第83話 小国連合同盟結成
「ルル殿!? まさか、本当に森から出て来られたのですか!?」
立ち上がったウッド王国の女王にエルフ族の族長ルルは頬を膨らませた。
「何じゃその言い方は! エルフは森から出るなと申すか!? 少し前まで、このエントン王国には奴隷にされたエルフ達が居ったのだぞ? 別に不思議でも無かろう」
「いえいえ! 私がウッド王国にお誘いしても決して森から出ようとしませんでしたのに! まさか、エントン王国に弱味を握られているのですか?!」
ウッド王国の女王はルーデウスとルカを睨むが、2人は首を横に振るばかりだ。
「これこれ、落ち着け森の民の女王よ。 確かに、前は森から出るつもりはなかった。 しかし、義理の妹が助けを求めるならば答えるのが当然ではないかの?」
ルルの言葉に後方で待機していたヨハネの耳が赤くなり、同じくルルの後方に居るジャックは額に青筋を浮かべていた。
「義理の……妹? まさか、ゴルメディア帝国に王族調停の人質として行ったエントン フォル マリ女王陛下が!?」
「うむ、信じられないとは思うが長年行方不明だった弟がふらりと戻って来たあげく、このエントン王国の女王と恋仲での。 朴念仁だった可愛い弟に出来た恋人だ、ひと肌脱がんとな」
腰に手を当て笑うルルを見てウッド王国の女王は目眩を起こし、他の女王や代理国王は冷静沈着なウッド王国の女王が戸惑うのを面白そうに見ていた。
「さて、ウッド王国の女王陛下。 私の話しは信じて頂けましたでしょうか」
「は、はい……信じますわ」
ルカの駄目押しに、遂にウッド王国の女王も小国連合同盟に同意したのであった。
こうしてゴルメディア帝国からエントン王国、キャット王国、ドック王国を守る為の防衛網が完成した。 マリ達の救出作戦でどんなに怒り狂っても簡単にゴルメディア帝国が兵を出せなくなるだろう。
大国と云えど、小国すべてを敵に回すのだから。
「ありがとうございます、これにて小国連合同盟を結成した事を宣言致します。 では足早ではございますが今後の流れをご説明しますね。 まず、現在ゴルメディア帝国は私が報告させた嘘の勝利を信じております。 故に、エントン王国は滅び民達を奴隷にしている真っ最中だと信じ切っているでしょう。 その油断している間に精鋭部隊で救出します」
ルカが最後の大詰めの話を始め、皆様一様に食い入るように聞いていたがレオン王国の女王だけはうんざりした顔で聞いていた。
「既に我がエントン王国の秘密部隊がゴルメディア帝国に侵入、マリ女王陛下の警護と精鋭部隊が突入する際の手引を行う予定です。 タイムリミットは……恐らく長くて1ヶ月でしょう。 嘘の報告がバレるか、帝国の利益の為に利用されるか、どんな扱いを受けたとしても……最後には必ずキャベル女皇帝はマリ女王陛下を処刑するでしょう」
ルカの断言に、ウルフ王国の代理国王は思わず口出しをする。
「ちょっと待ってくれ、何故……そんなに断言ができるのだ?」
ルカは薄く笑い、答えた。
「私がキャベル女皇帝なら、ゴルメディア帝国の利益を優先させ必ず処刑を選択するからです。 帝国の女貴族へのパフォーマンスか、民達の不満解消か、とても悪い言い方をしますと……マリ女王陛下の存在はとても便利なのですよ」
自らが仕える女王の事をはっきりと便利だと断言するルカに、女王達は背中に冷たいものを感じていた。
「へぇ、やっぱり面白いな。 神童だっけか? ルニア侯爵の息子なだけあるな」
唯一、ウルフ王国の女王だけはルカの聡明さに笑っていた。
◆◇◆
無事に会議は終わり、各小国の女王達と代理国王が連れて来た護衛の兵たちと共に帰っていくのをルカ達は見送っていた。
「何とかなりましたね、ルカ大臣」
ルーデウスの言葉にルカは笑う。
「大変なのはこれからでございますよ、陛下」
「うん、そうだね。 亜人族達との話し合いも早くしないと」
ルーデウスが握る手に力を込め、遙か先のゴルメディア帝国側を見つめる。
「必ず助け出します姉上。 どうか、どうかそれまでご無事で……!!」
ルーデウスの呟きを聞いて、神童ルカは動き出す。
生還率がほぼ0だと聞いてもエントン王国とルーデウスが守れるならそれでいいと、笑っていた女王を救い出す為に。




