001:始まりの話①
日本は令和時代に入ったものの度重なる厄災で、国民は苦労を強いられていたのである。
それを見かねた陛下は、年号を新たに〈高春〉とし新たな時代に再起を図った。
しかし時代は変わったものの状況は悪化する一方だ。
日本の少子高齢化が進み、諸外国との技術格差や教育レベルの低下が起きてしまった。
そんな最悪な状況に拍車をかけるように、世界では第三次世界大戦が起こり、日本は多くの難民を向かいれ第二次コロナブームとなった。
さらに東日本震災レベルの災害が、日本各地で起こり被害は考えたくないレベルにまで登った。
そんな状況の中、日本政府の政治家たちは裏金や酒池肉林と言った感じで腐敗を極めていた。
重税・悪政・大災害・大飢饉に、日本国民は深く憤慨し遂に決起するのである。
指導者《東 太原》の指揮の元、日本史上初めての大革命が起こった。
革命軍はできる事限りの事を行った。
これにより日本の国家体制は崩壊する。
革命により日本の総人口は4割にまで低下し、各インフラ整備が壊れ、デジタルなどのテクノロジーは日本国内から消え去ったのである。
これにより日本は事実上の滅亡をした。
日本の文明は江戸時代後期から明治時代初期にまで後退し、日本各地で新たな政府が乱立し群雄割拠の戦乱の世が数百年ぶりに訪れた。
そして150年後、日本は7つの国に分かれた。
北星王国・奥羽共和国・天誠合衆国・東央連邦・京阪帝国・山道公国・伊予民国・九華連合国である。
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西暦2236年、北星王国・胆振郡。
胆振郡安平町に12歳の少年が、自分の家の畑を上半身裸で汗だくになりながら耕している。
畑といっても、そこまで大きいわけでは無いが全身を使って耕す為、とても疲れるのだ。
一通り耕し終わった少年は、タオルで汗を拭き取る。
すると後ろから「北翔」と呼ばれた。
「ん? どうかしたの、父さん」
「そろそろ修行の時間だぞ」
「あっ! もうそんな時間か」
北翔に声をかけたのは《桜田 与四郎》、北翔の父親である。
与四郎は北翔に修行の時間だと言いに来た。
畑を耕す事に集中しすぎて修行の時間を忘れていた。
農具をしまった北翔と与四郎は、自分たちで作った不恰好な木刀を握って迎え撃つ。
「もう……百姓の私たちが侍の真似事なんてして、どうなるのよ? ねぇ聞いてる?」
農民ながら侍の真似事をしている2人に、苦言を呈している女性がいる。
この《桜田 麻央》が北翔の母だ。
「そんなの関係ない! 日本時代が終わった時みたいに何があるかは分からないからな!」
「親父の言う通り! 俺たちは百姓でも、心の中は侍でいたいんだよ!」
麻央の苦言に、北翔と与四郎は侍は男のロマンであると言って聞く耳を持たない。
そんな2人に麻央は「はぁ……男って本当バカ」と言ってから家事に戻っていくのである。
見合っている北翔と与四郎は、互いに動き出すタイミングを見計らっている。
そして動くタイミングであると北翔は判断した。
地面が抉れるくらいに、地面を蹴って与四郎に向かって切り掛かっていくのである。
「どうした! いつもよりキレが悪いぞ!」
「くっそ! 親父がおかしいんだよ、あんだけ働いた後に、こんなに早く動けるなんて!」
北翔の攻撃を完璧に捌き切っている与四郎は、この時間の前に畑仕事を北翔の倍以上している。
それなのに、こんなにも動けるなんて普通じゃない。
北翔は、そう思っているのである。
化け物かと北翔は思っているが、与四郎は「わはははは!!!」と笑いながら防いでいる。
それだけじゃなく、攻撃に夢中になっている北翔の脇腹や足を狙ってカウンターを入れていく。
急所を突かれた北翔は、バタンッと地面に膝を着く。
「おいおい、アレだけ攻めばかりになるなって言っただろうがよ」
「うるせえ!」
肩に木刀をポンポンッと当てながら与四郎は、北翔の事を煽るように見下すのである。
