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第38話 マリとメリーの旅立ち

 「うーん、ひくっ、メリーさん終わった~?」


 話し合いが終わって数時間後、ゴルメディア帝国側の準備した馬車に荷物を積んでいたメリーにマリは問い掛けた。


 ちなみに、話し合いが終わった後もクピクピとお酒を飲んだマリはまだ酔っぱらい女王のままだ。


 「はい、陛下。 ではそろそろ……」


 メリーに促され、マリは馬車へと乗り込む。 馬車の周囲には黒騎士達が取り囲み、出発を待っている。


 帝国側の他の兵士達は、王族調停をする事が決まった時点で撤収を始め故郷に向けて帰路に付き始めている。


 「ふへー……凄い行列だね。 ひくっ、まさか本当にこんなにあっさり戦争が止まるなんてね」


 当初は黒騎士団以外の隊長達が撤退を反対したが、団長デランからの一括で押し黙り渋々帰路に付くことになったのだ。


 王族調停での人質がマリ女王本人なのも有利に働いた。 目的の1つが犠牲無く達成できると知れば、兵士達も納得しやすい。


 兵士と云えど、無駄死にはしたくは無いのだから。


 どのみち王族調停が終了するまでゴルメディア帝国は手を出せない。 もし出せば、他の人間族の国全てから非難されるだろう。 最悪全ての国を相手に戦争となればゴルメディア帝国と云えど負ける可能性が出てくる。


 それに数万の兵士達を待機させるのに消費される食糧等の問題もあった。


 結果、数時間で結論を出しゴルメディア帝国軍撤退を英断したデランは正に英雄だろう。

 

 マリが馬車の窓から顔を出し、暢気に風邪に当たっているとルカが馬車へと近付いてきた。


 「陛下、メリーさん……どうかお気を付けて」


 「うん、ルカも王国を……ルーたんをよろしくね。 ひくっ、皆をお願いね~」


 「承知しております、陛下。 大臣の名に恥じない働きをお約束致します」


 ルカが深々とお辞儀をすると後方に待機していたアーサー達も一斉に頭を下げる。


 「女王陛下……どうかご無事で!」


 「アーサー君も、ルーたんの事よろしく~。 お姉ちゃん頑張って来るから、帰ったらまたクッキー焼いてって伝えて~! あ、お土産のカステラも楽しみにしててねー!」


 アーサー達の顔は悲哀に満ちていたが、忠誠を誓う女王からの暢気な言葉に苦笑いを浮かべた。 きっと、この女王なら平気なのだろうとアーサーは笑う。


 「ごほんっ! それでは、エントン王国女王陛下をゴルメディア帝国の帝都まで護送する。 黒騎士団出発!」


 デランが指示を飛ばすと数千の黒騎士達が帝国へと進み始めた。マリ達が乗っている馬車は列の中央に位置し、かなりの大行列になっている。


 「デラン殿! 敵ではありますが……どうか陛下をお頼みします!」


 去り際にアーサーが叫ぶと、遠くなるデランは何も云わずに頷くのみであった。


 ◆◇◆


 マリとメリーがゴルメディア帝国へと向けて旅立ち数時間が経過した。


 城の会議室にルカとアーサーは城の後始末に追われている。


 「ルカ様、メリー殿より命令されておりました負傷兵の治療はほぼ完了致しました!」


 「ありがとう。 この城までの帰路も苛酷だったのに関わらず、徹夜で任務を全うしてくれた事本当に感謝します。 どうか、暫し休んで下さい」


 「私からもお礼を言わせて下さい。 領主として、本当に感謝しております」


 マリ達をアーサー城まで護衛していた兵士達がルカとアーサーに報告をしていると、突如城の外が騒がしくなる。


 その後直ぐに味方の伝令が駆け込んできた。


 「伝令! 伝令ー! ルカ様は居られますか!?」


 直ぐに会議室に通され、ルカの元へと急ぐ。


 「ここだ! 君は母の元の兵士だな。 伝令を聞こう、アーサー子爵や皆も聞いてくれ」


 伝令の表情を見る限り良き報告だとルカは確信する。


 「ぜー、ぜー、ガルーダ フォル ルニア辺境伯率いる援軍が無事に到着し、敵総大将のキャット王国女王とドック王国女王を討ち取りました! エントン王国は無事です!!」


 「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


 伝令の言葉が終わると同時に城に居る兵士達から喝采が上がる。 多大な犠牲を出したが、黒幕であるゴルメディア帝国を撤退させ、王都に攻め居る敵の総大将を打ち倒したのだ。 歴史に残る程の勝利と云える。 しかし、この城の領主だけは押し黙っていた。


 「はははは! 流石、我が母だ。 ほんの数時間で敵総大将を2人も討ち取るとは! アーサー子爵殿、やりましたよ! これで、もう1つの計画が無事に進めばこの戦争は完全勝利です!」


 自分の計画が上手く進み、ルカは有頂天になったが直ぐに後悔する事となる。


 「はい……。 ですが、女王陛下が御身をゴルメディア帝国に差し出しての勝利です。 救出する計画がルカ殿にはあるのでしょうが……私は手放しでは喜べません」


 馬車や兵士達が既に見えなくなったゴルメディア帝国側をアーサーは涙目で見つめながら呟いた。


 「……そうですね。 では、陛下を救出し全てを終わったら国を上げて盛大に祝いましょう。戦死した仲間達の為にも。 それに…… お土産のカステラも楽しみですしね」


 ルカの言葉にアーサーは苦笑するばかりである。

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