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第三章 ハーモニカの沈黙と太陽の絵

段ボール箱の探索は、ノノにとって瞑想にも似た行為だった。指先がガラクタの海を泳ぎ、過去の残骸に触れるたび、能面の下で言葉にならない感覚が明滅する。今回、ノノの指が捉えたのは、冷たく硬い金属の感触だった。引き上げてみると、それは古びたハーモニカだった。銀色のカバーは所々錆びつき、吹き口には埃が詰まっている。


ノノはそれをそっと能面の口元に当てた。スー、ハー、と息を吸い、吐く。だが、ハーモニカは沈黙を守ったままだった。壊れているのか、あるいは元々音が出ない玩具なのか。どちらでもよかった。この「音の出ない楽器」という矛盾、その空虚さこそが、ノノのコレクションにふさわしい。沈黙は、時にどんな音楽よりも雄弁だ。ノノはハーモニカを唇から離し(能面の上で)、それを大切そうに両手で包んだ。


さて、この沈黙する音楽家は、棚のどこに住まわせるべきか。王のマスクの隣か? それとも雨待ち鳥たちの合唱に加えるか? ノノが棚全体を見渡し、最適な座標を探していた、まさにその時だった。


集積所の重い鉄の扉。その下の僅かな隙間から、白い紙片がスッと滑り込んできた。まるで意思を持っているかのように、それは床の上を数センチ進んで止まった。


ノノの全身が、再び硬直した。前回のノックとは違う。今回は、明確な「物」が境界線を越えて侵入してきた。外部からの、直接的なコンタクト。ノノは拾い上げるべきか迷った。これは「収集物」なのか? それとも排除すべき「異物」なのか?


好奇心、あるいは義務感が勝った。ノノはゆっくりと屈み、紙片を拾い上げた。それは画用紙のような厚手の紙で、片面にはクレヨンで描かれたような絵があった。歪んだ円から、不揃いな線が何本も放射状に伸びている。おそらく、太陽。稚拙で、不格好で、しかし妙に力強い、子供が描いたような太陽。裏には何も書かれていない。


誰が? 何のために? ノノは紙片を目の高さに掲げ、能面を傾けて観察する。この集積所の静寂と秩序を乱す、唐突なメッセージ。理解不能なノイズ。

しばらくの間、ノノはその太陽の絵を凝視していた。やがて、能面の下でため息をつくような微かな音がして、ノノはその紙をくしゃくしゃに丸めた。そして、まるで汚物でも扱うかのように、足元の段ボール箱の中に無造作に放り込んだ。ここは「忘れ物」の場所であり、「届け物」の場所ではない。


安堵の息をつこうとした瞬間、ノノはふと鼻腔をくすぐる異臭に気づいた。甘ったるく、それでいてどこか不快な匂い。発生源を探して視線を巡らせると、それは棚の二段目から漂ってきていた。バナナの皮だ。丁寧に並べられたコレクションの一部が、茶色く変色し、表面にはぬめりのようなものが浮き、小さな黒い羽虫が数匹たかっている。腐敗。完璧なはずのコレクションに生じた、避けられない「変化」。


ノノの肩が、かすかに震えた。秩序の崩壊。それは、ノノが最も恐れることの一つだった。変色した皮をつまみ上げ、捨てるべきか? いや、それではこの「変化」という現象そのものを否定することになる。


迷いの末、ノノは一つの決断をした。その黒ずんだバナナの皮を、先ほど見つけたハーモニカの隣――王のマスクが鎮座する一段目の隅――に、そっと置いた。沈黙する楽器と、腐りゆく果皮。それは新たな、奇妙な調和を生み出しているように見えた。


「変化もまた、収集の一部だ」

ノノは自分自身に言い聞かせるように呟いた。

「腐敗すら、この場所では価値を持つ」

そう呟きながらも、ノノの視線は(能面の下で)先ほど紙片が滑り込んできた扉の下の隙間に、何度も引き寄せられてしまうのだった。


集積所の静寂は、まだ保たれている。しかし、その完璧な均衡には、目に見えない亀裂が入り始めていた。外の世界は、ノノが望むと望まざるとにかかわらず、その存在を主張し始めている。ノノは、次に何が起こるのか、予感とも不安ともつかない奇妙な感覚にとらわれながら、ただ棚の上のコレクションを見つめていた。

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