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第43話 援軍の到着

 エントン王国の王都、南の城壁で最後の決戦が開始された頃。


 近くの平原まで800程の騎馬隊が迫っていた。


 「おい、お前達! もっと早く駆けろ! 私の訓練を忘れたのか?!」


 激を飛ばしながら先頭を駆けるのは、エントン王国最強の騎士ルニア辺境伯だ。


 フルプレートの分厚い鎧を身に纏い、背中には大人程の大きさの大剣を背負っている。


 「「「「「「はい!」」」」」」


 その後ろを同じ鎧を身に纏い、槍や大斧にルニア辺境伯程では無い大きさの大剣を担いだ6名の女貴族達が必死に馬を走らせていた。


 この6名は、王都で燻っていた女爵達だ。 マリの改革の一環で、ルニア辺境伯の元に付き地獄の特訓を受けていた。だが、この6名は元々好戦的な貴族だった為地獄の特訓を喜んで受けている。


 貴族達の後ろを、ルニア辺境伯の精鋭軍が追従していた。


 「はははは! 見えたぞ! まだ王都は陥落していない! ルカの想定通りだな、流石私の息子だ。 お前達! このまま城門前の敵を蹴散らすぞ! 皆殺しにしろぉぉぉぉぉ!」


 ルニア辺境伯が大剣を掲げ、城門に群がる敵へと突っ込む。


 「「「「「「敵を殺せぇぇ!皆殺しだぁぁぁぁ!!」」」」」」


 女貴族達もそれぞれの武器を構え、獰猛な笑みを浮かべる。怯えは一切無く、あるのは鍛えられた自分の力を敵にぶつけたいという殺意だけだ。

 

