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第71話 面倒事

 「こんな無礼を働いた後ですまないが……実は頼みたい事があるのだ」


 キャベルが頭を上げた時には、マリの表情は何時もの笑顔に戻っていた。   


 「キャベル女皇帝陛下にはお世話になりますから、出来る限りの事はします。 どんな事でしょうか」


 マリは内心で面倒臭いと思いつつも笑顔で答える。  


 「そうか! それは助かる!! 実はな……事情は話せないのだが、我がゴルメディア帝国には裏切り者が居るようなのだ」


 キャベルは拳を握りしめながら話す。


 恐らく昨晩死んだデラン一家の件だろう。


 「裏切り者……ですか?」


 「あぁ、それが女貴族達なのか将兵達なのか不明だが。 我が信頼する者を嵌めた容疑が掛かっている。 今すぐにでも我自ら調べ、裏切り者を処刑してやりたいがそれをすれば無実の者から反感を買うのだ。 他の帝国の者に任せるのも同様だ」


 キャベルの言葉に既に青ざめて震えている人物が横に座っているのだが、マリは気づかないフリをする。


 「分かりました。 帰る王国無き私を帝国に置いて下さるのです。 精一杯の努力は致しましょう……ですが、私には何の権限もございません。 お力になれるかどうか……」


 やんわりと無理ですとマリは答えたつもりだが、その言葉にキャベルは目を輝かせた。


 「任せろ! ブラック宰相に裏切り者の捜索を頼んだら、マリが最適だと言ってな! 特別改革大臣という職を徹夜で設立してくれたのだ。 他の女貴族達や将兵達からは、凄まじく嫌な顔はされたがな! これで、マリが言っていたゴミの様な我が帝国の大掃除が出来るぞ? 裏切り者の件以外でも、不正の証拠を掴んだら言ってくれ。 すぐに処刑してやる! ふはははははは!」


 マリは心中で愚痴を浮かべながら笑顔で答えた。


 「クソ面倒臭いですね」


 (精一杯頑張りますね)


 「うむうむ! そして、特別改革大臣となった者が牢屋で過ごすのは外聞が宜しくないからな。 昨日も言った筈だが、部屋を与えるから荷物をまとめ次第移動してくれ! 重ねて言うが裏切り者の捜索の件、頼むぞ!」


 建前と本音が逆になった事にマリは焦ったが、キャベルは気付かなかった様だ。


 ホッとひと息ついて、メイド長にお水を貰おうと見上げるとファーストはまたも信じられないモノを見るような目でマリを見ていた。 


 「……てへっ☆」


 後でファーストから報告を聞いたメリーからのお説教が確定したマリは、急いで戯けて誤魔化そうとしたが無理だった。



 ◆◇◆


 ーーー建前と本音が逆になるってどうやったらそうなるんですか?! そもそも、陛下はこの計画が失敗すればどうなるか……って、陛下!! 聞いているのですか!?」


 最悪な朝食会からやっと馴れた牢屋に戻ってきたマリは、早速報告を聞いたメリーからお説教されている真っ最中であった。


 「聞いてるよ~? はぁ……ねぇ、メリーさん。 メイド暗部部隊の皆ってこんなに真面目なの? 一言一句、会話を記憶して報告するってやばくない?」


 「因みに……後で羊皮紙に纏めての書類提出もありますよ?」

 

 ファーストの言葉にマリはドン引きする。 


 「メリーさん……流石に部下に無理させすぎじゃない?」


 「いえいえ、少ないですよ? 私が陛下にエントン王国の改革処理を命じられた時の半分の仕事量ですから」


 悪意なく微笑むメリーを見てマリは深く頭を下げた。


 「いつも助かってます、本当にありがとうございます」


 テーブルに頭を打ち付けるマリを見てメリーは笑った。


 「ふふ、冗談ですよ。 ともかく、結果は上々ですからお説教はこのぐらいにしましょう。 前にアマンダが持ってきてくれたのと同じカステラが手に入ったのですがお食べになりますか?」


 何処から出した不明のカステラを手刀で切り分け、マリの前に出す。


 「食べるー! 因みに……お酒は?」


 「甘いお菓子ですので、辛口のお酒を用意しております」


 言い終わる前に、酒を注ぐメリーを見てマリはファーストにドヤ顔をする。


 「心が通じ合ってる証拠だね~。 メリーさんは言ったら直ぐにお酒くれるのにファーストは出してくれなかったんだよね~」


 ファーストはマリを信じられないモノを見るような目で見つめ。


 「いえ、私もその場に居たら流石にお酒出しませんよ?」


 メリーにダメ出しをされたマリは、メリーを信じられないモノを見るような目で見ていた。

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