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日本滅亡〜日本が大変な事になりました〜  作者: 灰谷 An
第1章・王族の反乱 編
4/6

004:格の違い

 洞窟の中で王弟である泰周殿下が、右院卿と結託して謀反を起こしたところまでは聞いた。

 この国で、そんな事が起こっているとは思わなかった北翔は終始、口を開けたまま言葉を失っている。

 何も言えないまま、次の話に進もうとする。

 しかし次の話を口にしようとした瞬間、洞窟の入り口の方から音が聞こえて来た。

 これに2人はパッと素早く反応した。



「ガキ共、こんなところにいたのか? 手間をかけさせやがって、こりゃあ報酬を上げてもらわなきゃな」


「アイツだ!? アイツに両親を殺されたんです!」



 入り口に与四郎と麻央を殺した男が立っていた。

 さっきまで秋時陛下の話を聞いていて忘れていたのだが、男を見た瞬間に怒りが湧いて来た。

 北翔は木刀を持って立ち上がる。

 今にも男に襲いかかりそうだ。



「落ち着け! 奴は〈アイヌ民族崩れ〉の暗殺者だ!」


「アイヌ民族崩れの暗殺者?」


「あまりの凶暴性からアイヌ民族から追放された一族の末裔だ! 暗殺業を生業としている!」



 与四郎と麻央を殺し、2人の命を狙っている謎の男はアイヌ民族から追放された一族の末裔だという。

 そしてさらには気性の悪さを生かして暗殺業を生業にしながら生活しているのだと説明した。



「そっちのガキを渡せば、そっちのガキは苦しまずに楽に殺してやるぞ?」


「ふざけんじゃねぇぞ! ウチの国の王様をみすみす渡すバカが、どこにいんだよ!」


「それじゃあ苦しみながら殺してやるよ!」



 男は北翔に向け秋時陛下を素直に渡せば、北翔は楽に殺してやると言って来た。

 それに対し渡すわけが無いと全力で拒否する。

 拒否された男は刀を鞘から抜いて構える。



「俺の為に止めろ! 俺がなんとかして時間を稼ぐから逃げろ!」


「陛下、そんな事をしたら親父に叱られますよ……男として武士に憧れる者として勝ちます!」



 自分の為に命を投げ出そうとしている北翔に、秋時陛下は考え直すように言うのである。

 しかし北翔の考えは変わらない。

 ここで秋時陛下を助けなければ与四郎に叱られてしまう上に、男として武士になりたい者として失格の烙印を押されてしまうと思ったのだ。



「そうか、死にたいんだな? それなら、お前をジワジワ殺して恐怖心を煽ってから、そっちのガキを殺してやるよ」


「やれるもんならやってみろよ。こっちは元々、背水の陣で挑んでんだよ!」



 男と戦う事を決めた北翔は、木刀を構えながら男に向かって飛び出した。

 低い姿勢のまま木刀を強く握る。

 そして男の間合いに入った瞬間、下から上に向けて木刀を振り上げるのである。

 男が想定していたよりも速かったみたいだ。

 北翔の振るった木刀は、男の額を掠った。



「おっとぉ? 思ってたよりも速いじゃねぇか」


「余裕ぶっ来いてる暇あんのか!」



 思っていた速さでは無かったので驚きはしたが、それでも余裕を醸し出しながら北翔を煽る。

 このニヤニヤしながら煽って来た事に、北翔はイラッとして不恰好な振りで攻撃を続ける。

 しかし最初の一撃で速さを知られ読まれ始める。

 さすがは戦闘民族と言ったところだろう。

 最初の一撃に驚きはしたが、それからは余裕を出しながら北翔の攻撃を綺麗に受け流すのである。



「そんなもんかぁ? そんなもんで俺に勝てるとか思ってたのか?」


「テメェなんて手も足も出てねぇだろ! ただ避けてる野郎が、大口叩くんじゃねぇよ!」



 さすがに連続で攻め続けている北翔に、疲れの色が見え始める。

 男も動いているが最低限の動きで避けている。

 その為、北翔と男の運動量に差が出てしまう。


 それでも北翔は攻撃を続ける。

 次第に怒りと疲れで攻撃が大雑把になり、動きが単調になって来たのである。

