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第87話 進歩報告と推しの似顔絵

 静まり返った部屋で、マリは何か間違っただろうかと自問自答していた。


 (あれ? もしかして、これって……私また何かしちゃいました?ってやつかな?? ひくっ!)


 暫く停止していた2人の時が動き出した。


 「おほんっ! メリーとやら、先程は無礼が過ぎました。 申し訳ない。 では、私はこの追加分をキャベル女皇帝陛下にお届けしますので、これで失礼します。 どうぞ、ごゆるりとお過ごし下さい」


 「ひくっ、あ~……さっき飲みすぎたかな? あ! すみません、追加分よろしくお願いしまーす! この後は当分休みますからー!」


 意味深な皮肉を述べたのに、気付いてないとは思えないマリの振る舞いを見たブラックは苦笑いを浮かべ、部屋を退出した。


 メリーは終始無言でブラックを見送る。


 その顔は頭を下げている為に伺うことは出来なかった。


 「ふ~……ちょっと焦ったけど、何とか誤魔化せたね」


 マリが机に倒れると、メリーが羊皮紙の束をマリの目の前に置いた。


 「陛下、急がなければなりません。 この羊皮紙を確認して下さい」


 メリーがやっと喋ったかと思えば、直ぐ様仕事をしろとマリを急かせる。


 「えー? 色々あってもう今日は疲れたよ~。 ひくっ、酔も回ってきたし。 そんなに急いで確認しないとダメなのー?」


 「恐らく、リストの女貴族達を処刑した後……陛下が処刑されますよ?」


 「え?! 何で!?」


 マリは机から飛び起き、メリーを見る。


 「ルカの予想通りです。 無事に会談を処刑されずに生き延びても、理由はともかく陛下は何処かのタイミングで帝国にとって有益な利用方法として絶対に処刑されるだろうと」


 メリーはブラック宰相の言い回しや、雰囲気でマリの身の危険を感じ取っていた。


 「確か……長くても一月ぐらいって言ってたもんね。 え? じゃあ、急がないとヤバいじゃん! まだ伝令来てないんだよね!?」


 ようやく事態を把握したマリの酔いは吹き飛んだ。


 直ぐ様羊皮紙の束を確認していく。


 「ふんふん、カエサルに変装したサードのおかげで黒騎士団の皆は全員地下に送れたのね。 流石、仕事が皆早いね。 黒騎士団の家族も行方不明扱いで地下送り……え? 誰も捜索とかしないの? あ~……サードが近衛師団に命令してるから見つかる様な捜索してないのか」


 見終わった羊皮紙はメリーが処分する。


 万が一にも情報が漏れないようにだ。


 「お! 帝国周辺の村も殆どの懐柔済ね。 セカンドとフォースが手分けしてくれたのか……え? 全員でエントン王国に移住を決断!? 土地はあるから、何とかなるかー。 まぁ、手を出すって決めたんだから最後まで面倒見ないとね。 メリーさん、伝令来たらこの羊皮紙は渡して」


 「畏まりました」


 マリの全集中力を見ているメリーは内心でため息を吐く。


 (マリ陛下も大概優秀過ぎるんだけどね。 普段はアレですが……)


 脳内で酒瓶を抱きしめるマリを想像していると、マリにまた羊皮紙を渡される。


 「ドワーフさん達の逃走経路確保もOK、これはスィクススがしてくれたのね。 まぁ、本当に何処にでも紛れ込めそうだもんね。 それで~……クロモトの暗殺は? ん……? メリーさん、ファーストからの報告書読んだ?」


 「勿論です。 書いてある通り、件のクロモト フォル ナオトが閉じ籠もる兵器工房に潜入した結果……暗殺は不可能との事です。 正面切って無理矢理襲えば相討ち覚悟で殺せるそうですが……命じますか?」


 マリは苦虫を噛み潰したような顔で羊皮紙を睨む。


 ファーストの報告書を読む限り、既にクロモトは最悪な兵器にまで着手していた。


 「自動で動く武装した人形が複数警備している……か。 それも、これ読む限りキャベル女皇帝には隠してるんだよね?」


 「ええ、兵器工房自体の部屋には楽に侵入出来たそうですが巧妙に隠された隠し部屋からの警備は異常らしいです。この目で見てないので何とも言えませんが……その人形1体を倒すのにも死の覚悟が必要そうですね」


 「ん~……メリーさんに行かせるのも危険だし、ファーストを死なせるのも嫌だな。 引き続き、警戒と監視させて。もし、出てきたら即座に殺そう。 もうすぐ私を処刑しようとしてるんだもん。 遠慮はもうしなくていいよ」


 「心遣い、上司として感謝申し上げます。 ではその様に」


 全ての羊皮紙を片付けたマリは思案する。


 (やっぱりおかしい。 未来を変えれるのは私だけだとエナさんもティナも言っていた。 なのに、自動で動く兵器何ていう異物を乙女小説の世界にクロモトは持ち込んだ。 私だけっていうのが本当は違う? いや、恐らくこの世界に入って来た者が物語に干渉出来るんだ。 それも、クロモトは私がこの世界のマリになるずっと前から来ていた……ん~考えれば考える程に気持ち悪い)


 マリは誰にも相談出来ない悩みに神経をすり減らす。


 そんなマリにメリーがご褒美を目の前に置いた。


 「陛下、大変頑張りました。 どうぞ、これがテンスより出された報告書に挟んであったルーデウス殿下の似顔絵です」


 「えっ?! まっ!? やった! おぉぉー! ルーたんが私の服着て……がはっ! か、可愛い過ぎる……幸せ……」


 すり減らした神経はルーデウスの女装姿の似顔絵で一瞬で回復するのであった。


 (これは……やはり、ルカからの婚姻同盟の件は陛下に伏せておいて正解でしたね)


 無事にエントン王国に帰還した際、血の雨が降る予想にメリーは身震いした。

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