婚約破棄された令嬢が会場中から拍手喝采されるお話
「私は真実の愛を見つけた! 子爵令嬢ライティーラ・イナデランサ! 君との婚約は破棄させてもらう!」
喧騒に包まれていた会場は音を失った。さきほどまで穏やかな楽曲を奏でていた楽団までもが手を止めている。
ここは貴族の学園に設えられたホール。社交の場でのふるまいを学ぶために月に一度行われる夜会。和やかな営みは、常識外れの宣言によって止まってしまった。
宣言した男は、伯爵子息プレティンド・ティートラクト。肩まで届くサラリとした金の髪に、切れ長の目。瞳は澄んだ蒼。整った顔立ちにスマートなスタイル。華々しさのある青年だ。
日々、美しさを磨きあげることに余念のない貴族の生徒たちの中でも、その美しさは抜きんでている。学園で誰が美しいかという話題となれば、まず最初に名前の挙がる美丈夫だ。
宣言を受けたのは、プレティンドとは対照的に地味な見た目の令嬢だった。
子爵令嬢ライティーラ・イナデランサ。ひと房に編み込んだ髪は、落ち着いた暗めのグレー。丸いメガネの下にはある瞳は深い紅。目鼻立ちは整っているが派手さはない。身にまとう暗めの紺色のドレスも相まって、図書館が似合う文学少女と言った風情だ。
プレティンドはこの地味な婚約者のことが気に入らなかった。イナデランサ子爵家はある事業で失敗して負債を抱えた。それをティートラクト伯爵家が援助するという形で結ばれた婚約だった。イナデランサ子爵家は良質な銀鉱山を有しており、伯爵家がその権利の一部を得ることが目的だった。
プレティンドは伯爵家の第二子であり、政略のためにそうした理由で婚姻を結ばなければならない立場である。
それでもこの婚約には不満しかなかった。彼はたぐいまれな美貌を持っており、話術にも長けていて、幾人もの令嬢と懇意にしている。この才覚をもってすれば上位貴族との婚姻も可能だと考えていた。ところが父が縁談を持ってきて強引に婚約を結んでしまったのだ。
それでもライティーラが美しかったなら、社交の場にで自分を飾る花として役立てることができたかもしれない。しかし彼女の外見は地味だった。
「お前のような浮ついた男は、ライティーラ嬢のような落ち着いた女性を伴侶に迎え、ふるまいを正すべきなのだ」
そんなつまらないことを言う父はなにもわかっていない。プレティンドにとってライティーラは、自分の栄達を阻む重しにしか思えなかった。
そんな時に出会ったのが子爵令嬢オルナメア・ルークシリオスだ。ルークシリオス子爵家と言えば、5年ほど前に男爵から子爵へと爵位を上げた勢いのある貴族だ。
なにより、オルナメアは彼の隣に相応しい容姿をしていた。ふわりとしたストロベリーブロンドの髪に大粒の桃色の瞳。やや子供っぽさの残る甘い顔立ちは、学園でも評判になるほどかわいらしい。豊かな胸も、きゅっとくびれた腰つきも素晴らしい。学業の成績は並程度だったが、彼女の魅力を前にすれば問題にはならない。
彼女を伴侶に迎えれば社交界で有利に立ち回れるだろう。思い描いていた栄達の道が開かれるのだ。
オルナメアとはすぐに意気投合した。二人があまりにお似合いのためか、プレティンドの取り巻きの令嬢たちもほとんど文句を言わなかった。学園の生徒たちからも温かく見守られているようだった。
だが、プレティンドの父、ティートラクト伯爵は頑迷だ。いかにオルナメアの素晴らしさを語ろうと、婚約解消を了承してくれるとは思えなかった。
だから夜会で婚約破棄を宣言したのだ。貴族の生徒たちが集う学園の夜会ならば、容易に宣言を覆すことはできない。
むろん、夜会で婚約破棄を宣言するなど無作法なことだ。普通なら宣言した人間は非難を浴びることになるだろう。
だがプレティンドには自信があった。自分にはこの学園一と言っても過言ではない美貌がある。オルナメアというかわいらしい令嬢を連れて演劇の舞台のように真実の愛を語れば、さぞや美しく見えることだろう。人間は目に映るものに大きく印象を左右される。美しさはただそれだけで正当性を得られるものだと、プレティンドはこれまでの人生で学んでいた。
そうして、婚約破棄を宣言した。
