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第35話 女王の正体

 ジャックが城の前に到着すると、辺りは騒然としていた。


 「私達を守ると言ってくれた陛下が偽者だったらしいぞ!」


 「そんな! じゃあ、城壁の上で戦っていたのは誰なの?!」


 「俺は見たぞ……アレはルーデウス殿下だ。 陛下は……俺達を見捨てたのさ!」


 「「「「あの陛下が?!」」」」


 城の入り口に居た民衆が何やら騒いでいる様だ。1人の兵士の発言からパニックが広がり始めた。


 ジャックは直ぐ様その兵士に近寄り、胸ぐらを掴み上げる。


 「さて、見ない顔だね。 新人かな? 少し……話を聞いても良いかな?」


 「あっ? あんた誰だよ……うぎっ?!」


 パニックを引き起こした原因の兵士は、額に青筋を浮かべたジャックに胸ぐらを掴まれたまま城の中へと連行されるのであった。


 ◆◇◆


 城の中にも民が溢れていた為、ジャックは人気の無い倉庫で兵士の尋問をしていた。


 「……なるほどな。 状況は把握したが、お前は何故其処まで理解していてあの様な話を民にしたんだ? あぁ?!」


 倉庫の壁に押し付けられた兵士は俯き、ぼそぼそと呟いた。


 「だって……どうせ此処でルーデウス殿下が手柄を取っても王位に就くことは無いじゃないか。 それなら、女王が逃げたと言えば民の信頼は殿下に向くと思ったんだ!」


 本心を打ち明けた若い兵士は己の死を覚悟していた。 女王を排斥し、男のルーデウスに王位を取らせようと企む等、即刻死刑に値するからだ。


 「お前……いつ兵士になった」


 怒鳴られると思った兵士は、ジャックの優しい声に驚き顔を上げた。


 「み、3日前です。兵士に志願する前は、図書館で働いていました」


 そう、この若き兵士は図書館に通い勉学に勤しむルーデウス殿下を見てエントン王国の王位に就くに相応しいと感じたのだ。


 「ふー……そうか、殿下の聡明さを図書館で見たんだな。 殿下を慕っているからこその判断なんだな?」


 「そうです……覚悟は出来てます」


 「お前はまだ知らないだけだ……変わった陛下の事を。 お前が排斥しようとしている女王陛下は、南のアーサー男爵の城に向かわれた。 何故か分かるか?」


 ジャックの問いに兵士は頭を悩ませる。


 「……南に? 北に居た筈なのに、何故? 本当に逃げたなら、北から戻ってくる筈が……」


 マリが逃亡した事前提で考える兵士にジャックはため息を吐く。


 「はぁ……だからさっき言っただろ、お前は知らない。 殿下があれ程に努力家なのは、姉であるマリ女王陛下の影響なんだよ」


 「へ?! そんな……信じれない」


 マリがこの場でジャックの話を聞けば、若い兵士と同じく「信じれない!」と叫ぶ事だろう。


 「もういい、さっきの答え合わせだ。 陛下が南に向かっているのはゴルメディア帝国を止める為だ。 2国との戦争は明日には終わる……だが、帝国の方が先に援軍として参戦すればエントン王国は滅ぶだろう」


 「はは……止めるたってどうやって? はっ! まさか、王族調停をしに?! 馬鹿な、そんな事をすれば女王陛下は……」


 王族調停とは、人間が絶滅する程に殺し合わない様に定められた古き法だ。 互いの王族を人質として出し合い、引き換えに平和を手にする。


 しかし、現状はエントン王国が非常に不利だ。 それこそ、差し出す王族は女王本人以外にあり得ない。


 そんな突拍子も無い話に笑う兵士だったが、ジャックの真顔にこの話が真実だと悟った。


 「そんな、そんな事をすればエントン王国の未来が……」


 「だから、殿下にお会いしなければならない。 お前、名前は?」


 「え? あ……はい、歩兵隊所属のカリーです」


 「よし、カリー。 さっきの話を民に広げろ。 盛大にな? そして、殿下からの発表を待て」


 「はいっ!! 必ず、必ず広めます!」


 走り去るカリーを見送ったジャックは城の上階を見やる。


 「さて、これからが正念場……ですかね」


 身なりを整え、手紙を持ったジャックはルーデウスの元へと向かった。


 ◆◇◆


 「此処を開けろ!」


 「女王は何処なのよ!」


 「「「「俺達は見捨てられたのか?!」」」」


 女王の部屋の前には多くの民が詰め掛け、扉を叩いていた。


 不満や不安が爆発し、民達が暴徒と化すのも時間の問題だろう。


 「ここに殿下が居るのか……善良なる民達よ! 退いてくれ!! 女王陛下からの伝言を殿下に届けさせてくれ!」


 通路でジャックが叫ぶと、民達は振り向き左右に開けた。


 「ジャック殿だ」 「殿下お付きの執事だ」 「女王からの伝言だって?」 「おい! 道を開けろ! 早く!」


 開けた通路をジャックは歩みながら民達を説得する。


  「すまない、この後殿下からお達しがあるだろう。 どうか、それまで待ってくれ。 女王陛下を信じて欲しい」


 先程まで暴徒になる勢いだった民達は冷静になり、静かにジャックが部屋に入るのを見送った。


 コンコンコン


 「ルーデウス殿下、ジャックです。 御無事ですか? うぉっ?!」


 ジャックが名乗ったと同時に扉が開き、部屋へと引き摺り込まれてしまった。


 ドッゴォォォォンッ!


 部屋の壁へと叩き付けられたジャックは、そのまま床へと落ちる。


 「……ぐっ、御無事で何よりです殿下。 それと……執事長」


 「お帰りなさいジャック、ごめんなさい止めたのですが」


 「じいちゃんと呼べ!! この糞戯け者がぁぁぁっ!陛下をこの戦地へお連れするとは、馬鹿者めがぁぁぁっ!!」


 部屋のベッドにはルーデウスが横たわり、すぐ側では医者が懸命に治療をしている。


 ルーデウスは怪我を負ったのか、頭に包帯が巻かれ血が滲んでいる。


 しかし、様子を見る限り命に大事は無いようだ。


 そして、元気ハツラツにジャックを投げ飛ばしたウォンバットは身体中が焼け爛れ執事服の殆どが焼けていた。 

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