まるで、水を得た魚の様な主と女爵達に配下の騎馬兵達は苦笑いを浮かべていた。


 ◆◇◆


 援軍として到着したルニア辺境伯達は直ぐ様南の城門前を掃討し、味方へと合流を果たしていた。


 それでも敵は攻勢の手を止めない。城壁に群がり、何度梯子を落とされても攻め寄せている。


 「おや、また男前が上がりましたね。 我が夫」


 ルニア辺境伯が馬上で大剣に付着した血を振って落としながら、城門から出てきた傷だらけの騎士団長ボルガスを見て微笑む。


 「がははは! 戦傷は男の誉れよ! しかし我が美しき妻は、やはり戦場が良く似合うな。待っていたぞ……ルニア」


 ボルガスが漆黒の鎧の胸を叩き、敬愛を示す。


 「ふふっ、貴方が世辞とは……本当にギリギリだったかしら?」


 「いや? お前が来るまで暇を潰しておっただけだ」 


 軽口を叩きながら2人は馬を並べる。


 「さて、我が夫。 久しぶりにデートに行かないか?」


 「ほう……たまには良いのう。 何処に行く?」


 ボルガスがニヤリと笑う。


 「当然……」


 ルニアも笑い、周囲で近寄る敵を斬り殺している女爵達や配下の兵士達も笑顔だった。


 「敵の本陣へ!! さぁ、皆! 手柄が欲しいか? 敵を殺したいか? 仲間を守りたいか? ならこの赤い死神に付いて来い! 全てくれてやる! 行くぞぉぉぉぉ!」


 ルニアが大剣を高々と掲げ、敵本陣に向けて突撃を開始する。 隣には同じく大剣を構えた騎士団長ボルガスが続く。


 「騎士団! 最後の意地を見せよ! 辺境伯の精鋭に負けぬ力を見せよ! 我等こそエントン王国の守護者なり! 続けぇぇぇ!」


 「「「「うぉぉぉぉっ!」」」」


 残存する騎士団200名の騎馬兵と辺境伯軍の騎馬兵800名が鋭い槍の様に敵を貫く。


 「「「「「「ひゃっはぁぁぁぁ!」」」」」」


 まだまだ元気な6名の女爵達も、意気揚々と敵の本陣へと突っ込む。


 その様は、敵からすると狂暴な化け物達の様に写った事だろう。


 ◆◇◆


 ルニア辺境伯達が敵本陣に突撃を開始した時、城壁上での戦闘も激しくなっていた。 敵が最後の力を振り絞り猛攻撃を仕掛けてきたのだ。


 「援軍が騎士団と合流! 敵本陣へと突撃して行きました!」


 城門からの伝令に兵士達から歓声が上がる。


 「気を抜くな! まだ敵は攻めて来ておる! おい、近衛兵達は騎士団が抜けた城門を守れぇ!」


 「はっ! おい、行くぞ!」


 敵の頭を蹴り砕きながらウォンバットが指示を飛ばすと、生き残っている近衛兵達が城門へと走る。


 「おい坊主! 後輩達じゃ頼りねぇ! 儂等も行ってくるわい!」


 その後ろを元重近衛兵の老人達が追う。しかし、城壁上もかなり劣勢だ。 敵は本陣が攻撃されるのも構わず此方を攻めてきている。 このままだと、敵本陣が落ちる前に城壁が取られるだろう。 その場合、また広場まで押し込まれてしまう。


 「執事長! 税務管殿が大精霊魔法で敵を押し出すから一旦下がって欲しいとの事だ!」


 嫌な予感にウォンバットが冷や汗をかいていると孫のジャックが駆けてきた。


 「爺ちゃんと呼べジャック! ほぉ、大精霊魔法か。 お前達! 一旦下がるぞぉ!」


 ウォンバットの指示に従い、城壁の縁から味方が急ぎ離れる。


 「殿下もお早く!」

 

 「は、はい!」


 ジャックに連れられたルーデウスが避難したのを確認し、ヨハネが魔法を唱え始めた。


 「風の大精霊、気難しい大精霊、古き友の私が願う。私の仲間を救っておくれ、同じ精霊を苦しめた悪俗達を退けておくれ、大旋風!」


 ヨハネの周囲に突風が吹き荒れ、城壁の上をまるで大きな手が凪払ったかの様な衝撃が走る。


 「な、なんだ?! 風が、風が俺の足を掴んだ?! ぎゃぁぁぁぁ!」


 敵兵士だけを掴んだ風が城壁の外へと向かって吹き荒れた。


 「「「「「助けてくれぇ! ぎゃぁぁぁぁ!」」」」」


 敵兵達と掛けられた梯子も全てが吹き飛ぶ。


 「よし、今だ! 仕切り直しじゃ! 梯子をもう掛けさせるな!! 耐えれば勝つぞ!」


 「「「「うぉぉぉぉっ!」」」」


 ヨハネの精霊魔法で士気が回復した味方の兵士達が城壁の防衛に戻っていく。


 「ありがとうキサラギさん! おかげで……キサラギさん?!」


 ルーデウスがその様子を見ながらヨハネに感謝を伝えるが、ヨハネは膝を付き息を荒げていた。 顔も真っ青で大粒の汗が滴る。


 「税務管殿?! おい、ヨハネ! しっかりしろ!」


 ルーデウスの異変に気付いたジャックもヨハネを支えるが、ヨハネの身体からは完全に力が抜けていた。


 「ふふ……すまない。 こんなに短時間で精霊魔法を使うのなんて随分久しぶりだったからね。 暫く動けそうもないかな」


 ジャックに支えられたまま気絶したヨハネは味方の兵士に後方へと運ばれて行く。


 昨日から精霊魔法を使い続けたヨハネの身体は既に限界を迎えていた。 通常の魔法使いであるエルフ達の中でも最強の魔力を有するヨハネだからこそ可能だった事だ。


 普通のエルフだったら、数回精霊魔法を使用すれば休息が必要となる。

 

 ヨハネのお陰で立て直せたエントン王国側は再度奮起し、徹底的に城壁から敵を落とし続けた。


 それから数十分後。


 「ルーデウス殿下に伝令! 伝令ー!」


 城門に味方の騎馬が駆け寄り、大声で叫んだ。


 「ルニア辺境伯夫妻、精鋭の騎馬隊により敵本陣陥落! 敵総大将のキャット女王とドック女王の首を落としました!」 


 赤い死神が到着後……僅か1時間で敵本陣が陥落したという報告が届いた。

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