静けさに満ちた夜会の会場の中。立ち尽くすライティーラの頬に、つうっと涙が筋を描いた。声を発することもなく、目を見開いた驚きの顔のまま、彼女は涙を流し続けた。どうやらこの突然の事態に言葉を返すこともできないらしい。子爵令嬢オルナメアを連れ、堂々としたプレティンド。絶縁を告げられ惨めに泣き濡れるライティーラ。どちらが正しく見えるかは明白だ。プレティンドはやがて感嘆のため息が会場を占めることになるだろうと確信していた。
しかし、束の間の静寂を破ったのはため息ではなかった。もっと派手で大きくて、激しい音だった。
拍手だ。パラパラとした小さな拍手は、やがて会場を揺るがさんばかりの響きへと変じた。それに合わせて楽団までもが明るく華やかな音楽を奏で始めた。
「なんだ、これは……?」
さすがにプレティンドも不審に思った。いくら彼とオルナメアが美しいからと言って、婚約破棄の宣言は無作法なものだ。仮にも貴族である生徒たちが、こぞって拍手をするのはおかしい。楽団までそれに従うなんて、奇妙にもほどがある。
なにより、周囲の生徒たちの視線が自分たちを向いていない。なぜかライティーラに集まっている。その目に憐みの色は見えない。むしろ温かなものが感じられる。
予想外の状況を前にして、彼に寄り添うオルナメアも戸惑うばかりだった。
「みなさん、ご静粛に!」
拍手は止み、楽団も演奏の手を止めた。その声の主にプレティンドは驚愕した。
まっすぐなプラチナブロンドの髪。落ち着いたグレーの瞳。この学園を代表する大貴族の一人、侯爵令嬢エスピーシェア・リークタレスが現れたのだ。
婚約破棄の宣言の舞台に、まさかこれほどの高位貴族が自ら関わってくるとは思わなかった。しかもなぜだか、その手に大きな花束を持っている。
エスピーシェアは実に堂々とした歩みでこちらに向かってくる。しかし彼女はプレティンドたちの方を見ていない。まっすぐにライティーラの方に向かうと、花束を差し出した。
「先生! この度は悪縁を断つことができて、おめでとうございます!」
「うう、エスピーシェア様、ありがとうございます……! 部長とみなさんのおかげで、ようやく解放されました……!」
花束を受け取ると、ライティーラはこらえきれないと言ったように、先ほどにも増して泣き始めた。エスピーシェアはハンカチでその涙を優しくぬぐった。そのふるまいは仲の良い友達のようで、侯爵令嬢と子爵令嬢の身分差は感じられない。周囲の生徒たちはそのことに疑問を持つことなく、むしろ温かな視線を注いでいる。プレティンドからすれば理解を超えた異常な光景だった。
誰も彼もプレティンドのことなどまるで眼中にないかのようだった。美しさを誇る彼にとって、こんなにも蔑ろに扱われるのは初めてのことだった。
「失礼ですが、エスピーシェア様。これはどうしたことなのでしょう?」
笑顔をひくつかせながらプレティンドは問いかけた。
するとエスピーシェアからギロリと睨みつけられた。冷たいその瞳は、完全に格下の相手に向けるものだった。プレティンドはその迫力に思わず一歩退いた。
エスピーシェアはつまらなそうにため息を吐くと、ライティーラの方を向いた。
「先生、私から事情についてお話ししてもいいでしょうか?」
「はい、お願いします」
侯爵令嬢ともあろう人が、わざわざ子爵令嬢のライティーラに発言の許可を求めている。先ほどから彼女を先生と呼んでいるのも意味が分からない。
そして、エスピーシェアは語り始めた。しかしその声はプレティンドに対してというより会場に向けたものだった。
「皆さまはすでにご存じのことと思いますが、細やかな心理描写としっとりした奥深いストーリー構成で大人気の、我が文芸部が誇る稀代の恋愛作家、『秋空のちぎれ雲』先生! その正体は、子爵令嬢ライティーラ・イナデランサなのです!」
エスピーシェアが告げると、会場のそこかしこから黄色い歓声が上がった。
様々な令嬢との関係を持つプレティンドも『秋空のちぎれ雲』というペンネームは知っていた。文芸部には優秀な作家がいて、学園内で恋愛小説がすごく流行っていると聞いていた。
