第73話 代理国王ルーデウスと2人の王女
マリが辛口の酒を飲みながらカステラを嗜んでいる頃、エントン王国では民も兵士も城壁や街の復興に務めていた。
「そっちを片付けろ! 急げ、もうすぐ到着されるぞ!」
激しい戦争が終わった後のエントン王国は城壁も街もボロボロだ。 以前の美しい王国は見る影もない。
「おい、ドック王国の兵士! その瓦礫は其処じゃないだろ!」
エントン王国の兵士達が、生き残ったキャット王国とドック王国の兵士達と共に城壁の瓦礫を片付けている。
多くの兵士達が国を関係無く瓦礫を懸命に城壁の外へと運搬していた。
もし、キャット王国やドック王国の兵士達に今襲われたら今度こそエントン王国は終わりだろうがそんな事は絶対にあり得なかった。
「ん?! 大丈夫か! 誰か、医者を呼べ!」
1人のドック王国の兵士が疲労からか、地面に倒れた。
敗戦国の兵士等、奴隷と同じ扱いを受ける筈だがエントン王国の兵士は味方のように接していた。
その光景を見ていたエントン王国の民からも悪感情は少なかった。
何故、絶対にあり得ないか。
それは、ルーデウスの判断によるものだった。
◆◇◆
「すみません、この書類を直ぐに商業地区のメル伯爵にお願いします!」
ルーデウスは王城の執務室で忙しなく働いていた。
急ぎ目を通した書類に代理国王の印鑑を押し、待機していた伝令に渡す。
戦後の復興は山積みであり、更には今日中に他国の女王達や王が来る予定なのだ。
激しい戦闘があったのだ、完全には修復は難しいが少しでも見栄えを良くするためにこの数日不眠不休でルーデウスは執務にあたっていた。
「代理国王陛下! ルカ大臣より伝達です!! 大広間の準備は完了したが、姫様達の気分が優れてないようだ。 執務が一段落したら向かうように、との事です!」
「ありがとう、直ぐに向かうよ。 ウォンバット、居るかい?」
「はっ! 此処に」
執務室の扉が開き、包帯だらけの執事長ウォンバットが現れた。
ルーデウスは席から立ち上がり、ウォンバットを連れて執務室を退出する。
「これからキャミ王女とドーラ王女の部屋に行く。 彼女らの好物を準備しておいて」
「直ぐに準備して部屋に運ばせましょう」
「頼む、あ! ウォンバット、身体の火傷がまだ完治してないんだ。 無理しないでね」
先の戦争を乗り切ったルーデウスは以前とは比べ物にならない程に成長を見せていたが、まだ時折見せる優しい少年の面影に思わずウォンバットは微笑む。
「ご心配ありがとうございます、ルーデウス国王陛下」
「もう! 姉上が戻るまでだけなんだから、その呼び方は止めてってば!」
ウォンバットが笑いながら立ち去り、廊下を進むと会う兵士皆がルーデウスに敬礼していた。
ルーデウスは最後まで反対したが、大臣を任命されたルカに他国と渡り合うのに仮の代理国王では示しがつかないと指摘され、嫌嫌ながらも正式な代理国王に就任したのだ。
あくまでも、マリが帰還する迄の条件ではあるがこの世界での代理国王とは女王を亡くした夫である権限無き国王が国の実権を握る事を意味する。
民や兵士達の中では賛成する者が多く、反対した者は極少数だった。
今回の功労を評価し、ルカ大臣の薦めで奨爵されたメル伯爵とイサミ伯爵も賛成に周り他の子爵になった女貴族達からも反対の声は上がらなかった。
(このエントン王国の女王は姉上なのに、姉上がゴルメディア帝国の人質になったからギリギリの所で勝てたのに。 いや、ダメだ! 姉上が帰ってくるまで、僕がエントン王国を守るんだ!)
考え事をしていたルーデウスは、何時の間にか2人の王女が居る部屋に着いていた。
「ふぅ……。 私だ、ルーデウスだ。 失礼するよ」
代理国王の正装を正したルーデウスが部屋をノックし、入室した。
「これは、ルーデウス代理国王。 来てくれたか、良かった私ではダメなんだ」
部屋には困った顔のルニア侯爵が待っていた。
辺境伯から侯爵に奨爵したルニアは以前と変わらずに鎧姿で腰には剣を携えている。
「ル、ルーデウス様! 妾に会いに来てくれたのか?! 嬉しいのですじゃ~」
「……ルーデウス、ごめんなさい。 私は止めたのだけど」
ルニア侯爵の背後には、震えながらもルーデウスを見た途端に太陽の様に笑う茶髪の少女キャミ王女と、それを嗜める灰色の髪を長く伸ばした冷静沈着な少女ドーラが待っていた。




