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第46話 予言の巫女エナ

 大砦に到着後、アバン皇子の命令で地下牢にドナドナされたマリ達は牢屋の中で休んでいた。


 冷たい石畳がひんやりとして気持ちいいとマリが横になると、メリーから叱りの声が聞こえる。


 「陛下ー!? 何てはしたない事を! ちゃんと椅子に座ってくださーい!」


 地下牢に多くの牢屋が並び、マリから数個離れた牢にメリーは入っていた。


 「え~、ずっと馬車の中暑かったんだからこれぐらい良いじゃーん。 ねぇ? デランさん」


 隣の牢に話しかけると、ゴルメディア帝国最強の黒騎士団団長デランが項垂れている。


 「そんな……アバン皇子、何故このような事を」


 残念ながら、マリの声は届いていないようだ。


 大砦の廊下で突如味方に囲まれ、更にゴルメディア帝国のアバン皇子に地下牢送りにされたのだ。 項垂れるのも無理は無いだろう。


 「あーーー……気持ちいい。 でも、この地下牢広いのに全然人が居ないんだね~」


 マリがメリーの怒りを無視して石畳でゴロゴロしていると、牢の扉が開いた。


 「陛下! 年頃の女性がその様な事をしてはいけません!!」


 入って来たのは別の牢屋に入れられていた筈のメリーだった。


 「ほえ? メリーさん、どうやって出たの!?」


 「メイドの嗜みでございます。 それより! さっさと立つ!!」


 「はい!」


 メリーに服の汚れを落とされ一通り説教が終わった後、地下牢へと降りて来る音が聞こえた。


 薄暗い地下牢に階段から降りてくる音が響き渡る。


 「失礼する。 さて、エントン フォル マリ女王よ……ついてこい。 ん? 其処のピンクの髪のメイドは別の牢屋に入れさせた筈だが?」


 降りてきたのは黒髪の青年、ゴルメディア帝国皇子アバンだった。


 「貴方の部下が間違えたのでは? 私が陛下のお側に居るのは当然ですし、何か問題でも? それより、陛下をどちらに連れて行かれるおつもりですか?」


 メリーはアバンの事が心底嫌いなのだろう。 言葉の端々に嫌悪を感じる。


 (アバン皇子……乙女小説に出てくるキャラと性格が全然違うんだけど?! メリーさんもいきなり私達を牢屋に入れたから敵対心剥き出しなんですけどー?)


 マリが殺伐としたこの状況に困惑していると、アバンがため息を吐き再度マリに向けて殺気を放つ。


 「ふっ……まぁどうでもいいか。 さっさと来い、マリ女王。 私が直々に拷問してやる……エナの痛みを少しでも味合わせないと私の気が済まないからな!」


 アバンの言い分に全く身に覚えの無いマリだったが、エナという言葉には聞き覚えがある。この世界を元にした乙女小説の主人公の名前がエナなのだ。


 「何を訳の分からない事を! 触るな下郎! 陛下、私の後ろに!」


 「アバン皇子何をされているのですか! エントンフォルマリ女王陛下は、王族調停の法に守られています! 例え、皇子と云えど女王陛下に手を出す事は女皇帝陛下に弓引く事と同じですぞ!」