イラッとした北翔は与四郎の脛目掛けて木刀を振る。
しかしジャンプをして北翔の攻撃を避けると、その勢いを使ったまま北翔の頭に面を打つ。
そのまま北翔は地面にうつ伏せになって気絶した。
この日の夜、北翔はプクッと頬を膨らませたまま晩御飯を口一杯に頬張っていた。
不貞腐れているのを見て与四郎は大笑いをする。
麻央は「はぁ……」と溜息を吐いて、何をやっているのかと呆れているのである。
「あんなこと侍がするか? やっぱり親父は百姓なんだわ!」
「はっはっはっ! 笑わせるなよ、侍こそ武士の情けでトドメを刺してやるんだよ」
「何が武士の情けだよ……明日は絶対に勝つ!」
「やれるもんならやってみろぉ〜」
北翔の百姓発言に、与四郎は舌を出しながら武士の情けだと言って笑い飛ばす。
全くもって武士の情けを納得できずに、明日こそ勝ってやると北翔は飯をかっ込む。
食事を終え歯を磨き、3人は床につく準備をする。
そんな時、外に何かが倒れるようなドサッという音が聞こえてくるのである。
何かと思って全員で外に出てみる。
するとそこにはボロボロな格好をして気を失っている少年が倒れていたのだ。
「お おい! だ 大丈夫か!」
「急いで家の中に運びましょ!」
与四郎は急いで駆け寄って生きているかを確かめる。
こんなところに寝かせておくわけにはいかないと、麻央は中に運ぼうと足の方を持つ。
2人がかりで部屋の中に運び入れた。
すると北翔は、ある事に気がついたのである。
「ね ねぇ……この服って、けっこう高そうだよ?」
「ん? 言われてみれば確かにな」
「もしかしたら偉い人なんじゃないの?」
倒れていた少年の身なりが、明らかに身分が高い人間の服装であると気がついたのだ。
与四郎と麻央も言われて気がついた。
もしかしたら偉い人なのかもしれないと、いきなり緊張感が走るのである。
しかしとりあえず命を助ける為に、急いで手当てをしたり体を洗ったりした。
「ふぅ……とりあえずコレで良いんじゃないか?」
「あとは目を覚まして貰って話を聞きましょ」
「そうだな、何があったのか聞かなきゃな」
一通りの手当てを終えた。
やっと落ち着けると座ったところで、家の扉がドンドンッと叩かれるのである。
ひと段落したのに、一体誰なのかと与四郎は立ち上がって「はいはーい、今出るぞぉ」と扉を開ける。
そこには、いきり立った近所の人たちがいた。
手には攻撃力の高そうな農具を持っている。
「ど どうしたんだ? 何かあったのか?」
「ここら辺に身なりの良いガキが来なかったか?」
「身なりの良いガキ? いやぁ……見てないけど、見つけたらどうするんだ?」
この近所の人たちは、きっとウチの家の前に倒れていた少年が目的だろうと察した。
その為、いないと言った上で見つけた場合についての質問を、恐る恐る問いかけてみる。
「そんなの決まってるじゃないか……服は高く売り払って、体の方は奴隷商にでも売ってやる!」
「おいおい……少年なんだろ? そんな事して恥ずかしくねぇのか?」
「恥ずかしいなんて言ってられるか! 俺たちは高い税金を持ってかれてんだ。これくらいしたってバチは当たらねぇだろ!」
この人たちは少年を金に変える気だと分かって、直ぐに愛想笑いを浮かべながら「それじゃあ……」と家の扉を閉めようとするのである。
しかしもう少しで閉まると言ったタイミングで、近所の人が扉の隙間に足を入れてきた。
この行為に与四郎は、全力の愛想笑いをしながら「これはどういうかな?」と聞く。
「何か怪しいからな、ちょっと中を改めさせてくれよ」
「はぁ? どうしてアンタらに、そんな事させなきゃいけねぇんだよ」
「近所の付き合いは、それくらい重要って事だ。何もやましい事が無いのなら改めさせろ!」
家の中を改めさせろと言ってきた。
もうさすがに誤魔化しきれないと与四郎は思った。
自分で扉を蹴って、足を挟んでいた男を吹き飛ばす。
そして玄関の近くに置いていた木刀を手に取って、外に出ると木刀を構えた。