女性との付き合いのために大まかな情報を把握していたが、その小説を実際に読むところまでは興味を持てなかった。
そう言えば、ライティーラは文芸部だったことを思い出した。書き物をしている姿をたびたび見かけたが、あれは小説を書いていたのか。
そしてエスピーシェアは文芸部の部長だった。二人が妙に親し気な雰囲気だったのも、部活動を通して親交を深めていたのだろう。
「数々の名作を生み出してきたライティーラ嬢ですが、不幸な状況にありました! 婚約者である伯爵子息プレティンド殿はその美貌を鼻にかけ、様々な令嬢と関係を持つ遊び人! しかも、その婚約は子爵家が損失を補填してもらうことで結ばれたものでした! 立場の弱いライティーラ嬢は耐えるばかりの日々! なんと痛ましいことでしょう!」
あまりに悪しざまに言われてプレティンドは言い返したくなったが、ぐっとこらえた。会場のほとんどの令嬢がプレティンドに対して批判的な視線を向けている。感情を共有した女性の集団に異を唱えれば、恐るべき反撃を受けることになる――そのことを、プレティンドはよく知っていたからだ。
エスピーシェアは言葉を続けた。
「このままではライティーラ嬢の創作活動が止まってしまうかもしれない! なんという文化的損失でしょう! だから私は、彼女に婚約解消することを勧めました! 彼女のイナデランサ子爵家は経済的に苦しい状況にありましたが、援助することを申し出たのです! 我が侯爵家は文化の発展に投資を惜しみません! 彼女の創作にはそれだけの価値があったのです!」
「なっ!?」
これにはさすがにプレティンドも驚きの声を上げた。
イナデランサ子爵家は銀鉱山を持つ以外に目立ったところのない家だ。そんな貴族が侯爵家の後ろ盾を得るなどそうそうあることではない。ライティーラの創作の才能がそれほどのものだなんて、想像したこともなかった。
そんな彼女に対し、婚約破棄を宣言してしまった。それは侯爵家の家名に泥を塗るも同然の行為だ。貴族としてあまりにも致命的な失策だ。プレティンドはさっと顔を青ざめさせた。
「ですが、話はそう簡単ではありませんでした! ライティーラ嬢から婚約解消を申し立てれば、それがどんな理由であれ子爵領の銀鉱山を明け渡さなくてはならないような契約となっていました! 銀鉱山は子爵領の収入の要! それを失えば、やはりライティーラ嬢の今後の創作活動に陰を落とすことでしょう!」
その言葉にプレティンドはぎくりとした。イナデランサ子爵家の経済的な苦境を補い、銀鉱山の権利の一部を得る。そうした目的の婚約であることは知っていた。しかしそんな入念な契約をしてまで銀鉱山にこだわっていたとは知らなかった。
そこから導き出される結論は、あれがただの銀鉱山ではないということだ。もしかしたら魔石やプラチナの鉱床があるのかもしれない。あるいは先史文明の貴重な遺跡でもあるのかもしれない。父がそこまでして欲しがるのなら、そうした特殊な事情があったに違いない。
「唯一の突破口は、ずばり、婚約破棄! 契約からはずれた一方的な婚約破棄のみが、銀鉱山を奪われずに関係を断つ手段だったのです! その舞台を整えるのに、ライティーラ嬢の窮状を学園の皆さんへ周知する必要がありました! 公には伝えることはできませんし、ただ伝えただけでは人は動きません! だから『秋空のちぎれ雲』先生にこの状況をモチーフにした短編を書いていただきました! そうです、みなさんもよくご存じ! 先生の最高傑作とも言われている『冷遇されたわたしを解き放つのは婚約破棄』です!」
小説の題名が告げられると、令嬢たちがわっと湧き上がった。その題名すら知らなかったプレティンドは目を白黒させるばかりだった。
「登場人物名は架空のものとし、設定も現実とは違うものとしました! しかし見事な考察により、学園のみんながライティーラ嬢の窮状を正しく認識することができました! 考察班の皆様、解釈は完全一致です! あなたたちの勝利です! おめでとうございます!」
エスピーシェアの言葉に、令嬢の一団が喝采を上げた。どうやらあれが考察班とやららしい。
