第53話 アマンダ陥落
「ご、ご馳走さまでした~」
朝食のサンドイッチを完食したアマンダは正気を取り戻し、足早に牢屋から飛び出し鍵を掛けた。
それから直立不動でマリ達の見張りを再開したが、残念ながら色々と手遅れである。
昨日は飲酒を囚人として泥酔。 更にその場で熟睡し、起きたら牢屋の中へと招かれて朝食を平らげる。 もし、近衛師団の上司にこの様な失態が見付かれば今度こそアマンダはクビだ。
「だ、大丈夫、大丈夫、大丈夫よアマンダ。 バレなければいいのよ、落ち着いてー」
必死に深呼吸をして自らを落ち着かせようとしているのを、マリとメリーは何とも言えない顔で見ていた。
「あはは……良い人なのは分かるんだけど、私の見張りを任せて大丈夫だったのかな?」
「昨日……衛兵の雑談で少し耳にしましたが、どうやらアマンダはドワーフ工房の見張りだったのを左遷されて陛下の見張りを命令された様ですね」
「ふーん……じゃあ、昨晩話した通りアマンダさんは此方側に引き込んだ方が良いよね?」
メリーが頷くのを確認したマリは格子に近付き、計画を開始する。
「アマンダさん、朝食のサンドイッチは美味しかった?」
「は、はい! 人生で一番美味しいサンドイッチでした」
「それなら良かった。 今日も特に何もないならお喋りに付き合ってくれる?」
アマンダは周囲を確認し、格子へと近づく。
「も、勿論です! 他に所望される物がございましたら何でもお申し付け下さい」
それからマリはアマンダとの交流を深めた。
◆◇◆
暫く2人が雑談をしていると、地下牢へと降りてくる足音が聞こえる。
「不味いかも、アマンダさん見張りに戻って」
「は、はい!」
アマンダが直立不動の体勢に戻ると同時に1人の兵士が食料を運んで来た。
「おい、アマンダ技師。 ちゃんと不眠不休で見張ってんだろうな? もし、寝てたらぶん殴ってやるからな」
その兵士のアマンダへの態度は非常に悪意があり、マリは腹が立つ。
(はー? こいつ……見張りがアマンダさんだけなのは変だと思ってたけど、まさか……嫌がらせの為に? いじめ?)
「は、はい! 勿論不眠不休であります!」
この兵士が来てからのアマンダは力一杯に直立不動で緊張しているのが見てとれる。
すると、アマンダの足下に朝食という名の蒸した芋が転がされた。
「おい……アマンダ。 俺の目がおかしいのか? その辺の貴族の部屋より立派な牢屋が見えるんだが」
兵士は手に持っていた芋を床に落とし、両目を何度も擦って確認するが現実は変わらない。
「あ~……メリーさん、ヤバくない?」
「少しやり過ぎましたね~」
マリは顔をひきつらせ、メリーはのほほんと笑ってすませる。
「す、すみません!! 私がやりました!」
すると、アマンダが自分のせいだと言い始める。 これには、マリもメリーを驚き目を見開いた。
「あん? どういう事だ? お前、何をした!」
「い、いえ! 私はエントン王国の女王陛下が所望した物を手配する様に命じられていましたので! め、命令の通りに実施しました!」
兵士に凄まれても、アマンダは決して引かない。
「……ちっ、ならいい。 でもな、敵国の女王だぞ? 何でもかんでも聞いてんじゃねぇぞ、この役立たずが!」
兵士はアマンダの頬を籠手を装備したまま殴る。
「ぐっ! ……も、申し訳ありません」
倒れたアマンダの下敷きになった蒸した芋が無惨にも潰れる。
それを見た兵士は更に苛立つ。
「てめぇ……! 折角、俺が持って来てやった飯を! アマンダ、お前の飯な今日1日それだけだ! 必ず食え「おい、お前!!」
兵士がニヤニヤしながらアマンダの顔を踏みつけていると、背後から怒号がとんだ。
「はぁ? 何だよ、敵国の女王へい……ひっ?!」
兵士は顔面蒼白になり、身体をガタガタと震わせる。
その様子をアマンダは不思議に思い顔を上げると、牢屋の格子に鬼の形相でしがみつくマリの姿があった。
「おい、よく聞けよ? 其処のアマンダさんは、敵国の女王である私に凄く良くしてくれてるんだよ! それを何なんだお前は? メリーさんに頼んでその首切り落としてやろうか? あぁん!?」
目が金色に光り、華奢な小女と思えない殺気を放つマリに兵士は恐れおののきその場で崩れ落ちた。
横を見れば、さっきまで牢屋に入っていた筈のメイドが笑顔で立っている。
「ひ、ひぃぃぃ! わ、悪かったよ! くそ、二度とこんな所来ねぇからな! 飯は自分で何とかしろよ!」
兵士は這いながら階段を駆け上がっていく。 その様子をマリは獰猛な獣の様に唸りながら睨んでいた。
「二度と来るなよ! この三下がぁー!」
「陛下、落ち着いて下さい。 アマンダさんが驚かれてますよ?」
メリーに宥められ、マリは深呼吸する。
「はー、ふー、アマンダさん!」
「は、はいっ!」
マリに呼ばれたアマンダは急いで立ち上がり、マリの前で直立不動となる。
「私の王国に来ない?! めちゃくちゃ優遇するし、私の王国で働いて欲しい」
いきなりのスカウトにアマンダは驚くが、やんわりと首を横にふる。
「お、お気持ちはとても嬉しいです。でも、私何か迷惑かけるばかりだと思います。 す、すみません」
「ダメ! さっき雑談の時に言ってたじゃん! 天涯孤独何でしょ? 近衛師団に入れる力があるんでしょ? 何より、貴女は私達を守ろうとさっき庇ってくれた。 だから、貴女が欲しい」
マリは、同性のアマンダが赤面する程に口説くがまだアマンダの心を動かせる程では無い。
しかし、メリーが止めをさす。
「アマンダさん、ちなみにですが……エントン王国に来れば先程の様な食事が普通に食べれますよ?」
「い、行きます! お世話になりますマリ陛下!! 私の忠誠を全て捧げます!」
アマンダのあまりの変わりようにマリは苦笑いを浮かべた。




