014:狭く感じる世界
秋時陛下の日本列島に存在している8つの国の国境を、全て排除するという発言に族長も言葉を失う。
そして「北星王よ」と口を開いた。
「周りの国を見てみろ、そんな事を容認するような国が1つでもあると思っているのか?」
「そうならないのならば力尽くっていうのも良いだろうな。なんせ今は乱世の世なんだからな」
「それは人を笑顔にするという貴殿の信念とは、真反対のような事に聞こえるが?」
「それは違うぞ! 今まで150年も乱世が続いたのならば、まだ数百年続くかもしれぬ。俺が立ち上がるのは、その先の数百年を止める為だ」
秋時陛下は他の国が、1つになろうとしないならば力尽くでやっても良いと不敵に笑いながら言う。
族長からしたら、そんな事をしたら秋時陛下が言っていた人を笑顔にする道とは異なるのでは無いかと疑問をぶつけるのである。
しかし150年も乱世が続いているのだから、まだ数百年続いてもおかしくは無いと言う。
秋時陛下が立ち上がる理由は、その数百年の犠牲を止める為なんだと全身を前のめりにして話す。
「一体なんの話をしているんですか……」
「俺が目指している道の話だ」
「陛下が目指しているのは、王弟殿下から玉座を奪還する事では無いのですか?」
「玉座の奪還は俺の道の一歩目に過ぎん」
「それじゃあ陛下の道って……」
秋時陛下と族長の話についていけていない北翔は、困惑しながら秋時陛下の道(夢)の話をする。
「俺は日本列島を再度統一し、新たな天皇となる! その協力をして貰う為、アイヌ民族に会いに来た!」
秋時陛下の目標とは日本列島を、また1つに統一して新たな天皇になるというものだった。
しかしあまりにも突飛な事だったので、その場にいる羽鳥中尉たちも驚きを隠せない。
「そんな事できるわけが……滅亡するはずのない日本が滅亡したんですよ? そんな国を、また1つに戻すなんて事ができるわけないじゃないですか!」
「それをやるしか無いのだ! 日本を再統一すれば国家間での争いが無くなり、また日本時代後期のように豊かな国を見る事ができるぞ」
羽鳥中尉は崩れる事がないと言われていた日本がくず、こんな事になっているのに日本統一なんて不可能だと自分の考えを言う。
しかし秋時陛下は統一する事ができれば、また豊かな世界に誇れる日本という国が観れるという。
この言葉を聞いた族長は、過去の自分の発言を思い出しているのである。
族長は山の上に登って北星王国が見渡す。
族長の近くには、長老と呼ばれている2人のジジイとババアが立っている。
この2人が口うるさく言っている。
「どうして北星王国を攻めぬのだ?」
「ほっほっほっ、さすがは太陽さまじゃ! その心意気は立派ですぞ!」
「しかし今しばらくお待ちください。北星王国を取るには、まだ兵力も政治力も足りませぬ」
族長である《釈 太陽》は北星王国を、どうして攻めないのかと長老に聞く。
その太陽の言葉に長老たちは、族長としての意識が強くなってきたと喜ぶ。
しかし北星王国とやるには力が足りないという。
だからもう少し待って欲しいと頼むのだ。
「ならば同盟を組もう!」
「何を申しますか! それはなりませぬぞ!」
「滅多な事を口に出しては、族長としての権威が無くなってしまいます! 祖先の無念を晴らせるのは、太陽さまであろうと皆が期待しています」
北星王国を滅ぼす事をしないのならば、同盟を組んで国交を結ぼうというのである。
しかしそんな発言を族長である太陽がしてはいけないと、長老の2人は注意する。
それは祖先の恨みを晴らそうとしているアイヌ民族たちに示しがつかないからなのだろう。
「ジィとバァよ。余が族長となり軍を揃え警備を厚くした事によって、集落の狭さが顕著に感じる。戦争だろうが同盟だろうが、なんだって良いが……もっと世界を広げたいのだ」
太陽は自分の集落の世界が、どんどん狭く感じるようになっていたのである。
だからこそ戦争だろうと同盟だろうと、なんだって良いから世界をもっと広げたいと思っていた。
そんな昔の事を思い出していると、族長の間の扉が開いてジジイとババアが入ってきた。
どうやらいつまで経っても処刑を執り行わない太陽に、痺れを切らしてやってきたのだ。
「族長よ、何をモタついておられるのか!」
「今こそ一族の恨みを晴らす時じゃ!」
「余計な問答は必要な無い!」
「とは言ったところで、北星人への恨みはジィらの方が深い……この裁きは我らにお任せを」
太陽に処刑するよう急かすのであるが、最終的には自分たちの方が恨んでいるから裁きは、自分たちが下すと言って右手を挙げた。
すると処刑人の1人が、刀を振り上げて北翔の首を刎ねようとするのである。
もう完全に北翔の首は刎ねられると思った。
しかし北翔は気がついたら、拘束されていた縄を解いて処刑人の顔面を殴り飛ばした。
どうして縄で縛られていたのに、解いて殴っているのかと周りの人間たちは驚いている。
どうやら北翔は小さい時に人攫いに会い、その時に拘束を解く技を覚えたらしいのである。
凄いだろうと言わんばかりに大笑いしている。
だが直ぐにジジイとババアの指示によって、北翔たちの周りに多くの手勢が取り囲む。
抜けたピンチは、また別のピンチを呼んできた。
「お前がヤマルの言っていた面白い男か。さて、ここからどうするのだ?」
「別にどうするもこうするもねぇよ。アンタらが協力してくれないなら、ここを下山して別の人間に手を貸して貰えば良いだけだ」
ヤマルは太陽に北翔の事を話していたみたいだ。
その話通りに北翔は面白い男だと言って笑う。
そしてここからどうするつもりなのかと、これからの展望について北翔に聞くのである。
北翔は冷静を装いながら協力してくれないなら下山して、別の人に協力して貰うと言う。
するとジジイが口を開く。
「バカか、貴様は! ここから無事に下山できると思っておるのか!」
「別に剣を奪って殺し合いをしても良いが、もう今となっては戦いたくねぇヤツも居るしな……そうだ! テメェを人質にして下山するってのもありだな」
北翔は色々と策を考えた上で、剣を奪って殺し合いをするよりもジジイを人質にする事を選ぶ。
それを決めた北翔は太陽に「おい! おっさん!」と言って族長を呼び捨てにした。
「俺は下級百姓の出で、難しい話は理解できないけどよ。簡単に言うと陛下は困ってんだよ、今のうちに助けておけば恩賞とかも高くつくぞ!」
「下賎なサルが調子に乗るな! 貴様らを、ここで殺して祖先らの無念を晴らすんじゃ!」
とてつもなくレベルの低い誘い話をする。
その程度の低さに流華と羽鳥中尉たちは呆れた。
さらにはジジイが下賎なサルと、北翔の事を馬鹿にすると北翔はジジイの胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「さっきから無念だの恨みだのうるせぇんだよ! だいたい無念っていうなら1番は、恋焦がれてた事が叶わなかった事だろうが! もしお前らが本当に、死んでいった奴らの事を思ってんなら……奴らのみた夢を叶えてやろうって思えよ!」
北翔は父親との事が被って相当イライラしていた。
だからこそアイヌ民族の人たちに、祖先が夢見たものを叶えてやろうと思えと叫んだのである。