「学園のみなさんが共通の認識で協力してくれたおかげで、愚かな伯爵子息プレティンド殿は、見事婚約破棄を宣言しました! おかげで先生は、理不尽な苦境から解放されたのです! 皆様には、重ねて感謝いたします!」
エスピーシェアが礼を述べると、またしても会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
プレティンドは混乱の極みにあった。拍手の音はあまりに煩わしく耳に刺さった。まるで雨具もなしに激しい豪雨に全身を打たれているかのようだった。
必死に考えをめぐらすうちにプレティンドもおぼろげに状況を理解した。
ライティーラは女遊びをやめないプレティンドに対し、相当な不満を抱えていたらしい。その窮状を察したエスピーシェアに提案され、現状をモチーフとした小説を書き上げた。どうやらかなりの名作だったらしく、学園中に広まった。
読者の考察により、それが現実の状況を元にしたものだと知られることとなった。ライティーラは悲劇のヒロイン。プレティンドはヒロインを冷遇するクズ。おそらくそのような共通認識が、学園の生徒たちの間で出来上がった。
そして周囲で結託し、プレティンドが婚約破棄をするように誘導したのだ。
確かにおかしいと思ったことはあった。婚約者でもない令嬢と仲を深めているというのに、苦言を呈してくる者は一人もいなかった。学園の生徒たちの妙に温かな視線。それはプレティンドとオルナメアが間違いを犯すように監視していたのではないか。
プレティンドの取り巻きの令嬢たちも、なぜかオルナメアとの付き合いに目くじらを立てることはなかった。むしろ応援してくれていたくらいだ。似合いの二人だから文句を言わないのだろう、などと都合よく考えていた。
実際には、プレティンドが暴走して婚約破棄を自ら言い出すように状況が整えられていたのだ。
思わず傍らのオルナメアを見た。彼女も困惑しきった顔をしていた。プレティンドと同様に、何も知らなかったようだ。
こんなことが現実にありうるのだろうか。様々な令嬢と関係を持つプレティンドは、女性の流行にも敏感だ。学園で大流行したという恋愛小説の題名すら知らないなんてことがありうるだろうか。
思わず周囲を見回した。プレティンドと目が合った者は笑みを浮かべた。笑みの種類は様々だ。冷たい笑み。嘲りの笑み。意味ありげな笑み。共通するのは、その内に秘めた悪意。学園のすべての生徒が敵だった。悪意を持って、プレティンドとオルナメアを孤立させていたのだ。だから、小説のことを知らなかった。その事実は、プレティンドの背筋を凍らせた。
視線をめぐらすうち、プレティンドと懇意にしている取り巻きの令嬢たちと目が合った。
「愛しの君たちよ! どうして教えてくれなかったんだ!?」
問いかけずにはいられなかった。もし学園のほとんどの生徒が敵に回ったとしても、彼女たちだけは別なはずだ。でもそれなら、なぜ何も教えてくれなかったのかわからない。
ライティーラに侯爵令嬢がついているとわかれば警戒しただろう。銀鉱山をなんとしても手に入れようという執拗な契約があると知っていれば、考え直したはずだ。少なくとも、夜会で婚約破棄をするなんてことはなかったはずだ。
取り巻きの令嬢たちは顔を見合わせると、わざとらしくため息を吐いた。
「『秋空のちぎれ雲』先生の作品を読んで、婚約者の心を踏みにじることがどれほどひどいことか知りました」
「どれほど美しくても、心が醜ければ台無しです。あなたのその顔にときめくことは、もうできません」
「婚約者に冷たく接する殿方が、私たちのことも大切にしてくださるはずがない……当たり前のことですよね。そのことにようやく気づいたんです」
彼女たちも敵だった。それなのにプレティンドのそばを離れることはなかった。彼が調子に乗って婚約破棄の宣言をするよう、今まで通り取り巻きとして褒めそやして、オルナメアとの仲を深めていくよう導いていたのだ。
底知れない無数の悪意に導かれ、プレティンドは破滅しか待っていない婚約破棄を宣言した。
プレティンドは顔色を無くした。普段の優雅さは失せ、まるで重病に侵された半死人のようにうなだれた。
