018:決戦の時
北翔たちは中門も無事に突破した。
これには秋時陛下と浅井さ、フゥと安堵している。
北翔と流華は変わりなく、王宮内をキョロキョロして田舎者丸出しで歩いてる。
すると秋時陛下が鬼門と言っていた王門が見えた。
秋時陛下と浅井は、固唾をゴクンッと呑む。
「ご一同さま、1度ここでお止まり下さい」
先導して歩いていた長縄右院卿の側近は、王門の少し手前でピタッと足を止めた。
クルッと北翔たちの方を振り返る。
そして1度ここで止まるように促される。
「ここで全ての武装を置いた上で、太陽殿と5人の従者さまだけを、お先にお連れいたします」
側近は北翔たちに武器を預け、その上で人数を太陽族長合わせ6人に制限すると言った。
秋時陛下と浅井は、この展開を予期していた。
だからこそ王門が鬼門だと言っていたのだ。
「秋時殿、これはどうする? 武器を取り上げられたらアイヌの戦士とは言えども、武器を持っている兵士には限界があるぞ?」
「あぁ我々も同じだ……」
秋時陛下と太陽族長は小さな声で喋る。
さすがにアイヌの戦士でも武器なしで、武装している大群の兵士たちと戦うのは厳しい。
だからどうするべきかと小声で話し合っている。
しかし普通ならば直ぐにでも応じるはずなのに、少し拒んでいる事に側近は違和感を感じる。
側近の男は眉を歪めながら「どうなさいました?」と探りを入れ始めたのである。
「太陽殿、これは力技で行こう……」
「そうだな、ここは強引にでも出るべきだ」
秋時陛下は太陽族長に、ここは力技で行こうと決定したのである。
それは太陽族長も同じ意見だった。
小さな声で後ろの人間たちにも、これからここで打って出るというのを伝える。
北翔も聞いて刀に手を自然に持っていく。
何かをおかしいと悟った側近の男の護衛人が、刀に手をやった瞬間、秋時陛下が飛び出し男を斬った。
側近の男は「ひぃいいい!?」と腰を抜かす。
もう不必要になった仮面を取ると、地面にポイッと捨てて刀を上で見ている長縄右院卿に向ける。
右院卿は「ぐぬぬぬぬ!!!!」と歯を噛む。
「アレは秋時ぃいいい……直ぐに門を閉じよ!」
長縄右院卿は直ぐに王門を閉めるように指示した。
それを聞いた王門の門番たちは、急いで門の扉をギギギッと閉め始めたのである。
浅井は「閉じさせるな!」と叫ぶ。
何かを感じた太陽族長は、アイヌの戦士たちに急いで指示を出して門に向かわせた。
しかしギリギリのところで門は閉じてしまった。
浅井は「くそっ!」と呟く。
「あの門は簡単に開けられないのか?」
「王門は破城槌が無ければ突破できぬくらいの硬さがあるのだ。こうなったら面倒だぞ……」
「そうなのかよ。それならここで敵を倒してから城壁を登るしかねぇのか」
浅井が門を閉じられたくなかった理由は、この王門が頑丈であるが故だった。
王門は破城槌という城壁などを壊して突破する為の道具なのであるが、それが無ければ突破できない。
こうなったら乱戦に持ち込んで、城壁を登り門の裏側に回るしかないのである。
乱戦に持ち込むと聞いた北翔は、ニヤッと笑って続々と出て来ている兵士たちに向かって飛び出す。
秋時陛下は「危ないぞ!」と北翔を呼び止める。
しかし北翔は2人の強者を倒しているので、ノリに乗っているというのもあって数人を瞬殺する。
「テメェらっ! 陛下に剣を向けて、タダで済むと思うんじゃねぇぞ……死にてぇ奴からかかって来い!」
北翔は敵対している兵士たちに向けて、メンタルに来るような精神責めをする。
それを聞いた兵士は確かに、後ろに蹌踉めくくらいには聞いているみたいだ。
しかし長縄右院卿が上から兵士たちに叫ぶ。
