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第64話 勝利確定フラグ

 大広間には多くのテーブルとご馳走が並び、メイド達が所狭しに様々な酒瓶を並べていた。


 最高級赤ワインを遠慮なくグラスに注ぐのを、給仕していたメイドは顔を引き攣らせながら見ていた。

 

 「ふ~ん♪ ふふ~ん♪」


 上機嫌でワイングラスに並々ワインを注いでいるのは当然マリである。


 「本当にお前酒飲みなんだね。 はっはっはっ! おい、お前達も酒は持ったな! ん? おい、デランと黒騎士団の兵士達は何故グラスを持ってない!」


 黒騎士団団長デランと兵士達はメイドからの酒を断り、大広間の警備にあたっていた。


 「はっ! 恐れながら申し上げます。 城を守るべき近衛師団達が酒を飲むのであれば、我等が警備すべきと存じます」


 デランの小言にキャベルは苦笑いで応えた。


 「全くお前は……。 大儀である、好きにせよ」


 笑うキャベルと畏まるデランを、近衛師団の兵士達やカエサルはワイングラス片手に苦々しく見ていた。


 (ほーん、やっぱりデランさんは女皇帝陛下からの信頼が厚いのか。 じゃあ、夜にデランさんを暗殺しようとするのはカエサルの独断かな? んー、でもデランさんを襲った近衛師団の兵士は勅命とか何とかって言ってたしな)


 マリが真剣な顔で考え込んでいる間にも、手と口が勝手にワインを飲み干してしまう。


 「ありゃ、もう空になっちゃった。 メイドさーん! おかわりー!」


 まだ乾杯の挨拶もしていないのに、お代わりを要求するマリの姿にキャベルも流石に苦笑いだ。 


 「マリよ、乾杯の挨拶が終わるまでせめて待っててくれないか?」


 キャベルの小言にマリが女王らしく真面目顔で頷くが、喋らずに頷くのは当然2杯目を飲み干している真っ最中だからだ。


 大広間で女皇帝陛下の挨拶を待っていた女貴族達と将兵達はマリの奇行に馴れないのか憤慨したり侮蔑したりと忙しい。


 「ふはははは! 皆の者聞け! この度の戦も我等ゴルメディア帝国の勝利だ! 飲め! 食え! この勝利を共に我と祝おうぞー!」


 キャベルがグラスを高く掲げ、挨拶を終えると大広間に居た全員がグラスを掲げた。


 「「「「ゴルメディア帝国の勝利にー!」」」」


 大広間は勝利の熱気に溢れ、皆一様に哀れな亡国の女王が萎縮する様を見ようと視線をやる。


 「勝利にー! おいひぃー!」


 自国を滅ぼした戦勝祝いで高らかにグラスを掲げるマリの姿があった。


 ◆◇◆


 戦勝祝いが始まり数時間、既に時刻は夕方が近付き他の参加者達も酔いが回る頃だ。


 「んー! キャベル女皇帝陛下、ゴルメディア帝国のお酒って美味しいですねー」


 既に何十杯もワインを飲んだマリだが、酔った素振りは無く。 まるで水でも飲んでるかのように、メイドにお代わりを要求していた。


 「ふはははは! 我の帝国の酒職人達も其処まで美味そうに飲んでもらえたら本望であろう!」


 キャベルは酔いが回っているのか、顔を赤くしマリに負けじとワインを飲む。


 「あれ? そういえば、喋り方とか諸々変わってませんか~?」


 少しほろ酔いになってきたマリが頭を左右に揺らしながらキャベルに問う。


 「む……気付かれたか。 実は、この喋り方が素なのだ。 先々代の女皇帝に憧れてな。 幼少の頃から祖母を真似ていたら、この喋り方になっていた。 ふははははは! おっとと……流石に飲み過ぎか?」


 「ふふ、可愛い所があるんですね~ひくっ、女皇帝陛下は~」


 意外な一面を見たマリは思わず微笑んでしまう。

 勿論、エントン王国を攻めさせエナを投獄した事を許すつもりは無く。 あくまでも、ルカの計画を完遂させる為に友好的に接しているだけだ。


 しかし、何処か憎めないキャベルの性格にマリの心は揺れた。


 それを誤魔化す様にマリはワインを飲み干す。


 「可愛い……か。 ふははは! まさか、こんな小娘に言われるとはな。 なぁ、マリよ。 我の事はキャベルで良い……我に仕えぬか」


 酔ったキャベルの言葉に離れて見ていたカエサルが止めに入る。


 「女皇帝陛下、恐れながら……滅ぼした亡国の女王を配下に加えるなど……! 更に、呼び捨てにさせるなど言語道断ですよ!」


 カエサルの苦言は最もであり、他の参加者達も頷いていた。


 正直な所、こんな奇行に走る女王を同僚に迎えたい者など皆無だろう。


 当然、マリにもそのつもりは無い。


 「キャベル女皇帝陛下、お心遣い本当に嬉しいです。 ですが、申し訳ございません……亡き王国の皆を思うとそればかりは」


 女王モードのマリに諭されたキャベルはため息を吐き、手を叩いてメイドを呼んだ。


 「ふはははは! そうか、そうよな! では……最後の勝負といこうか! おい、ドワーフ達が作った例の酒を持って来い!」


 キャベルの言葉に参加者達はどよめく。

 皆口々にあれは毒だの、人が飲める物では無いだの、大騒ぎだ。


 マリだけは満面の笑みだったが。

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