第59話 裏切り者デランの最後
街灯の明かりが照らす小道を、血だらけのデランが体を引きずる様に歩いていた。
「ちっ……流石に血を流しすぎたな」
脇腹を抑えると、裂けた鎧から血が止め処無く溢れる。常人なら既に死んでいる程の出血量だ。
「まだだ、まだ死ぬわけにはいかない……2人を逃さなければ」
既に自身の死を悟ったデランは、最愛の妻と息子を逃がすために最後の力を振り絞り自宅へと向かう。
自宅がようやく見え時……デランは目を見開いた。
玄関の扉が無残に壊されているのが見えたデランは走る。 血が吹き出ようと関係無く。
「ユリ! ソウタ!! 何処だ、何処に居る!!」
家の中は薄暗く、灯されていた筈の明かりは消えていた。
それでもデランは最強の黒騎士団団長だ。
僅かに人の気配を察知し、直ぐにそれが妻と息子では無い事を知る。
「裏切り者デラン……遅かったな」
奥の部屋から現れたのは豪華な白い鎧を身に纏った男だ。
フルフェイスの兜を取ると、僅かな光に当たった長い金髪がキラキラと輝いている。 その顔は非常に美男子だった。
「近衛師団団長……カエサル! 貴様、私の妻と息子に何をした!!」
カエサルの持つ剣が血糊で紅く染まっているのを見て、デランは叫ぶ。
「くっくっくっ……何をした、か。 裏切り者の家族だぞ? 当然、処するに決まっているだろう?」
嫌な笑みを浮かべたカエサルの後ろに何かを守る様に覆いかぶさったまま動かないユリの姿が見えた。
「貴様! 貴様ぁぁぁぁぁ!!」
大斧は先の戦闘で既に無く、デランは全身から血を吹き出しながら素手で殴りかかった。
「くはははは! そんな攻撃が当たるわけ無いだろ? この近衛師団団長カエサル様に! さぁ、死ね! ずっとお前が目障りだったんだよ!」
拳を避けざまに、カエサルは持つ剣でデランの背中を斬り裂いた。
「ぐぁぁぁっ!! あぁぁ……ユリ、ソウタ!」
致命傷を増やしたカエサルはデランの死を確信し、剣を腰にしまった。
「さて、私は正義の騎士なのでな。 これ以上の弱いものイジメは私の品格に関る。 さらばだ、裏切り者よ」
「はぁ、はぁ、はぁ、カエサル! わ、私の部下が必ず貴様の行いを暴き、貴様の首を落とすだろう! 覚悟しておけ!!」
デランの言葉にカエサルは嫌な笑みを返す。
「すまないが、デラン。 それはあり得ないんだよ……何故なら貴様の部下達は全員始末する予定だからなぁ。 貴様を失った黒騎士団は弱り、衰退の一途を辿るだろう。 そして、少しづつ事故死や戦死で数を減らした黒騎士団は終わるんだよ! くはははは!」
デランの絶望の表情を見たカエサルは、高笑いしながら家を出ていった。
残されたのは瀕死のデランと2人の遺体だ。
「がぁっ! はぁ、はぁ、はぁ……ユリ、ソウタっ!」
もう立てない身体を引きずり、最愛の2人の元へデランは這いずった。
ユリの身体は既に冷たく、全身斬られ刺されていた。 息子のソウタを必死に守ろうとしたのだろう。
「ユリ、ユリ! そんな、そんな! くそ、くそっ! くそっ!! ぐぁぁぁぁぁ!!」
ユリの身体を横にずらすと、ソウタが短剣を手にしたまま死んでいた。
ユリと違って1度深く斬られた事が死因だ。
デランはソウタを抱きしめた。
「ぐっ、ソウタ……お前、母さんを守ろうとしたのか。 さ、流石私の息子だ。 がはっ……お前は私の誇りだ。 自慢の息子だよ……ごめんなぁ、守ってやれなくてごめんなぁ」
デランの頬から血と涙が流れる。
そして、悲しみと怒りが溢れデランは叫ぶ。
「カエサル! 必ず、必ず貴様の思い通りにはいかんぞ! お前達が邪険にしたマリ女王陛下がこの帝国に大きな変化をもたらすだろう! その時には後悔するがいい!! 先に地獄で待っているからなぁぁぁぁぁ!」
カエサルに届くかどうかも知らぬ言葉を残したデランは、妻と息子を抱きしめたまま絶命した。
◆◇◆
映像が消え、窓から離れたマリを妖精ティナが心配そうに見る。
『ねぇ、マリ大丈夫……? ひっ!?』
世界で唯一無二の存在であり、この世界の管理者と云えるティナがマリを見て怯えた。
「この映像は今日の会談があった夜ね。 うんうん、そっかそっか。 デランさんが私を庇った結果、こんな糞ったれな目にあうんだね。 うん、決めたよティナ。 この腐った帝国ぐちゃぐちゃにして、あのカエサルとか云うゴミは必ず殺してやる。 デランさんも、ユリさんも、ソウタくんも黒騎士団の皆も誰も死なせない!!」
目が強く光り、鬼の形相で立つマリにティナは涙目でひたすら首を縦に振っていた。