その時、拍手の音に紛れてカリカリという奇妙な音がするのに気付いた。思わず目を向けると、ライティーラの姿が目に入った。どこに持っていたのか手帳を取り出し、何やら鬼気迫る勢いで書き込んでいる。
「ライティーラ、何をしているんだ……?」
「今のあなたを見ていると、なぜだか次から次にアイディアがあふれてくるのです! 書き留めずにはいられないのです!」
ライティーラは笑顔だった。今までの婚約関係で、彼女が見せてきた場を取り繕うような笑みではない。心の底からの笑顔だった。
プレティンドに向けられてきた令嬢たちの笑みは、その美貌に取り入ろうとする下心が垣間見える、媚びたものだった。しかし今のライティーラの笑顔はそれとはまるで違う。メガネの下の紅い瞳が輝いていた。まっすぐで澄んだ心からの笑顔だった。
こんな状況であるというのに、プレティンドはその笑顔にときめきを覚えた。
だから。ライティーラの次の言葉は、彼の心に深く突き刺さった。
「あなたとのお付き合いは、失うばかりで得るものはないと思っていました! でも、今、こんなにも筆が進みます! あなたからいただいた痛みも悲しみも苦しみも、全て無駄にしません! なにもかもを糧として、必ず名作を書き上げて見せます!」
ライティーラの笑顔は、人が人に対して向けるものではなかった。いい食材を手にした料理人が見せるのと同じ種類のものだった。
自分の誇ってきた美しさが、創作の喜びに負けた。そのことが何よりプレティンドのことを打ちのめした。
「イナデランサ子爵家の負債は、リークタレス侯爵家が全て請け負います! その交換条件として、我がリークタレス侯爵家が『秋空のちぎれ雲』先生と独占出版契約を結びます!」
エスピーシェアの宣言に、生徒たちは沸き立った。会場中に拍手喝采が響き渡った。それに合わせて楽団も華やかな音楽を奏でた。夜会の盛り上がりは最高潮となった。
学園一の美貌と謳われたプレティンドは、いつもその場における主役だった。しかし今日からは違う。
この婚約破棄の宣言により、彼のティートラクト伯爵家はリークタレス侯爵家から見限られることとなる。伯爵家は大きく立場を落とすことになるだろう。
父はイナデランサ子爵領の銀鉱山に執着していた。それをみすみす失う愚かな判断をした息子のことを許すはずがない。勘当されて平民落ちになってもおかしくない。
プレティンドはがっくりと崩れおちた。これまでなら誰かがすぐさま駆け寄ったことだろう。しかし今、オルナメア以外に彼を見る者はいない。会場の誰もがライティーラに注目している。
プレティンドの過ちはたった一つ。婚約者を大切に扱わなかったことだ。ライティーラと普段から話をして注意を向けていれば、ライティーラのたぐいまれな才能に気づくことができただろう。そうすれば、婚約破棄を宣言することなどなかったはずだ。
彼は婚約者としての当たり前の義務を怠り、過ちを犯した。彼が主役として表舞台に立つことはもうない。思い描いていた栄達の道は消えた。後に残ったのは、辛く厳しい破滅の道だけだった。
終わり
「婚約破棄された令嬢が会場のみんなから拍手喝采される」というネタを思いつきました。
でもお話が思いつかなくてそのままお蔵入りさせていました。
ネタ帳を掘り返していたら目に入り、なんか書けそうな気がしたのでキャラや設定を詰めていったらこういう話になりました。
その時はダメだと思っても、後になって書けるようになることもあるので、メモは欠かせません。
とはいえ、思いついて「これはいけそう」と思ったらすぐ書いてしまうので、ネタ帳に残っているのは基本的に使い物にならないものばかりです。
いいネタをどんどん思いつければもっとハイペースに投稿できるのに、なかなかうまくいきません。
お話づくりに楽な道はありませんね。
2026/2/24 18:30頃、2/25
誤字指摘ありがとうございました! 読み返して気になった細かなところもあちこち修正しました。
2026/2/25
誤字指摘ありがとうございました! 修正しました!