 この隙をついて男は、わざと鍔迫り合いになって接近したタイミングで北翔の腹に蹴りを入れる。


 蹴られた北翔は「痛っ!?」と言って後ろに蹴り飛ばされた。

 地面に転がってから顔を上げると、男が刀を振り上げ北翔を斬る準備をしていたのだ。

 驚いた北翔は真横に飛んで避ける。

 ギリギリで避けた北翔、男の背後に回り込む。



「これだけは覚えておけ。今みたいに俺は、いつでもテメェらを簡単に殺せる。だけど、それはしねぇ。何でか、分かるか?」


「そんなの知ったこっちゃねぇよ!」


「その答えは……楽しいからだ! 死にそうになっている人間の表情ってのは、この世で最も甘美なモノなんだよ………その表情を見る為なら、いくらでも人殺しをしたいって思うくらいだ!」


「このイかれた野郎が……」



 この男のイかれた部分に北翔は寒気を覚える。

 いつでも殺せるというのに、わざと逃げるように誘導し苦しみ尽くすまでころさないというのが、この男の戦い方である。

 確かに秋時陛下が言ったように、アイヌ民族を追放された一族の末裔に相応しい腐った性格だ。


 こんな人間に負けるわけにはいかないと、北翔は男に向かって飛び出す。

 正面の顔面だけを狙っては勝てないと悟る。

 そこで顔面に少しの間、攻撃を集中させ意識を頭の方に向かせるのである。

 次にガードが上がったのを確認してから、胴体に向かって地面に水平に木刀を振る。



「残念だったなぁ! こんなに露骨に攻撃を上に集めたら、狙いが上じゃ無いって察せられるよなぁ。考え方が、まだまだガキなんだよ!」



 綺麗に入ったかと思ったが、これは男が北翔の狙いに釣られたフリをしていたのだ。

 これには北翔はイラつきよりも恐怖を感じる。

 動きがフリーズしていると、男は北翔の胴体に向かって刀を振ろうとする。

 男の動きが遅く北翔は胴体に木刀を持っていく。

 完全に北翔はガードの態勢が整っている。

 普通ならば男の攻撃は無効化される。

 はずだった。


 男は北翔がガードしているとか関係なかった。

 ガードの上からでも刀を振ると、北翔の体はくの字に曲がって洞窟の外に吹き飛んでいった。

 地面に数バウンドしてから木に衝突し止まる。

 あまりの衝撃とダメージに、北翔は立ち上がるのに時間がかかってしまう。

 何とか木刀を使って立ち上がる。



「クソ……どうなってんだ」


「どうなってるのかも分からないのか? この差が、お前と俺の格の差だ」


「ふざけんな、これが格の差? 舐めんじゃねぇ……もうそういうのはこりごりなんだよ!」



 北翔は生まれた時から百姓の中でも下層の存在だったので、身分の差などのコンプレックスがあった。

 ここに来て格の差を持ち出されイラッとした。

 スッと立ち上がった北翔は、男に向かって木刀を構えるのである。



「まだやるつもりなのか? 農民のガキは、どこまで行っても本物の武士には届かねぇぞ?」


「テメェが決めるんじゃねぇよ……確かに親父も俺も百姓の出なのは変わりない。だけどよ、テメェなんかよりも親父の方が何百倍も武士道を貫いてたぞ!」


「そうかよ! そう思うならかかって来い。その腑抜けた覚悟ごと、真っ二つに斬り伏せてやる!」



 こんなクソ野郎なんかよりも与四郎の方が、武士らしく武士道を感じたと北翔は思った。

 この男を倒さなければ父親の汚名は拭えない。

 そう北翔は考える。


 木刀をギュッと強く握り、左足を地面が抉れるくらい後ろに下げる。

 そのまま地面を蹴って男に向かっていく。

 さっきまでの動きとは比較にならない。



「なっ!? ど どうなっているんだ!?」



 男は北翔の速度に驚く。

 しかしただ場数を踏んでいたわけではなく、こうなった時に後ろに下がったらダメだと分かっている。

 だから留まって鍔迫り合いに持ち込もうとする。

 だが、これが逆に男にとっては悪手となる。

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