 メリーがマリを背中に隠しアバンから守ろうと庇う。 隣の牢からは正気を取り戻したデランが必死にアバンを説得し始めた。


 「うるさい! 黙れ黙れ黙れ! お前のせいなんだ! お前が、お前が無能の女王じゃ無かったせいで! エナは、俺の最愛のエナが!」


 「くっ、仕方ありません。 陛下に仇なすのならその首跳ねてあげましょう!」


 アバンは髪の毛をかきむしり、マリをひたすら睨み付ける。そして腰に差した剣を抜き放ちメリー諸とも斬り付けようとした。


 メリーも即座に動き、手刀でアバンの首を跳ね様とした瞬間、アバンの背後から別の人物が待ったをかけた。


 「其処まで!! おい、守衛よ皇子はお疲れのご様子。 私室にお運びせよ!」


 「「はっ!」」


 降りてきたのはゴルメディア帝国宰相のブラックだ。


 大砦に到着した際に、不躾に馬車の扉を開け放ち無礼を働いた老人である。


 「おい! ブラック! 貴様、私を誰だと思っている! くそぉ! マリぃぃ! 必ず地獄に落としてやるからなぁぁ! 必ずだぁぁぁぁ!」


 兵士に両腕を羽交い締めにされたアバンは連行され、宰相のブラックだけが残った。


 「ブラック殿! かたじけない、感謝します!」


 デランがブラックに感謝を述べるが、ブラックの瞳はずっとメリーから離れなかった。


 「……首狩りメリー。 この名に聞き覚えはあるかね……お嬢さん」


 ブラックがメリーに問うと、メリーは静かに首を振って答える。その時の表情を背中越しのマリは見る事は出来なかった。


 「そうか、すまない……忘れてくれ。 さて、では私は失礼するよ。 おっと……デラン団長、明日には大砦を主発できる様に手配した。 我等の女皇帝陛下をお待たせするなよ?」


 「ブラック殿、かたじけない!」


 ブラックはデランに用件を伝えると、そのまま牢屋を去ろうとしたがマリがそれを止めた。


 「あ、あの! 聞いても良いですか?」


 「……何かな?」


 静かにゆっくりと振り返る不気味な姿に寒気をするが、必死に堪える。 マリはどうしても聞かねばならないのだ。


 「エナという少女に何があったのですか?」


 そう、先ほどアバンの口から出た乙女小説の主人公エナの事だ。 マリは時系列的には、まだアバンとエナは恋人同士になったばかりの筈だと思っていた。なのに、アバン皇子にマリのせいだと拷問をされそうになり。 ましてや、会った事も無かったアバン皇子に恨まれる覚えも全く無い。


 ブラックは答える代わりに、牢屋の1番奥を指差しそのまま階段を上がって行った。


 知りたいなら奥に行け、という事だろう。先程のやり取りの後から牢の鍵は開いたままになっており、守衛が閉めに来る事が無いのなら今は牢を出ても咎められはしないだろう。


 「陛下、ご無事ですか?」


 「ありがとうメリーさん。 牢屋の奥に行かないと……付いて来てくれる?」


 「仰せのままに、陛下。 デラン殿、直ぐに戻ります」


 「ええ、何度もご迷惑をお掛けしている身です。 お好きになさって下さい」


 デランの許可を取り、2人は牢屋の奥へと進む。


 薄暗い地下牢に備えられた松明が煌々と燃えている。幾ばくか奥へと進むと突き当たりの牢屋が見えてきた。


 「陛下、お待ちを」


 メリーに止められた。 声色に少し動揺が混じっているのをマリは感じとり素直に牢屋の入り口で待つ。


 「ぐっ!? な、何て酷い。 ……え? ……はい……そんなっ……分かりました」


 薄暗い牢屋からメリーの声がぼそぼそと聞こえる。


 「陛下、お入り下さい。 陛下のお探しの人物がこの先に居ます」


 メリーから怒気や悲しみ、察するに余る感情の波をマリは感じ取った。


 「お邪魔しますー……エナさん?」


 恐る恐る牢に入る。石畳は何やらヌルヌルしており油断すると転倒しそうだ。


 「メリーさん、灯りが無いと見えないよ」


 マリがメリーに助けを求めると、何かを躊躇したメリーが壁に掛けてあった松明を手に牢へと入ってきた。


 「ぁぐ……」


 やっと部屋が灯りで見える様になったその時、微かな声が聞こえた。


 それは……足下からだった。


 「え……エナさん!? 酷い、酷すぎる! どうしてこんな……!!」


 マリの足下に何も身に纏わず身体中が生傷だらけの少女が血の海に倒れていた。


 素人のマリが見ても、死んでないのが不思議な程に重傷の少女を服が汚れるのも厭わずに抱き寄せる。


 「メリーさん! 早く治療を! 早く!」


 涙を流しながらマリが懇願するが、メリーは静かに首を振った。


 もう、手遅れだと。  

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