「もう遅いわ! 剣を向けた時点で反逆者だ。そうならぬように、ここで国王である秋時を討ち取れ!」
『うぉおおおお!!!!!』
長縄右院卿の方が兵士たちの心を動かし、王宮内から多くの兵士たちがやって来る。
そして北翔たちの周りをグルッと取り囲む。
「アイヌの戦士たちよ! 盟友である秋時殿を、易々と失ったとなると……末代までの恥ぞ! ここを逆賊たちの血の海とかせ!」
『おぉおおお!!!!!』
囲まれながら太陽族長は、アイヌの戦士たちに秋時陛下を守り勝てと叫ぶのである。
それに反応し雄叫びを上げながら、アイヌの戦士たちは兵士たちに襲いかかっていく。
その戦い方は、まさしく野人のようだ。
しかし仲間からしたら、こんなにも心強い戦い方は無いと言った感じである。
「羽鳥のおっさん! こんなところで俺たちが遅れをとるわけにはいかねぇぞ!」
「あ あぁ分かっている! ていうか、オッサンっていうんじゃ無い! 俺はまだ22歳だ!」
北翔はアイヌの戦士たちに、遅れをとるわけにはいかないと羽鳥中尉にも声をかけて戦う。
北翔の戦い方もアイヌの戦士たちには、決して遅れをとるようなものでは無い。
逆にいえば今まで実践経験が無いのは、本当なのかというくらいのレベルで戦っている。
「うぉおおおお!!!! どうじゃい!……ん? アレは何してんだ?」
「アレは壁の近くで拠点を作って、どうにか壁をよじ登ろうとしてるんだ……だが人数差がある中で、これはキツイところがあるな」
アイヌの戦士たちは4人1組みたいになって、壁の近くに行くと拠点を作り、そこから壁の上へと登ろうとしているのである。
しかしこれには大きな穴がある。
数的不利の場面では、拠点を作ったとしても直ぐに潰されてしまうのだ。
浅井が心配していた通り、何人もが拠点を作ろうとして兵士に殺されてしまっている。
「こ こんなの続けてても戦士を、無駄に減らすだけじゃ無いのか……」
「それも確かにそうだが、この作戦以外で王門を開ける事はできん!」
北翔は目の前で拠点を作っては、反乱軍の兵士に潰され殺されるという光景が広がっている。
北翔的には、こんな事を続けても無駄に兵士を減らすだけなのでは無いかと思えて来る。
しかし羽鳥中尉は、この方法でしか王門を開く事はできないというのである。
「それもそうか……でも、こんなところで油売ってたら増援が来るだろ?」
「あぁここの騒ぎを聞きつけて3倍は、兵士たちが流れて来るだろうな」
「そうなったら、ここはどうなるんだ?」
「そんな事になったら、俺たちは兵士たちに押し潰されて死んじまうよ」
「そうだよなぁ……じゃあちょっと無理するか」
このまま王門の前で時間をかけていたら、この騒ぎを聞きつけた兵士たちが大勢やって来るという。
そんな事になったら斬り殺される前に、兵士たちに押し潰されて死んでしまう。
それを聞いた北翔は、刀を鞘にしまって屈伸運動をして、何やら無理をすると言うのだ。
「お お前は何するつもりなんだよ!」
「このままじゃあ埒が明かないんだろ? それじゃあ無理するしかねぇだろ」
「だから、その無理ってのは何なんだよ!」
羽鳥中尉は北翔が何をしようとしているのかと、北翔に聞くのであるが、北翔は何も言わずにニヤッと笑って見てれば分かると言うのだ。
そのまま1人の大柄の兵士に向かって走る。
兵士は向かって来る北翔を斬ろうと、剣を振り上げ振り下ろすのである。
しかしそれをヒラッと避け、男の方を踏み台にして壁に飛び移ったのだ。
「お おぉ! 北翔がやりやがったぞ!」
「やる時はやる野郎だ!」
北翔が門壁を登った事に、アイヌ民族と秋時陛下たちは歓声を上げるのである。