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第48話 ゴルメディア帝都到着

 大砦を出発し早2日が経った。


 多くの黒騎士団に守られたマリ達一行は、盗賊等に襲われる事も無く無事に帝都へと到着した。


 道中、幾つかの村や町に寄ってから帝都に到着したマリの機嫌は最悪だ。


 「ねぇ、メリーさん。 帝都は凄く活気があるんだね」


 「左様ですね、陛下。 道中の村や町の人々は……まるで奴隷の様に働いていのに」


 メリーの顔も歪む。


 「やはり……また腐敗しましたか」


 メリーがぼそりと呟いた言葉は、街並みを傍観するマリの耳には届かなかった。


 馬車の窓から見えるゴルメディア帝国の帝都は分厚い黒檀の壁で囲まれており、中で住む帝国民達は平和に暮らせている様だ。 石造りの家々が並び、広場に続く石畳の道には露天や多くの市場で溢れていた。


 帝国民達は皆笑顔だ。

 綺麗な服を着て、楽しそうに買い物や仕事をしている。


 道中の村や町の悲惨振り等、自分達には関係無いと言わんばかりの光景にマリは歯ぎしりをした。


 「陛下、歯が傷みますよ?」


 「うん、そうだね」


 (なんだろう、この気持ち悪さは。 乙女小説で読んだ時はこんな落差が有る帝国とは描写されて無かったのに。 いや……エナさんとヘタレ皇子が帝国を奪い取る迄はこんな感じだったのかな)


 もし、そうであればこの光景は変わらないだろう。 もうエナはこの世に居ないのだから。


 馬車が暫く帝都を進むと、黒檀を惜しみ無く使用した立派な城が見えてきた。


 実際は帝都に到着して、正門を過ぎた時点で遠くに見える程に大きかったのだがマリは町と帝都の落差でそれどころでは無かったのだ。


 帝城の入り口に到着し、マリ達は馬車を降りる。 周囲には黒騎士団達と団長デランが待機していた。


 デランが改まり、マリに初対面の時とは裏腹に優しい瞳で話し掛ける。


 「到着早々でありますが、自分は先に向かい報告して参ります。 これよりは、帝城を守る近衛師団に護衛の任を任せないといけません。 私達がお守りするのは此処までとなりますが、道中女王陛下の護衛が出来た事光栄でした! 王族調停……ご武運をお祈りします。 皆、マリ女王陛下に敬礼!」


 「「「「また飲みましょう!」」」」


 デランが畏まった敬礼をするが、残念ながらこの道中で飲み仲間になってしまった黒騎士団達はマリに親しい友人の様な挨拶をした。


 数千の黒騎士達と毎日飲み明かしたのはマリの良い思い出だ。


 「おい?! お前達!! すみません……」


 団長の命令を無視されマリに頭を下げるデランを見て、メリーは苦労人だなぁと少し優しい瞳で哀れむ。


 「ふふ、ありがとう皆! また必ず飲もうね! デランさんも本当にありがとう、頑張るね!!」


 マリは笑顔で黒騎士達に別れを告げ、報告を受けた近衛師団に連れられ帝城へと入っていった。


 ◆◇◆


 「で……何でまた牢屋に?」


 「何故でしょうか……? まだあのヘタレ皇子は到着してない筈ですし……」


 何故かマリとメリーは帝城の牢屋に入れられていた。


 最初は別々の牢屋に入れられていたのだが、メリーが普通に抜け出しマリの牢で何処からか出したテーブルや椅子等で牢屋を模様替えしている真っ最中である。


 「メリーさんが色々と出すのに馴れてきてる自分がちょっと怖いかも。 あ、この紅茶美味しい」


 「ふふ、それはようごさいました。 何でも馴れれば気にならないものです。 あ、絨毯を敷きますので足をすみません」


 マリが両足を上げると、真っ黒の床がふわふわの赤い絨毯に変わる。


 「なんと言う事でしょう! 匠の手により、無骨で固い石畳がふわふわの絨毯にー!」


 「ふふ、それは何ですか? 面白い話し方ですね」


 メリーはマリの笑顔に安堵する。

 マリのこんな調子を見るのは本当に久し振りだ。 多くの貴族を処刑し、改革のせいで戦争まで起きた時のマリは……壊れない様に必死に作った女王を演じていた様にメリーは感じていた。


 実際はその通りである。

 エナの件からマリの精神は安定した。


 エナに肯定された事、エナが己の命すら捨ててマリが目指す未来の方が幸せだと言ってもらえた事が起因している。


 当然、エナを死なせてしまった事がマリの心を苦しめるが、エナの為にもルーデウスの為にも王国の為にも立ち止まっている暇等無いのだ。


 「あはは、なんだろね~」


 マリとメリーの穏やかな時間を、止める事も出来ずに見ていた、見張りの近衛師団の兵が声を荒げる。


 「な、ななな、なぁ!? 一体何が起きたの?! 一瞬で黒檀の牢屋が豪華な部屋に!? 待って、そのシャンデリアは何処から出したの!?」


 白い鎧を身に纏った女性の兵士が牢屋の柵にしがみつき、驚愕の声を上げた。


 「お姉さん、お名前は?」


 マリに問われ、一瞬警戒した女性は佇まいを直し名乗る。


 「じ、自己紹介が遅れ申し訳ない!わ、私はマリ女王陛下が滞在中、この牢屋の見張りを命じられた近衛師団所属のユーリア フォル アマンダと申します! 滞在中、何かご所望が有れば何でも申し受ける様言われております!」 


 白兜を被っている為に顔がはっきり確認できなかったが、兜の隙間から茶髪が見えた。


 (ふむ……陛下への扱いは最悪ですか、一応の配慮はして下さるのですね)


 メリーに品定めされる様に見られているアマンダは身震いをする。


 「初めまして、アマンダさん! エントン フォル マリです。 こっちのスーパーメイドはメリーさんです。 よろしくね!」


 明るい笑顔でマリは牢屋越しにアマンダへ握手を求めた。


 「は、はい。 よ、よろしくお願いします」


 アマンダは心中でマリの狙いを考えていた。 この最悪で最低な扱いを受けて怒らない王族等居る筈が無いからだ。


 (もしや……私と親密になって牢屋から普通の部屋に変えさせようと? いや、私の様な下っ端と仲良くなっても無理ですよ?!)


 アマンダが狼狽えながらもマリと握手をすると、マリが笑顔のまま言う。


 「アマンダさん、早速所望したいんだけど……いいかな!?」


 「は、はい! な、なんでしょう……」


 「この帝都で一番美味しいお酒とカステラを下さい!!」


 「む、むり……はい?」


 アマンダの呆けた顔に思わずメリーは苦笑したのであった。

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