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第86話 女王の嫉妬

 「ふむふむ、ふ~ん。 そっかそっか、ルーたんがエントン王国の皆を守る為に私に女装したと。 しかも、メイド達や女貴族達からも評判がすこぶる良かったと。 へー、ソウナンダ~」 


 マリの顔が嫉妬や恨みつらみで般若になる中、3人セットのエイトス、ナインス、テンスは必死に言い訳を始めた。


 「陛下、顔が顔が怖いです!」 「いやいやいや、私はちゃんとメリー隊長に報告書出してましたよ?!」 「そうですそうです! 悪いのはメリー隊長です! 何なら私、似顔絵付きで報告書出しましたし!」


 3人メイド達の言い訳で矛先がメリーに向いた。 


 「メリーさーん? メェェェェリィィィィさぁぁぁぁん? どうゆうことかなぁぁぁ?! 敵か? 私の推しに対する愛の敵なのか? あぁぁぁぁぁん?!」


 般若がメリーに歩み寄る。 メリーはたじろぎ、必死に弁明する。


 「すみませんすみませんすみませんすみません! だって、陛下が大変な時にこんな巫山戯た報告書をお見せ出来なかったんですもん!」


 しかし、結果は火に油を注ぐ事になりマリの顔は遂に修羅となった。


 「もんじゃなぁぁぁぁい! それに、私のルーたんの何処が巫山戯ただぁぁぁ!」


 その様子を戦闘員の5人は笑い、支援要員の5人はあたふたと慌てていた。


 すると扉が叩かれ、部屋は静寂に包まれた。


 「あ、あの陛下。 お忙しい所すみません。 ブラック宰相様がお見えになっておりますが……」


 アマンダの声にマリは焦り、直ぐにメイド暗部部隊の皆に隠れる様に言おうと振り向くが既に誰も居なくなっていた。


 扉が叩かれてから数十秒経たぬ内に、音もなく10人全員が消えたのだ。


 「……メリーさん、本当に皆含めて何者なの?」


 絞り出したマリの問いにメリーは何時もの返答をする。


 「メイドの嗜みでございます」


 (いや、絶対に嘘だよね)


 マリはメリーに言いたい事を呑み込み、姿勢を正してからアマンダに指示をした。


 「おほん! アマンダ、大丈夫よ。 入って頂いて」


 返答を聞いたアマンダが扉を開け、猛禽類の様な目をした老人ブラック宰相が入室してきた。


 「取込み中失礼する、エントン王国の女王陛下。 おっと、失礼した。 元女王陛下のマリ特別改革大臣殿」


 嫌味たっぷりの挨拶にマリは苦笑いで答える。


 「ご機嫌よう、ブラック宰相殿。 もしや、今日提出させて頂いたリストの事で来られたのですか?」


 「ふっ、流石聡明であらせられるマリ特別改革大臣殿ですな。 そうです。 先程、キャベル女皇帝陛下より提出されたリストに従い処刑を命じられました。 このゴルメディア帝国を良くして下さる事に御礼を言いに来ました」


 ブラック宰相は喋りながらも、マリではなくメリーを見つめていた。


 「ですが……それより気になる事がございましてね。 この一月近く、貴女は部屋から殆ど出てない筈。 あの報告書に書かれた情報はどうやって知り得たのですかな?」


 (訳わからん程に優秀なメイド暗部部隊です。 とは、言えないしなぁ)


 マリは内心で呟きながら、前もってメリーと打ち合わせをした解答を答える。


 「実は、私が共として連れて来たメイド長メリーは大変な働き者でして。 私がお願いした事は何でも調べてくれるんです。 何分、優秀なメリーは1人ですからリストを作るのに時間が掛かったことはご容赦下さい。 あ! これ、さっき出来たばかりの追加分です」


 ペラペラと前もって覚えた言い訳を話し、次いでに追加の羊皮紙をブラックの前に置いた。


 名前を出されたメリーは黙ってお辞儀をしている。


 「ほぉ……素晴らしいメイドをお持ちのようで羨ましい限りですな。 本当に優秀な者のようだ。 まるで……100年以上前から働き続けているかのようですなぁ」


 ブラックが猛禽類の様な目を細め、笑いながらメリーを見る。


 マリはブラックの話しを理解出来ていなかった。

 皮肉なのか、侮辱なのか、全く意味不明だ。


 マリはメリーの方をチラリと見ると、凄まじい殺気をブラックに放っていた。


 どうやら、ブラック宰相はメリーの地雷を踏んだらしいとマリはフォローに周る。


 だが、残念な事にマリは忘れていた。   


 既に、しこたま鬼殺しを飲み酔っていた事を。


 「あら、ブラック宰相殿。 女性に対する物言いとして失礼では無いですか? 私のメリーを見て下さい! こんなに実った果実をぶら下げておいて100年以上前からメイドしてるとかふさげんなって話しじゃないですか! 今でも目がいくたびにふさげんなって思ってるんですから! ふさげんな!」


 何故か途中からブチギレているマリを、殺気を引っ込めたメリーと猛禽類の様な目が点になったブラックがコイツは何を言っているんだと云う顔で見ていた。

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