第91話 ドワーフ工房到着
マリとアマンダはセヴンスに連れられドワーフ工房へと向かっていた。
「女王陛下、帝城内が騒がしくなってる。 多分、部屋に乗り込まれて居なくなってるのに気付かれてるね……それに、ん? いや、今は気にしてる場合じゃないな。 急ぎますよ!」
情報収集力に長けたセヴンスが廊下を走る兵士達の会話から状況を分析する。
「さすがねセヴンス。 でも、なるべく早めに降りてくれると嬉しいかなぁぁぁぁ!」
「た、高いです! 怖いですー!」
セヴンスの両肩から悲鳴が聞こえる。
そう、マリとアマンダはセヴンスの両肩に担がれ廊下の天井近くの壁を移動しているのだ。
近衛師団の兵士が着る鎧を外したセヴンスはメイド暗部部隊の装備である武装したメイド服姿で壁を駆ける。
信じられない事だが、マリはあり得ない程に筋肉が盛り上がったセヴンスの足を見て本当に支援要員なのかと疑った。
そして、セヴンスは目的地に到着すると同時にドワーフ工房の入口を見張っていた2人の兵士を着地する瞬間に蹴り殺す。
「着いたぜ! でも、此処も直ぐに兵士達が来るだろうね。 さっさと地下に向かうよ!」
ようやく下に降ろされたマリとアマンダは廊下にへたり込むが、そんな時間は無い。
「アマンダ、お願い。 ドワーフさん達に兵器や図面の処分をしてもらって、早急にね!」
「は、はい! 行きます!」
3人はドワーフ工房に入り驚くドワーフ達にアマンダが状況を説明した。
「なので、ルーフさん! す、直ぐに兵器と図面を処分して下さい!」
「ちょっと待ってておくれ! おい、あの糞ったれな兵器を壊せ! 図面も全部燃やしちまいな!!」
奴隷にされていたドワーフ達のリーダであるルーフの指示で100人のドワーフ達が一斉に工房を破壊しまくる。
見た目が少年少女のドワーフ達が大暴れしている光景は非常にシュールだ。
余程、造らされていた兵器が憎かったのだろう。
精霊を閉じ込めていた兵器は原型を留めない程にハンマーで粉々にされている。
「あれ……?」
その光景を見ていたマリが、工房内をキラキラとした光が飛んでいるのが見えた。
「ん? どうしました? マリ女王陛下」
「え? セヴンス、アレ見えないの?」
首を横に振るセヴンスを見てマリは首を捻る。
あんなにはっきり見える光の玉達が何故見えないのか疑問に思っていると、その様子を見ていたルーフがマリに近寄ってきた。
「馬鹿な……まさか、アンタ精霊が見えてるの!? 心が清く正しい者にしか見えないのに!!」
物凄く失礼な事を言うルーフにマリは苦笑いするが、光の玉の正体が分かり兵器に閉じ込められていた精霊なのだと理解した。
「い、いや……ルーフさん、流石に失礼過ぎ……あれ? 何か光が沢山飛んでません?」
話を全く聞いていなかったアマンダがルーフに注意しようとしたが、どうやら精霊がアマンダにも見えているようだ。
ルーフがアマンダなら当然だと褒めているのをジト目でマリは見ていたが、セヴンスが床に耳を付けた直後に拳を構えた事でドワーフ達に緊張が走る。
「不味いね。 流石に音を出しすぎたみたいですね女王陛下。 かなりの数の衛兵や近衛師団の兵士達が向かって来ています」
「ヤバいじゃん! ルーフさん、後どれぐらいで終わりそう?!」
「むぅ! まだ半分ぐらいだね! 急ぎなアンタ達!」
マリに話し掛けられたルーフは露骨に嫌な顔をしたが、直ぐに他のドワーフ達に急ぐ様に指示を飛ばす。
「セ、セヴンスさん! わ、私も戦います!」
アマンダが腰の直剣を抜き、セヴンスの隣に立った。
マリ達の耳にも届く程に鎧が擦れる音や足音がドワーフ工房に響き始めた。
「はんっ! こんなに楽しい仕事は久し振りだねぇ! アマンダ、元仲間だとしても絶対に手を抜くなよ? もし、突破されたら女王陛下は死ぬからね」
「と、当然です! 必ず陛下とルーフさん達を守ります!」
直後、鍵を閉めていた出入り口の扉は破られ大勢の兵士達が入って来た。
兵士達は殺気立ち、マリを憎々しげに睨んでいる。
ちょっと勝手に部屋から脱走しただけで、何故こんなに殺気立っているのか理解出来ずに居ると先頭の兵士達の発言で思い知る。
「居たぞ!! 貴様、良くも我等の女皇帝陛下を殺したな!」
「絶対に許せぬ! 即座に処刑せよとのアバン皇帝陛下からの勅命である! 観念せよ!!」
「「「「「うぉぉぉ! キャベル女皇帝陛下の仇を許すなぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
一斉に襲い掛かる兵士達にマリは叫んだ。
「何の話しぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」




