは戦の傷がもとで、杖をつくようになってからは軍を引退し、宰相さまと
なりました。そうして今も女王さまと女王さまの国を守り続けています。
・・・そんな女王さまと宰相さまのちょっぴり切なくて素敵な恋物語は王国で
一番人気のお話です。女王さまも宰相さまも、もうお若くはないですが、お二人の
人気は年を経るごとにいや増すばかり。
でもですね、私は大嫌いなのですよ、その恋物語。
なぜって物語の宰相さまというのは私の父さまだから。
恋物語には一言も触れられていないけど、宰相さまは若かりし頃、先の王さまの
命令で、私の母さまと結婚している。で、私が生まれたらしい。
らしい、というのは、私の子ども時代のどこを取っても父さまの姿はなかったから。
私の母さまは女王さまの従姉に当たるそうな。でも、王族ではない。
母さまの父さま、つまり私のお祖父さまが謀反を起こして処刑されてしまったのだ。
で、母さまの母さま、つまり私のお祖母さまは、お腹にいる母さまと共に北方の
荒れ地に永久追放されたとか。縁座して、命を奪われなかっただけまし?なのかな。
“優しい女王さま”の代になって恩赦を受け、咎人ではなくなり、更に更に
北方開墾による功績が認められて、母さまは女辺境伯に叙せられた。
といっても名ばかりのことで、中央からの援助はほとんどなく、そのくせ納税は
あって、領民たちはかつかつの暮らしをしていたんだけどね。
ただ、北方の軍事拠点となりうる立地条件が重視されるようになり、先代王さまは
父さまに母さまを娶るよう命じたわけだ。典型的な「政略結婚」というやつ。
北方異民族の侵入に備え軍備強化を図る、と言っても、基本的に都に在って軍の
司令塔としての役割を果たす父さま。
女辺境伯と言っても、贅沢一つできる訳でもなく、荒れ地開墾や疫病予防や寒冷地に
強い作物の品種改良、などなどで領地を離れられない母さま。
二人は一緒に暮らすはおろか、年に数回数日間顔を合わせれば良い方だ。
私が流行病に罹った時も、手足の骨を折った時も、誘拐された時も、
父さまはいなかった…それは別にいい。最初から期待していないから。
けれども、母さまは働き過ぎで身体を壊し、患った末に亡くなってしまった。
病床にある1年半近くの間…父さまは一度も辺境を訪ねてはくださらなかった。
それは時を同じくして女王さまのお身体も思わしくなかったり、世継ぎの王女
さまの暗殺未遂があったり、主神殿での謀反騒ぎがあったりでどうしても都を
離れることができなかったからだと聞いている。
父さまと母さまの間に愛情はなかったかもしれないけれど…父さまは決して
情け知らずの人ではないと聞いている。
仕方なかったんだ、と、いろんな人たちに言い聞かされた。
それが母さまを喪った15の時。
でも、だから?と問いたいよ。
父さまにとって辺境よりも都が、母さまよりも女王さまが、私よりも王女さまが
大切だという事実は変わらない。“仕方なく”母さまも私も切り捨てられる。
別に父さまを憎んだり、恨んだりするつもりはないよ。
けれども父親として愛さなくてもいいでしょう?
宰相さまとして尊敬しなくてもいいでしょう?
“優しい女王さま”の素敵な恋人である宰相さまは民の憧れ。
その裏で、政略結婚の末にできた娘なんて邪魔者でしかない。
ううん、邪魔者ならまだ意識される存在だけど、私は「どうでもよい存在」。
闇が一番濃く、寒さが一番厳しい冬の晩に母さまは息を引き取った。
その時、私の中にまだかろうじて残っていた父さまの姿も消え失せた。
母さまと共に父さまも死んだ。
残ったのは…声に出して呼ぶ時は「宰相さま」。心の中で呼ぶ時は「あの男」。
あの男が後生大事にする女王も王女も私にはどうでもいいよ。
マルモア王国でさえ…私にとっては守るに値しないものだ。
ただ私は、母さまと母さまの仲間たちが命がけで開拓し、育んだ北方の大地
…エルミヤの大地を守りたい。そして、その地に住まう生きとし生けるものを。
エルミヤのために、私は必要とあれば“女王”や“あの男”にひれ伏そう。
そうしてまた、エルミヤのために、私は必要とあらば彼らに刃を向けよう。
心ざし半ばで散った母さまや同胞の願いを胸に抱きしめて、
極寒の地が黄金の穂を揺らす地となるまで。
その日まで、私は歩き続けようと思う。
〔エルミヤ辺境伯代理サヤの日記より〕
女王さまと宰相さまの恋物語・・・は、どうでもよいですよ!
次回から、サヤを取り巻く個性的な殿方たちが出てまいります。
狙うはラブロマン!ラブコメではありません。