第57話 初めての未来予知
騒がしい夜が明け、会談を行う日の朝が来た。
「おはようメリーさん、アマンダ」
豪華なベットから下りたマリは、メイド長メリーと朝から口いっぱいにサンドイッチを頬張る新しい部下アマンダに挨拶をする。
「おはようございます陛下」
「お、おむよむごむむすす!」
アマンダが口を抑えながら必死に挨拶をするのが何とも可笑しいが、いつも厳しいメリーは注意をしなかった。
昨晩の功労者であるアマンダへの労いなのだろう。
マリの席にはサンドイッチが1つだけなのに対し、アマンダの皿には山のように積まれていた。
「あはは、アマンダは朝から凄いねえ~」
「既に7つは食べた筈なのですが、まだまだ食べそうですね。 それはそうと……エントン王国からの報告が来ましたよ」
マリは席につき、サンドイッチを頬張りながら渡された手紙を読む。 メリーの肩に乗った雀を見るに、伝書鳩ならぬ伝書雀が来たことが分かった。
「ふんふん……予定通りに進んだみたいだね。 ルーたんも、皆も無事か~良かったぁぁー! あれ? ってことは、今日の会談で色々言われる訳か……やだなぁ」
マリは手紙を読み終えてげんなりする。
エントン王国の皆が無事に勝利したのは嬉しいが、ルカの計画通りなら今日の会談はとても精神衛生上宜しくない事だろう。
「不確定要素は残りますが、概ね順調ですね。 この手紙をチュン丸に届けさせた私のメイド暗部部隊達も無事に帝国へと潜入できました」
「おー! あのファーストさん達がもう来てるんだ。 凄いね、本当に1人であの無茶苦茶な任務を達成したなんて」
「ふふ、私の自慢の部下ですから」
そんな会話をアマンダは不思議そうに聞いているが、意識は直ぐに絶品なサンドイッチへと向けられた。
◆◇◆
朝食を終え、会談までの身支度をしていた時だ。
着替え終えたマリにメリーが突然大きな声をだした。
「陛下!? 目が光っーーーーー
メリーの言葉を聞き終える前にマリの視界は真っ白になり、次の瞬間には見知らぬ白い部屋に1人立っていた。
「え!? メリーさん? アマンダ? ここは……どこ?」
周囲を見渡すが真っ白な四角い部屋としか分からない。
マリが困惑していると、天井辺から声がした。
『ここは未来予知の部屋だよ。 本当は此処にマリを連れて来るつもりは無かったんだけどね』
この世界唯一無二の存在、精霊のティナがひらりとマリの目の前に降りてきた。
「ティナ! え? 連れて来るつもりが無かったのなら……何故に?」
『うっさいわね! ご褒美よ!ご褒美!!』
マリはティナの返答を聞いてますます分からない。
「えぇ……? 私、ティナからご褒美貰える様な事した?」
『したわよ!! あたい、ずっと見てたんだからね。 そしたら、あたいが気に掛けてた人間族の女を味方にし更にはドワーフ達も説得したじゃない』
マリがそれの何処がご褒美に繋がるのか分からず首を傾げていると、ティナがキレた。
『もぉぉ!いいからこっちに来なさい! まだその目に慣れてないマリは好きに未来を見れないの! だからあたいの力で此処に呼び出してる。 その力も長くは持たないの。 だから……選びなさい! どの未来を見るか!』
ティナが部屋の壁に手をつくと、窓の様な四角いガラスが大量に出現した。
「え……すっごい。 これ、全部未来なの?」
様々なガラスには、誰かの未来が映っていた。
それこそ、会った事の無い人達の映像が大量に流れている。
正直、いきなりこの中から選べと言われても無理な話しだ。
『マリもエナぐらい未来読みが上手くなれば、必要な窓を選べるようになるわよ? でも、今回はあたいが絞ってあげる。 マリに縁が有る窓だけを出すわね』
ティナが手を横に振ると窓が一斉に動き、マリの目の前に3枚の窓が現れた。
「おー……本当に凄いね。どれどれ……あ! ルーたんだ!!」
1枚目の窓には鎧を身に纏った立派なルーデウスの姿があった。
久し振りに見た最愛の推しにマリは歓喜の涙を流す。
「次は……何処だ? 広場かな? 多くの人達が騒いでる……でも知らない広場だね」
2枚目の窓には知らない広場に多くの兵達や民衆が騒いでいる姿が見えた。 ここからは誰の未来か知り得ることは出来なかった。
「あれ? この人は……あ! 黒騎士団の団長デランさんだ! お世話になったんだよ……ね? 誰かを抱えて泣いてる?」
3枚目の窓には帝国へと向かう道中に世話になり、仲良くなった黒騎士団の団長デランが映っていた。
他の2枚とは違い、映るデランは血だらけの鎧で誰かを抱きしめながら叫んでいた。
その頬からは血か涙が区別出来ない物が伝っている。
『さぁ、マリ選んで。 でも……覚悟してね。 あんたは、未来を変える力がある。 つまり……マリが動けば良くも悪くも未来は変わる。 選択しなかった未来で、どんな悲劇が起きるか知る術も無くなる。 今のマリでは……次に未来予知出来るのは当分先よ?』
ティナの言葉が重くマリにのしかかる。
「決めたよ、ティナ。 私は……」
必死に考えたマリは、選んだ窓へと歩みを進めた。




