017:久しぶり王都
長縄右院卿は側近の男を、太陽族長のところまで降ろして話を聞きに行かせる。
太陽族長は雰囲気があるので側近の男は、ビクビクしながら深々と頭を下げて挨拶をした。
そして「本日はどのような用件で?」と聞いた。
「先ほども言ったが、貴殿ら北星王国と国交を復活させたいのだ。その為に我らは山を降りて来た」
「そ そうでしたか! 少々お待ちください、上の者に確認して参りますので!」
側近の男は、まさかアイヌ民族が国交を結びに来るなんて思っておらず、困惑しながら長縄右院卿に話をして来ると言って門の前で待つように言う。
そのまま急いで門の中に入ると、人生で1番くらいの速さで長縄右院卿のところに戻った。
そしてそのまま太陽族長から聞いた話を伝える。
「なに? アイヌ民族が、我らと国交を結びに来ただと?」
「こんなタイミングで怪しいと思うのですが……閣下、どういたしますか?」
「これは我々だけで判断できる事では無いだろ。泰周殿下に話を通して、判断を仰いでみよう」
長縄右院卿は全てを任せると言って貰ったが、それでもアイヌ民族と国交を結ぶ事を、独断で決められないだろうと思ったのである。
そこで長縄右院卿は今回のアイヌ民族と国交を結ぶか、どうかを泰周殿下に仰ぐ事にした。
「なにぃ? あの汚らわしい一族が、我らと国交を結びたいと言って来ただと?」
「はい、我々としてはアイヌ民族の戦闘力を得れるのは大きい事かと思います……」
「あんな汚らしい奴らと話すなどありえん! そんな奴らは追い返してしまえ!」
「しかし! 陛下を討ち取ったとしても、まだ左院卿との戦いが残っています……ここは結んでおく方が、これからの為だと進言いたします」
アイヌ民族がやって来たという報告を受けた泰周殿下は、そんな汚らわしい奴らを王宮内に入れる事には反対だと言って追い返すように指示する。
しかし今回のクーデターが成功したとしても、まだ強大な力を持っている箕面左院卿との戦いが残っているので、そこの為に強い力は持っておいた方が良いと頭を下げながら陛下に進言した。
泰周殿下は自分のプライドと、現実的に利益となる事を天秤に掛けて悩んでいる。
「分かった! アイヌ民族を入れよ」
「承知いたしました! 懸命なご判断痛み入ります」
「だが! 俺はアイヌの奴らとは喋らぬぞ」
「はい! 交渉に関しては、全て我らにお任せいただければ、殿下の手を煩わせません」
今のプライドを捨てた泰周殿下は、アイヌ民族たちを王宮内に入れるように言うのだ。
この判断に成長を感じた長縄右院卿は、深々と頭を下げて感謝を言うのである。
だが泰周殿下は、アイヌ民族とは喋らないと公言して交渉を全て任せる事にした。
別に交渉は自分がやろうと思っていた長縄右院卿としては、交渉の場ができただけで泰周殿下が出て来ないのは予想済みだった。
門が開くまで時間がかかっているので、北翔は寝不足もあって欠伸をして待っている。
これに秋時陛下は「気を引き締めろ」と軽く注意して、北翔は背筋を伸ばし「失礼しました!」と謝る。
それにしても長い。
もしかしたら中に入れないのでは無いかと、北翔は思い始めたのである。
しかし秋時陛下は「絶対に開く」と信じていた。
すると待ちに待っていた門が開いた。
そこには高級そうな服に身を包んでいる政治家たちが、深々と頭を下げて待機していたのである。
これはどちらかと北翔たちは様子を見ている。
ここで日本語が通じるヤマルが馬に乗りながら、ゆっくりと近寄って結果を伺う。
「アイヌ民族の皆さま、北星王国は皆さまを心より歓迎いたします」
「そうか、なら我々は王宮内に入れるのだな?」
「はい、そうでございます」
迎え入れて貰えると分かったヤマルは、後ろを振り返って北翔たちに右手を挙げる。
これは上手くいった時の合図だった。
この合図に北翔たちはガッツポーズをするが、秋時陛下は落ち着いている。
どうしたのかと思うと「まだここからだ」と言う。
北翔はどういう事なのかと疑問を抱いた。
「しかしさすがに皆さまを全員、王宮内に入れるわけにはいきません。なのでお連れさまを、半分に減らしてはいただけないでしょうか?」
「連れを半分に? 族長に話をして来る。少し待っていてくれ」
「はい、承知いたしました」
迎え入れると言っても警戒はしているので、全員を王宮内に入れるわけにはいかない。
なのでせめて半分に減らすように言って来た。
ヤマルは焦る事もなく、太陽族長に話をしてくるから待っていてくれと言い残して後ろの軍に戻る。
そして太陽族長に説明する。
「陛下、これはどうする?」
「それならば太陽殿の配下を8割、我々の配下を2割に合わせていただいても良いか?」
「あぁそれで良い。そちらの選ぶ人間ならば、王宮内に詳しい人間の方が良いだろうな」
太陽族長は秋時陛下に、自分たちの戦士と秋時陛下の兵士の割合について聞くのである。
それを聞かれた秋時陛下は、アイヌ民族の戦士を8割にして、自分たちの方を2割にすると言った。
これに太陽族長も納得する。
秋時陛下の配下の2割には、北翔たちを筆頭に王宮内に詳しい人間を選ぶ事にした。
選出は浅井に一任された。
上手く選出を終えた北翔たちは、残りの半分を門の外で待たせる。
残っているメンバーには「何かあったら、ここから中に攻め入れ」と指示してある。
そうなれば乱戦に持ち込む事ができる。
それで何とか戦いを五分にしようと思っている。
半分になった北翔たちは、ゆっくりと門の入り口まで進軍する。
目の前までアイヌ民族たちがやって来て、また政治家たちは深々と頭を下げて挨拶した。
そしてスッと手を王宮内に向ける。
中に案内しているのだ。
太陽族長は「失礼する!」と言って中に入った。
「こ ここが王都なのか!? こんな立派な建物、生まれて初めて見たぞ……」
「おい! あれって金でできるんじゃ無いか!」
「なに!? うわ、本当だ……こりゃあスゲェな」
北翔と流華は田舎から都会にやって来た田舎者みたいな反応をし……いや、実際に田舎から出て来てるから間違いでは無いのか。
この北翔たちの反応に、浅井は「バレるとかの前に恥ずかしいからやめんか!」と叱られる。
しかし他のアイヌ民族たちも、豪華な王宮に目を奪われており「お〜お〜」と唸っている。
「しかし陛下、泰周はどこにいるんでしょうか?」
「ん? 王宮内の玉座の間に居るだろうな」
「それってどこなんですか? こんなに色んな建物があったら、どこがどこなんだか……」
「この王宮には三重の門がある。さっき入ってきた門に、政治家の家族が住んでいる中門、そして王族が住んでいる王門の3つだ」
「つまり王門を越えなければ泰周に会えないという事ですね?」
この北星王国の王宮は三重の壁で守られている。
1番外にある外門に、政治家の家族たちの住居がある中門、そして最後に王族たちが住んでいる王門の3つで王門を越えなければ泰周殿下に会えない。
無事に外門を突破する事ができたので、次の門である中門に向かって最中である。
「外門と中門を突破するのに、そこまで苦労はしないと予想していた……これからが問題だ」
「それってどういう?」
秋時陛下は外門と中門は、容易に突破できると予想はしていたというのである。
しかし最も難しいとされている王門が、これから控えている事に秋時陛下はドキドキしている。