012:最後の審判
秋時陛下が連れていくと決めたメンバーは北翔と流華、そして浅井の部下である羽鳥中尉だった。
まさか自分が入っていない事に、浅井は驚いて「ちょっと待って下さい!」と訂正を求めた。
しかし浅井まで連れ出したら、ここにいる兵士たちの指揮を取る人間がいなくなってしまうので、それだけは避けなければいけないと説得した。
「ここに残りますが、絶対に気をつけて下さい! お前たちも陛下の護衛だという事を片時も忘れるな!」
「オッサンに言われなくても分かってるよ! 俺たちで陛下をお守りする。その上でアイヌの奴らに話を通してくれば良いんだろ?」
「話は陛下がするから、お前らは口を出すな!」
浅井に色々と言われて北翔は、うるさいと言わんばかりに耳の穴を指でほじる。
ちゃんと聞いているのかと怒りながら、自分はいけないが本当に頼むと北翔たちの手を掴む。
北翔はニヤッと笑ってから「おう!」と言う。
そのまま北翔たちは、さっきのところまで半日かけて向かうのである。
今度は手勢が少ないので、少し早く到着した。
するとさっきみたいに気配を強く感じる。
時間も惜しいという事で、秋時陛下は隠れているアイヌ民族たちに向かって「話し合いに来た!」と叫んで、目の前に姿を表してもらった。
姿を現したのは、前と同じように日本語が理解できて喋れる男だった。
また来たのかと言わんばかりに溜息を吐く。
「どうして戻って来た? 今度は生きては返さない、そう言ったよな?」
「あぁ族長と話せるのならば、我々はどんな待遇であろうと構わない! さぁ連れてってくれ!」
どんな待遇でも良いという事だったので、男は他のアイヌ民族に「捕らえよ!」と指示を出す。
その指示通りに秋時陛下は跪くと後ろに手を回し、素直に拘束されるのである。
後ろにいる流華と羽鳥中尉も同じだ。
しかし北翔だけは違った。
北翔の拘束をやりに来たのは、さっき鞘で思い切り殴った屈強な男だった。
ジッと北翔の事を見下している。
北翔は「なんだよ! 文句あんのか!」と絡む。
すると男は北翔の事を思い切り殴り飛ばした。
そのまま北翔は気を失ってしまう。
秋時陛下たちは拘束されたままアイヌ民族の集落まで連行されていくのである。
もちろん基本は歩かされているのだが、気を失っている北翔は男に担がれて運ばれている。
明らかに鬱憤を晴らされた感じだ。
そのまま集落に到着したのだが、秋時陛下は族長と話をさせる為に別のところへと連れて行かれる。
そして北翔たちは、村の外れの何とも言えないような雑な牢屋の中に放り込まれた。
投げ込まれた勢いで北翔は目を覚ます。
「なっここはどこだ! 俺はどうなった!?」
「俺たちは捕まったんだよ、北翔は殴られて気を失ってたから覚えてないかもしれないけどね」
「そっか、俺たちは捕まったのか……陛下は!?」
「落ち着きなよ! 俺たちと同じところに入れられるわけないだろ?」
状況が理解できずに、周りをキョロキョロして騒いでいる北翔に流華は状況を説明する。
しかし説明をして状況を理解したところで、北翔の性格的にうるさかった。
あまりにもうるさいので流華は「静かにしろよ」と言って北翔を黙らせるのである。
「それにしたって、これからどうするんだ?」
「これからどうするも何も、あとは陛下に任せるしかないだろ?」
北翔は促されるままに静かになった。
だがこれから何をするのかと質問をする。
羽鳥中尉は何をすると言われても、ここからは秋時陛下に任せるしかないと言う。
確かにそうかと北翔は、あぐらをかいて座る。
秋時陛下が解決してくれるのを、ここで待っていようと目を瞑って瞑想を始める。
すると北翔たちが閉じ込められている牢屋の前に、手作りの槍を持ったアイヌ民族が数人現れた。
「なんだよ! 見せもんじゃねぇぞ!」
アイヌ民族たちが、北翔たちの事を見ながら笑っているのである。
動物園の猿を見るような眼差しを向けられた。
こんな状況に北翔が黙っていられるわけもなく、見せ物じゃないんだと言って立ち上がって怒鳴る。
それにアイヌ民族たちはイラッとして興奮する。
槍を北翔たちの方に向けて、今にも刺されそうな状況になってしまう。
流華と羽鳥中尉は「余計な事を」と壁際に逃げる。
「やれるもんならやってみろよ! 実際にやったら、テメェらをボコボコにしてやるからな!」
「これ以上、相手を挑発するんじゃねぇよ!」
「コイツらはやるつもりだぞ! そんなに煽ったら、コイツら本当にやるぞ!」
北翔はアイヌ民族たちを煽りに煽りまくる。
ここまで煽ったら、本当にやられると流華と羽鳥中尉は煽るのを止めるように言うのである。
しかしその制止も虚しく、アイヌ民族たちは槍を振り上げて北翔たちに振り下ろそうとする。
もうやられると思った北翔たちは覚悟する。
数秒待っても体に痛みが来ないので、どうなったのかと北翔たちが目を開ける。
するとそこに北翔と一悶着あった屈強な男が、アイヌ民族たちを締め上げていたのである。
どうなっているのかと北翔たちは男を見ている。
ボコボコにやっつけ退散させた。
「お 俺たちを助けたのか!?」
北翔は屈強な男に、助けてくれたのかと聞く。
だが男は日本語を喋れないので、独自の言語を喋っているが、逆に北翔たちはそれを理解できない。
どうしたものかと困っているところに、日本語が分かるリーダー的な男がやって来た。
「族長からの指示が出ていないから止めたと、コイツは言っているぞ」
「お お前……」
「あぁ名乗っていなかったか。俺は《ヤマル》、コイツが《アシケトク》だ」
リーダー的な男はヤマル、屈強な男はアシケトクというらしいのである。
ヤマルはアシケトクが、別に助けたわけではなく族長の命令もなく殺すのは許せないからだと説明する。
「陛下は、どうなってる! 生きてるんだろうな!」
「まぁ今のところは生きてるさ。もう少ししたら、族長のところに連れて行かれ最後の審判が下される」
北翔たちがヤマルと揉めている間も、秋時陛下は幽閉され族長に最後の審判を下されるのを待っている。
こんなところから早く逃げなければいけないと、牢屋の檻にタックルして壊そうとするが意外にも頑丈。
そんな北翔を見たアシケトクは、何かを言って大笑いしてから立ち去っていくのである。
「お前たちも、いずれは首を刎ねられ王様と同じところに行けると言っている。まぁそういう事だ、最後の時まで牢屋の中で待ってるんだな」
「ふざけんじゃねぇよ! こっから出せよ!」
北翔たちを嘲笑うように笑って、ヤマルとアシケトクたちは牢屋の前から居なくなるのである。
消えていく2人の背中に、北翔は「待てよ! こっち来い!」と必死に叫んでいる。
一方で秋時陛下は、見張り3人に牢屋から出され槍を向けながら族長のいる間に連れて行かれる。
族長の間には槍を持ったアイヌ民族が、真ん中に道を作るように左右に大勢列をなしている。
そして促されるままに族長が座るであろう玉座の前に、正座で座るように言われるのである。
仕方なく秋時陛下は正座して座る。
そのまま族長が来るのを目を瞑り待つ。